起業の舞台は3.11で住民ゼロになった町 100の新事業を創る

東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故で、南相馬市小高区は全域が避難指示区域に指定された。一度、人口がゼロになった町で、新たなビジネスに取り組む。

小高パイオニアヴィレッジの外観と内部。一般社団法人パイオニズムがオーナーで、小高ワーカーズベースと共同運営している。施設内の工房では、オリジナルブランドiriserのガラスアクセサリーを制作

住民ゼロからのスタート

小高ワーカーズベースを創業した和田智行氏の故郷・南相馬市小高区は、2011年3月11日に発生した東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、原発事故)により、2016年7月12日に避難指示が解除されるまで、5年4カ月に渡り1万2842人の住民が避難を余儀なくされた。当初、市が行なった住民意向調査などから帰還するのは10%ほどと予想されていたが、10月末現在、3635人が小高区で暮らすようになっている。和田氏は、さらなる住民帰還の呼び水となる事業の創出に取り組んできた1人だ。

和田 智行 小高ワーカーズベース 代表取締役

和田氏は、東京でITベンチャー2社を起業すると同時に故郷の南相馬へUターン。仕事はオンラインでこなしていた。その後、原発事故の発生により、家族とともに会津若松市へ避難を余儀なくされる。日中の活動が認められた南相馬市へ単身戻り、2014年5月に「小高ワーカーズベース」を立ち上げた。

その背景にあったのは、原発事故後に感じた「大きな企業に依存せず自立した地域をつくらなくてはいけない」という強い想い。「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」ことをミッションとする小高ワーカーズベースの仕事内容は多岐にわたる。

まずは、避難区域内でもWi-Fiに接続して仕事ができるコワーキングスペースを、常磐線小高駅前に開設。2014年12月には、もとは地元でも人気の高いラーメン屋「双葉食堂」だった空き店舗を間借りし、地元の主婦による食堂「おだかのひるごはん」をオープンした。2015年9月には、仮設の小売店「東町エンガワ商店」で食品や日用品の販売も始めた。

東町エンガワ商店は仮設の小売店。2015年9月から2018年12月まで、南相馬市からの委託を受けて運営した

これらの施設を開店した理由は、地域に必要だと考えたからだ。このころ、小高区には除染や復旧のために数千人の作業員が滞在していたが、昼食をとる場所やちょっとした買い物をする場所はなかった。また当時、南相馬市が実施した住民意向調査では、小高区への帰還を決めている住民は全体の約14%、年齢別に見ても半数以上が65歳以上だった。小高区に帰還する、もしくは帰還を検討している住民の暮らしを支えるためにも、避難指示が解除される前に飲食・小売の事業を始め、住民を迎える準備が必要だと和田氏は感じていた。

実際に始めてみると想定していた以上の反響があった。特に「おだかのひるごはん」は、当初見込んでいた作業員の需要以上に、避難先から住民が通うコミュニティの場として連日満席となる賑わいをつくった。スタッフには飲食店経営の経験者はいなかったが、収益を上げ、地域でも必要とされるようになっていた。

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