石油暖房・加湿器トップシェア 新潟でつくる価値ある製品

新潟県新潟市に本社を置くダイニチ工業。石油ファンヒーターと加湿器の分野で国内トップシェアを誇る。年間100万台以上の暖房製品を新潟から安定的に出荷している。

石油ファンヒーターの製造工程。1台ずつ全数の燃焼実験を行う。右下が本社外観。ダイニチ工業の石油ファンヒーターは一貫して新潟で生産されてきた

製品を進化させ続々投入

ダイニチ工業の主力製品である石油ファンヒーター。その最大の特徴は、「気化器」と呼ばれる装置を使用し、灯油を気化する燃焼方式を採用している点にある。気化器から噴出される気化ガスの量に応じ、燃焼用空気が自動的に調整されるため、着火が早く、火力の大小にかかわらず常に安定した青炎燃焼(自律燃焼)を可能とした。また、石油暖房機器の弱点であった、独特の臭いの発生を抑制していることも強みだ。スイッチを切ると「バンッ」という音とともに消火機構が作動。これにより、消火時の臭いがほぼなくなる。

ダイニチ工業製石油ファンヒーターの心臓部となる気化器(ブンゼン式)

これらは、ダイニチ工業製ヒーターの強みとしてユーザーから認知されてきた。基本的な構造自体は昔から変わらないものの、使いやすさの改善や新しいニーズに応じて、年々進化を続けている。2018年に投入した新モデル「SGX」タイプは、室内を効率よく暖める機能を搭載した。小火力、弱風量での運転時に、送風口のフラップ(羽)を下向きに傾け、温風を下方に誘導する仕組みだ。これにより、風力が弱い際に起こりがちな暖気上昇を抑え、床冷えを防ぐ効果がある。また、より遠くへと温風を運ぶことも可能にした。このほか、操作パネルに傾斜をつけ、立ったままでも操作がしやすいようにしている。一見すると既存商品と変わらないように見えて、細かい配慮が凝らされている。

こうした新製品の開発は、どのようなプロセスで行われるのだろうか。代表取締役の吉井久夫氏は、「新製品の開発では、何らかの到達基準を達成したから完成、とはなかなかいかない。製品開発とは、そんな楽なものではないということです。とりあえず挑戦してみるというところからスタートしています」と話す。

吉井久夫(ダイニチ工業社長)

「お客様から本当に良いと思っていただけるものかどうか?という点は、社員一同、常に大切にしている価値観です」。それでは、ファンヒーターや加湿器を買い求める顧客にとっての「良いもの」とは何か。「当社が考える最も良い価値は、有効性があることです。ヒーターは、暖房機能がしっかりとしているということ。あれもこれも、と新しい機能を付けるのだけではなく、お客様が本当に求めていることなのではないかと思います」。

新規分野への挑戦で、すでに実を結んでいる商品がある。ダイニチ工業は加湿器の販売も手掛けているが、市場参入は2000年代初頭と業界最後発だった。にも関わらず、現在、家電量販店販売シェアでトップを獲得している。その背景には「ものづくり企業」としての強みがある。石油ファンヒーターは単純な金属加工製品と思われがちだが、開発の過程で新素材のセラミック部品、半導体などの技術を導入し、安全で高性能な製品に仕上げる。その過程で得たノウハウを、新製品開発に投入している。

ユニークなのは、光合成促進機だ。石油暖房機器で生じる二酸化炭素に着目し、あえて二酸化炭素を発生させることで植物の光合成を促す仕組みで、燃焼効率の良い高性能な製品を開発してきた強みを活かしている好例だ。このように、石油ファンヒーターで培った技術を応用した商品の開発・投入も推進していくという。

新潟でのものづくり

創業以来変わらず新潟県での生産にこだわり続けていることもダイニチ工業の特徴だ。商品の企画・設計にはじまり、主要部品の生産から最終組み立て、検査までの一連の生産過程を、すべて新潟で行なっている。日本企業の海外進出が盛んになったバブル期にあっても、同社は海外に生産拠点を移さず、一貫して新潟での生産にこだわってきた。その理由は何なのだろうか。

「当社は500人規模の企業です。その家族を含めると、数千人もの人々と関係していることになります。たとえば家族は配偶者、子供に限らず親兄弟、親戚もいます。仕事に限らず、そうした他者との関係性も、生きがいのひとつだと思うのです」と吉井氏は話す。

「企業拡大や利益重視の面を追求すれば、海外移転は最適なことかもしれません。しかし、当社が大切にするのは、新潟の地で当たり前のように事業が展開できることのありがたさなのです。新潟の地で社員が生活し、製品を製造することができる。これを外国に移してしまったら、自分たちは何のために仕事をしているのだろう、と思います。当社が考える新潟で事業を継続する価値は、地域で雇用を生み、そこで暮らす人の生活を支え、守っていくことであると考えています」。

平準化生産と「ハイドーゾ」

石油ファンヒーターや加湿器は、冬季に需要が高まる「季節商品」だ。その年の気温や天候により、需要が大きく左右される。そのため、生産過剰や急な在庫不足は避けられないと捉えられてきた。在庫管理は宿命ともいえる問題だ。そうした中で同社は1月から8月までの期間、同じペースで生産を継続する平準化生産方式を採用している。夏場には大量の在庫を抱えることになるが、同社ではリスクというよりも強みになると捉えている。

「継続生産で、秋冬シーズンにまとめて生産するよりも品質が安定するとともに、季節ごとの人員の増減・再配置等の必要性がなくなります。それは在庫を保有することと比べても、メリットが大きいと考えています」と吉井氏。1月から8月の間は必ず売れる商品を計画生産し、9月から1月にかけては市場に連動した受注生産するといった形で、時期に応じた最適な生産体制を維持できるという。「生産の平準化により、協力企業に対しても年間を通してムラなく発注できます。部品生産を担っていただく工場の経営の安定化にもつながっていると考えています」。

平準化に加え、「ハイドーゾ生産方式」と呼ばれる生産管理体制を構築することで、急なニーズにも対応する。例えば、急な寒波が到来した際は、通常の予定をはるかに超える出荷要請が入る。その際に最短翌日には文字通り「はい、どうぞ」と、すぐに出荷できるようにした。日々の販売状況を電子化して管理し、客先と営業部門、生産部門とがつながることで、在庫状況を把握する。同時に、当日でも生産体制を変更できる柔軟な体制を整えている。

これには、現場での即応体制構築も欠かせない。工場では、生産する製品を素早く入れ替えるよう改善を行なった。従来では90分かかっていた金型の交換作業を、作業の標準化と訓練により10分以下に短縮した。正社員を雇用し、日々のトレーニングを欠かさないことで、フレキシブルなものづくりを実現したといえる。

人のための効率化を推進

このような生産を可能にするために、積極的な設備投資を行なっていることにも注目したい。ダイニチ工業では、力のいる運搬作業などは積極的に自動化している。ポイントとなるのは「移動の無駄の低減」と「困難作業の排除」だ。「ネジ締め作業は腱鞘炎になりやすい」といった現場の声を取り入れ、それをもとに自動化を進める。産業用ロボットのコストダウンに伴い、製造ラインにおけるロボット導入のハードルが下がってきたことも同社の自動化促進に拍車をかけた。

製品の搬送作業など、力仕事は積極的に自動化している

ダイニチ工業では、2019年6月には物流拠点の和泉物流センターを新設し、顧客の出荷要請への対応力を強化した。新潟の地にしっかりと足をつけ、意欲的な挑戦を続ける。