2020年5月号
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デジタル時代の経営者

AIには「人間」が不可欠 料理レシピを提案するAIが与える示唆

一條 和生(事業構想大学院大学 特別招聘教授)

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味覚という、人間ならではの感覚がものをいう料理の分野にもAIが参入した。IBM社の新しい食材の組み合わせを考え、レシピを提案する「シェフWatson」だ。AIの支援を、どのように事業に組み込むかを考え、決めるのが人間の経営者の役割になる。

キッチンでシェフWatsonを使って新しいレシピを考案する

AIが考えるオリジナルレシピ

2011年、米国で、新しい料理の考案にAIを使うプロジェクト「シェフWatson」が始まった。同プロジェクトは、これまで人間が行っていた業務でAIが様々に活用されようとしている中で、人間の付加価値、人間の知識創造活動のあるべき姿を考える上で重要な示唆を与えている1)

プロフェッショナルな調理の世界では、弟子が修行を通じて、長年の経験を経てシェフ、料理長が身につけた「味」に関する知識(それは身体に埋め込まれた暗黙知と言えるだろう)を、一緒に料理の場で仕事をしながら習得していくのがいわば常識だった。シェフないしは親方から弟子への料理に関する暗黙知の伝承は世の東西を問わず伝統なのである。したがって、弟子入りが料理人として1人前になるための必須のプロセスである。

IBMが開発した人工知能Watsonを活用することにより、それまでに人間が考えもつかなかったレシピを100種類も短期間で創造することができたというのだから驚異的である。果たしてそれはどのようなプロセスで実現したのであろうか。

シェフWatsonプロジェクトは、IBM社と米国で料理学校として高い評価を集めているAmerican Institute of Culinary Education(AICE)、米国の料理雑誌出版社であるBon Appétit社とのコラボレーションの産物である。IBMのWatson開発のプロジェクト担当者が、AICEの持つ3万5000ものレシピとBon Appétit読者の9000のレシピをWatsonにデータインプットし、深層学習を行った。食材、味覚、保存方法、料理のカテゴリー、色彩、食材の組み合わせ、栄養、賞味期限、食材の分子構造、各国や地域の食に関する文化的特性などのデータがインプットされ、Watsonに学習させたのである。

その上で、食材の成分組成、文化的な知識、食品組み合わせ理論などさまざまなデータセットを使用した一連のアルゴリズムを駆使し、これまでにない食材の組み合わせが考えられたのである。食材の組み合わせ、つまりレシピづくりにあたっては、「驚き」(Surprise)、「心地よさ」(leasantness)、「組み合わせの妙」(Pairing)が考慮され、こうしてそれまでに人間が考えたこともなかった100ものレシピが完成された。それらは、人間のシェフとは異なる視点、成分、組成から捕えられたレシピだった。

シェフWatsonのレシピは既にプロフェショナルの調理師によってレストランで、あるいは家庭で利用されている。主材料、その料理法、どこの地域風にするかをWatsonに入力すると、斬新性、材料間の相性、味や香りなどのポイントともに、主食材以外の材料の候補が提示される。今まで「芸術」の世界に属すると考えられていたレシピ開発を、AIで行うという新しい試みは、プロフェッショナルの世界でも受け入れられている。我が国でもクックパッドにおいてシェフWatsonの提案に基づいて料理研究家がそれまでに考えられなかったようなレシピ、新しい食材の組み合わせに基づいたメニューを考案している。

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