小池百合子・東京都知事 進化するTOKYO、世界一の都市へ

目前に迫る東京2020大会のレガシー創出に取り組むとともに、2040年代のビジョンを描き、その実現に向けた長期戦略を強力に推し進める東京都。「未来の東京」は、どのような姿になっていくのか。小池百合子知事に話を聞いた。

小池 百合子(東京都知事)

パラリンピックの成功なくして、
東京2020大会の成功はない

――東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を成功に導くために、どのような取組に力を注ぎますか。また、東京2020大会を通じて、どのようなレガシー(遺産)を創出されていくのかについて、お聞かせください。

小池 東京2020大会が東京で開催される2度目のオリンピック・パラリンピックであることは、大きな意義があると考えています。オリンピックとパラリンピックがセットで開催されたのは、1964年の東京大会が初めてでした。東京2020大会では、特にパラリンピックを契機として東京をよりグレードアップさせていきます。

東京都は、2019年3月に建築物バリアフリー条例を改正しました。歩道の段差解消、鉄道駅におけるホームドアやエレベータの設置、トイレの洋式化などハード面のバリアフリーを徹底すると同時に、心のバリアフリーを実現していきます。

パラリンピックの成功なくして、東京2020大会の成功はありません。成功の目安は何かというと、パラリンピックの会場が観客の皆さんで埋まること。パラリンピック観戦チケットの第1次抽選販売では、300万枚を超える申込がありました。パラリンピックで大成功したと言われている2012年ロンドン大会の約3倍の応募状況であり、とても好調な出足です。

世界で初めて2度目のパラリンピックを開催する都市として、パラリンピックの競技会場を満員の観衆で埋め尽くし、多くの人がパラスポーツの魅力を体感して理解を深めることを通じて、誰もが楽しめるコンテンツとしてパラスポーツを確立することは、大きなレガシーになると考えています。

また、東京2020大会は「復興五輪」でもあります。ギリシャで採火された聖火は宮城県に到着し、3月20日~25日までの間、宮城県、岩手県、福島県で「復興の火」を展示した後、3月26日に福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」で聖火リレーがスタートします。そして、東京2020大会は開会式前の7月22日、最初の競技として福島・あづま球場で女子ソフトボールが開幕し、同日には宮城スタジアムで女子サッカーの試合も行われます。

東京都として、被災地の子供たちを都内の競技会場に招待するなど、東京2020大会は、当初から掲げている復興への後押しという面でも意義のある大会になるよう準備を進めています。

また、東京は環境先進都市ですから、持続可能性にも最大限配慮した大会にします。それは、選手村の備品等で3R(リデュース・リユース・リサイクル)を推進することに象徴されますが、会場のみならず東京の街全体で、プラスチック削減や食品ロス削減など、環境配慮を徹底していきます。

1964年の東京大会は、その後の日本の高度経済成長につながりました。しかし、それは一方で、大量生産・大量消費・大量廃棄の時代への入り口にもなりました。時代は変わり、今求められているのは、成長は成長でも「持続可能な成長」です。加えて、人生100年時代と言われる成熟社会に突入しますから、成長と成熟の両立が大きなテーマとなります。東京都として、2020年のその先の展望についても、今から、しっかりと描いていく必要があります。

未来への夢を描き、そこから
今何をすべきかを考える

――東京都は2019年12月27日、2040年代に目指す東京の姿を示した20のビジョンと、2030年に向けて取り組む20の戦略をまとめた「未来の東京」戦略ビジョンを発表しました。なぜ、長期戦略を策定されたのですか。

小池 およそ120年前、1901年の新聞に「二十世紀の豫言(よげん)」という未来予測記事が掲載されています。20世紀中に実現するであろう科学技術と生活の内容を予測した記事なのですが、100年以上前には嘘のように思われていたことが、現在では普通に実現されています。

例えば、その記事には「写真電話によりて遠距離にある品物を鑑定し、かつ売買の契約を整え、その品物は地中鉄管の装置によりて瞬時に落手することを得ん」と書かれています。簡単に言うと、自宅にいながら様々なものが手に入る社会が来るという予測ですが、これは現在のネットショッピングの普及を表していると言えます。

つまり、一見、荒唐無稽だと思えるアイデアも、人の叡智と情熱、努力を注ぎ込めば実現できることを歴史が証明しています。今、未来への夢を語り、それを実現するためにはどうしたらよいかを考えることが必要なのです。

戦略ビジョン全体を貫く基本戦略の1つが「バックキャストの視点で将来を展望する」。バックキャストとは、理想とする将来像を描き、そこから逆算して、今何をすべきかを考えることです。これまでの行政は、過去からの積み上げで施策を考える「フォーキャスト」の視点が中心でしたが、それでは従来の発想の延長線上にとどまり、新しい時代を切り拓くことはできません。大胆な展望こそが、明るい未来を実現するためには重要なのです。

また、時代や状況の変化に弾力的に対応する「アジャイル」も、戦略ビジョンを貫く基本戦略の1つです。それは必要なときに必要に応じて、変えるべきものを変えていく姿勢を表しており、アジャイルも従来の行政にはなじまない概念です。

今、日進月歩で技術は進化し、時代は変化しています。決めたからといって計画をそのまま実行するだけの硬直的な行政から脱却し、柔軟かつ迅速な対応が求められているのです。

「未来の東京」戦略ビジョンを貫く4つの基本戦略

出典:東京都資料

 

高い目標に込められた「覚悟」

――20のビジョンの実現に向けた20の戦略それぞれについて、とても高い目標を掲げています。

小池 特に人口減少問題については思い切った数字を掲げました。2018年、東京都の合計特殊出生率は1.20でしたが、2040年代に向けて目指す東京の姿として、出生率が2.07となっている姿を描きました。この2.07は現在の人口を維持するために必要な数値です。あえて高いハードルを掲げることで、危機感を持ち向き合うという一種の覚悟を示しました。

かつて、1989年に日本の合計特殊出生率が1.57になった際、「1.57ショック」と言われて騒がれましたが、少子化問題がいろいろと言われる状況が続くうちに、いつしかそれが当たり前のようになってしまいました。ゆっくりと進行する衰退に対処できず、危機に陥る「ゆでガエル理論」の状態から脱するために、2.07という数字は、いわば「逆ショック」を意図したものです。

人は将来への希望を持てないと、結婚しようと思ったり、家庭を持とうとは思いません。合計特殊出生率を2.07にするためには、子供を産み、育てる楽しさが社会全体の喜びとなる必要があります。

「未来の東京」戦略ビジョンにはキーワードとなる3つのCがあり、それは「Children」「Chōju(長寿)」「Community」です。戦略ビジョンに盛り込んだ20の戦略のうち、戦略1が「Children」。出産・子育てに関わる家族の負担を社会全体で支え、子供が過ごしやすい地域のまちづくりを進めるとともに、社会のマインドチェンジを促す「チーム2.07(仮称)」ムーブメントを推進していきます。

戦略4のキーワードが、2つ目のCである「Chōju」。長寿とは「長く寿(ことほ)ぐ」と、お祝いを意味する言葉で書くことが示すように、人が100歳まで生きる国は幸福な国です。東京都は人生100年時代において「高齢者」の概念を大きく変え、いくつになっても元気で心豊かに暮らせる地域づくりを進めるとともに、一人ひとりの希望に応じて地域や社会で活躍できる環境を整え、さらには「共生」と「予防」の両面から認知症の対策を進めることで、世界に誇る「長寿社会」を実現します。

そして、戦略7に掲げたのが、3つ目のCである「Community」です。高齢化や世帯の単身化が進む中で、人と人がつながりを保ち、支え合いながら暮らしていくことができるよう、「住まい」と「地域」を大切にする視点から新たな住宅戦略を構築するとともに、様々な形での「居場所」の創出や、地域コミュニティの活性化に向けた取組を推進します。

都市全体のスマート化を推進

――グローバルな都市間競争が激化している中で、世界をリードする東京をどのように実現していきますか。

小池 人口減少局面にあって、3つのCを有効に動かすためにも、AIやIoT、ビッグデータなど新技術の社会実装を進めなければなりません。戦略ビジョンでは、東京版Society5.0である「スマート東京」の実現も戦略の1つに掲げています。

1964年の東京大会は、新幹線や首都高速道路が代表的なレガシーとなりました。2020年を契機に、新幹線や車ではなく電波が走る道「TOKYO Data Highway」を構築します。それは、世界の都市間競争を勝ち抜くためにも不可欠なインフラとなります。

「スマート東京・TOKYO Data Highway戦略」として、まず、アンテナ基地局設置への都保有アセット開放とワンストップ窓口設置による利用手続の簡素化を進めます。次に、2022年には西新宿、都心部、ベイエリア、南大沢(東京都立大学)、島しょ地域を先行実施エリアとして5G等を活用した様々な先端サービスを展開し、モデルを確立します。そして、2030年には都内全域で幅広い領域のサービスを展開し、いつでも、誰でも、どこでも「つながる東京」を実現します。そうした施策により、都民のQOL(生活の質)を高め、世界のモデル都市となることを目指します。

スマート東京を実現するうえでの課題は、行政にICT分野の専門人材が不足していることです。都の職員は、土木や建築、医療などの専門職の人材層は厚くなっていますが、これまでICTの専門職は採用していませんでした。この度、ICTの職種を新設し、2021年4月1日付で職員の採用を行います。さらに、外部の専門家11名を「デジタルトランスフォーメーションフェロー」に選任し、機動的に助言を得られる体制を整えました。高度な専門性と経験を有する人材を確保し、強力に取組を推進していきます。

「スマート東京」の実現に向けて、都庁のデジタルトランスフォーメーションも推し進める

また、世界をリードする東京の実現に向けて、世界中からヒト・モノ・カネ・情報が集まる世界一オープンな都市、次々と新しい産業が生まれる世界一のスタートアップ都市を目指します。

東京都が描く2040年代の未来像

出典:東京都資料

 

日本からは、世界を席巻するようなユニコーン企業が生まれていませんが、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が発展したのは、この20年のことです。スタートアップが生まれるフィールドを東京中につくり、スタートアップがスピード感をもって成長できるように多面的に支援していきます。

「未来の東京」戦略ビジョンは、区市町村長との意見交換や各種団体・有識者からのヒアリング、都民の皆さんの声を聞いて策定されました。区市町村や大学、民間企業とも連携しながら、みんなで「未来の東京」を実現していきます。時代を切り拓くカギは「人」です。人を育て、人を大切にする都政を進め、人が輝く「未来の東京」をつくり上げていきます。

 

小池 百合子(こいけ・ゆりこ)
東京都知事