2019年9月号

ICT活用全国首長会議 開催レポート

被災地からICT活用のまちへ ケア体制構築や実験の場を提供

亀山 紘(石巻市長)、久元 喜造(神戸市長)

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石巻市と神戸市は、ともに甚大な被災経験から復興を遂げた経験を教訓に、ICT活用に際し、実践的なデータ活用やシステム開発を行っている。また、自助・共助の大切さを経験し、市民参加型の実証実験や協働・共創にも前向きだ。

被災経験から復興の構想を語る二市長。

未来の地域包括ケア構築へ

東日本大震災で最大の被災地となった石巻市は、「災害に強いまちづくり」を目指している。公共交通機関のハブであるJR石巻駅を中心に各公共サービスの拠点を集約整備することで、他拠点ともつながった「コンパクトシティ」を形成。そして一般に言われる医療・介護・保健・福祉だけではなく、障碍のある人とない人、年齢の離れた世代間、地域のコミュニティなどを通して、自助・互助・共助・公助の4つを実践する「次世代型地域包括ケアシステム」の整備を進めている。

石巻市の亀山紘市長は、「市役所の西隣には2016年9月に開院した市立病院が、東隣には2018年5月に供用開始となった防災センターがあります。さらに、今年度完成予定で建設を進めている『ささえあいセンター』が他職種の連携・交流の拠点となり、包括ケアの効果が市内全体にいきわたることを目指しています。震災で学んだ、人と人とがつながり支え合うことの大切さを生かし、誰もが自分らしく暮らせる安心・安全なまちづくりを目指していきます」と語る。

亀山 紘 石巻市長

2020年までには、在宅医療の問題や、地域住民の生活課題の解決の体制整備も図っていく計画だという。

初動期の情報断絶を最小化

亀山市長が、災害対策の中でとくに強く意識しているのは、「情報の取得・発信を止めないこと」だ。そこには、東日本大震災時の初動期における苦い経験がある。市役所本庁や中継局等が津波により電源を喪失し、無線と衛星通信の電話だけを頼りに情報の受発信を続けたが、被害状況や救助活動などの進捗、避難所の開設状況などを把握できず、対策が後手に回った。

「そこで、災害に強い情報通信システム『ORANGE(オレンジ)』を開発しました。さまざまなニュースやデータを防災センターで一元的に集約し、避難所情報、ライフライン情報、地震・津波情報などに整理して『災害ポータル』から住民の皆さんに迅速・確実に発信します。民間通信が遮断しても石巻市独自のWi-Fiネットワークにより、スマホ、タブレット、PCなどさまざまなツールで閲覧していただけますし、大規模避難所ではデジタルサイネージで周知を行います」(亀山市長)。

また、通信ネットワークの双方向性を生かして、市民から防災センターへ要望が出せるようになっており、救援物資の効率的な配布に役立てるほか、『パーソンファインダー石巻版』の機能により安否確認の登録・照会も可能としている。

民間・市民を巻き込んだ
"実験のまち神戸"

神戸市は、来年で阪神・淡路大震災から25年目を迎える。震災の教訓を踏まえて、総人口約152万人×約12日分の生活用水を貯留できる「大容量送水管」の設置などハード対策を進めてきたが、近年はICT活用が重点課題となっている。

まず、LINE などと協働で進めているのが、災害発生時にSNSに流れる情報を整理し活用するための実証実験だ。「事前にチャットボットをLINEの『友だち』に登録しておいてもらい、災害発生時にチャットボットから『周囲に被害が発生していれば、報告してください。』とメッセージを送信。その後に被害情報として書き込まれたテキスト・写真・位置データを収集し、防災用AIによるフィルタリングで精査して地図上に可視化。これらを公助だけではなく、自助・共助でも活用を検討していくものです」(久元市長)。

久元 喜造 神戸市長

また、全国初となるタブレットを活用した水門・防潮鉄扉の遠隔操作は、現在システムを構築中である。省電力広域無線(LPWA)を活用して担当者が自宅や災害対策本部などからでも対象物の閉鎖等を監視できるため、現場で作業者が二次災害に遭う恐れもない。J- ALERTと連動した自動閉鎖なども設定することができ、南海トラフへの対策として期待されている。

高齢者福祉から観光まで
ICT活用のフィールドは広い

神戸市は今年3月にNTTドコモと事業連携協定を締結し、3年計画で「ICTを活用した安心安全なまちづくり」を進めているが、その対象は災害対策以外にも広がっている。「高齢者の就寝、起床、歩行、覚醒(夜間の一時起床)などの行動が確認できる(カメラを用いない)プライバシー配慮型の見守りや、電源の確保が難しい六甲山系の登山道等の危険・不安全箇所に省電力ワイヤレスカメラを設置し、登山者や市民の危険予知や安全確保を目指すなどの実証事業を行います」(久元市長)。

さらに、2019年4月から本格運用を開始した「KOBEぽすと」は、道路のひび割れや街灯不点灯といったまちの課題を発見した市民が、位置情報と写真を投稿することで市役所と情報共有するアプリだ。「将来は、情報の緊急性をAIが判断し、対応の優先順位を決めるようになるかもしれません」(久元市長)。

また、柔軟な発想や優れた技術力を持つスタートアップと市職員が協働して社会・地域の課題を解決するプラットフォーム「Urban Innovation KOBE」からも成果が生まれている。子育てイベント参加アプリの開発や市内のバスの位置情報のデータ形式を統一したほか、手作業で行っていたレセプト(医療報酬の明細書)チェックをRPAで省力化するなど、市民生活をより便利に、業務をより効率的にしている。「起業家の方など外部と接すことで、職員たちに『やってやろう』というマインドが出てきています」(久元市長)。

ICT活用を広げるための
産学連携や縦割り行政打破

セッションの後半では、NTT東日本ビジネスイノベーション本部副本部長(当時)の原田清志氏から「ICT導入は今までの業務のやり方を変えることに繋がります。ハードルも高いと思いますがICT活用をどのように広げていこうと考えていますか」との問いかけがあった。

原田 清志 NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 副本部長(当時)

亀山市長は、石巻市防災センターが大学との共同研究の場としても機能していることに触れながら、「研究結果を地元の道路整備などに役立てるだけでなく、国土強靭化に資する住空間モデルの構築に貢献していけるようにと考えています。また、経過時間と被害状況・対応情報をマトリクスに整理して共有化する『想定別防災工程管理システム機能BOSS』を、他地域でも活用していただけるよう整備していきます」と答えた。

久元市長は、「部署ごとに縦割りで法令に適応する従来型行政ではなく、課題を発見し解決に取り組む体制を市としても構築していくことが重要だと考えています。」と締めくくった。

渡邊 信彦 事業構想大学院大学 教授

 

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