2019年10月号

新規事業開発のための広報視点

複雑化する社会のニーズ、何にどう応えるか CSR活動の最前線

坂本 文武(社会情報大学院大学 教授)

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「SDGs」を理解する上で、従来からあるCSR活動との関連を考察することは欠かせない。複雑化・多様化する社会と自社との結びつきを捉え、いかに企業活動を展開していくべきか。

「誰一人として取り残さない」

SDGs(持続可能な開発目標)が「流行っている」。その潮流を否定するつもりはない。むしろ、SDGsが提唱するコンセプトと向き合えるならば、企業活動のあり方を再考できる好機と考えている。一方、単なるツールとして使おうとすれば、一過性の概念で終わってしまう可能性を秘めている。

SDGsは、全世界の全体最適を目指す概念である。一企業が単独で達成できるものはない。セクターを超えた協働的な努力の蓄積でしか実現できない。17のゴール、169のターゲット、232のインディケーターは、網羅的だ。しかし、例えば、次のような"漏れ"もある。LGBTqを直接言及していないうえ、それに反する記述があったり、信仰の自由に関する記述がなかったり、障害者雇用がすべての人の雇用と同列でまとめて記載されていたりする。当然、ローカルニーズには応えていない。また、掲げている目標像も期限を定めた通過点でしかない。

どの目標にどの程度貢献しているのか、の目安になることはあっても、これさえ押さえておけばいい、というチェックリストでもなく、自社事業の社会的な意味づけをしてくれるツールでもない。

ただし、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」というコンセプトは、企業活動に変革を起こす可能性がある、と考えている。

ところで、CSR(企業の社会的責任)は、企業活動がステークホルダーに与える、もしくは、ステークホルダーから与えられる影響の程度と範囲を意識して、ネガティブな影響を減らすことで持続可能性を高める概念である。ある意味、究極のリスクマネジメントだと私は考えている。

そこに、「誰一人として取り残さない」を取り入れることで、複雑化する現代において、企業のアンテナを広げるとともに、企業活動をより社会起点に切り替えることができるのではないか。また分野別の縦割りが進んできたCSRの取り組みを統合してくれるかもしれない、と期待している。

日本では地域共生社会が進む

どういうことなのか、日本の文脈に落として具体的に議論してみたい。

2016年に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に「地域共生社会」の実現が盛り込まれている。その後、厚生労働省は「地域共生社会実現本部」を設置し、社会福祉法等を改正しながら、その取り組みを前進している。

制度・分野ごとの「縦割り」では解決できない課題(複合的課題、制度の狭間など)の存在や社会的孤立、社会的排除への対応、また、地域の「つながり」の弱まりや地域の持続可能性の危機などの諸問題に対応するため、『公的支援』と『地域づくり』の仕組み、双方の転換を目指すもの、という時点で、それなりの意気込みは感じる。医療・介護・障害といった縦割りの支援制度を見直し、それぞれの地域にある資源や住民を活かして(「我が事」として)個人や世帯が抱える複合的な課題に包括的に(「丸ごと」)応じる仕組みを構築するという"理念"で、住民主体の課題解決力の強化と、全世代、全対象型の新しい包括的な相談支援体制の構築、そしてローカル経済の循環をキーワードにしている。

課題が複合化することで制度から漏れたり、制度の狭間に陥り、取り残される人が増えている、との問題意識がある。例えば、高齢の親と無職単身の50代の子が同居している「8050」という現象、介護と育児に同時に直面する「ダブルケア」などは課題が複合化している。いわゆる「ゴミ屋敷」や障害の疑いのある人が手帳申請を拒否するなど、制度の狭間に入る人も多い。これらの課題は、介護、障害、医療、就労、教育、貧困など分野を横断するうえ、世代が多岐にわたる、包括的な解決策が指向されるわけだ。

SDGsと同じく、かなり理念であり、道徳的でもある。しかし、潜在化するニーズ、複合化するニーズ、そして狭間に陥るニーズを積極的に想像し、そこへの手当をクロスセクターで考える概念は、共通的である。地域共生社会では、当然企業も地域資源として参画し、協働することが大いに期待されている。むしろ、新しい経済循環の仕組みすら構想することが期待されている。

何に応え、どう説明するのか

現代社会のニーズは、シンプルではない。複雑化するニーズに想像を向け、多様な主体と連携して活動を組み立てる時代になっていることは、グローバルにはSDGs、ローカルには地域共生社会を概観するだけでも理解できる。

これまでの企業は、「少子高齢化」「ダイバーシティ」「生物多様性」のように、シングルイシュー化して重要性(マテリアリティ)を絞り込んできたのかもしれない。これからはどうか。「取り残されるニーズ」は、シングルカットできないからこそ、対象になる人、接点をもつステークホルダーは多様になることも想像できる。

どんなニーズに応えていくのか、なぜそれに応え、他のニーズに応えないのか、の説明が求められる時代になってきた。企業の影響力は、依然として大きい。オピニオンリーダーとして、「取り残されたニーズ」を顕在化し、試行していくことができれば、新たな共感のネットワークを広げることができるかもしれない。

米国アリゾナ州にあるセールス・マーケティング会社「Televerde」(社員数約500人)では、同州とインディアナ州の女性受刑者と元受刑者にトレーニングと雇用を提供しているという。※8カ所のコールセンターのうち5カ所のスタッフはみな受刑者。大手IT企業のコールセンターを担っている。出所後、正社員になる道も用意されている。出所後に25%の元受刑者がそのまま雇用を継続しており、実際に本社従業員の40%を元受刑者が占める。累計でこれまでに3,000人の女性受刑者を雇用してきた。もちろん、これには利益搾取の構図を見出し批判する人もいるそうだ。キャリアを中断せざるを得ない女性たち、というテーマは、シングルカットに課題を断面化できない。

どのような「取り残されたニーズ」を想像し、理解しようとするのか。CSRは、ステークホルダーとの対話を通して経営に貢献する広報機能を発揮する領域のひとつである。

※ Rosalie Chan「担当者は塀の中?受刑者が大手IT 企業の顧客サポートを行うコールセンター」Business Insider(2019 年7月31日取得)

 

 

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