兵庫県知事 先端技術で日本を先導、世界につなぐ

明治の開港以来、海外の文明を取り入れ、日本の発展を牽引してきた兵庫県。航空機やロボット、エネルギー、健康・医療等などの成長産業の創出・育成を図るほか、国内外からのツーリズム人口拡大に力を注ぐなど、「世界」を視野に入れた施策を進めている。

井戸 敏三(兵庫県知事)

ものづくりの強みをさらに発揮

――先端産業の振興に向けて、兵庫県はどのような施策に取り組まれていますか。

井戸 ものづくりに強みを持つ兵庫県は、その産業基盤をベースに先端産業の育成を進めており、具体的には航空機やロボット、エネルギー、健康・医療等の産業に力を入れています。

航空機については2017年11月、県立工業技術センター内に航空産業非破壊検査トレーニングセンターを開設しており、人材の育成に取り組んでいます。

また、エネルギーについては、水素供給実証施設の稼働や次世代自動車向け蓄電池の開発・生産が進められています。

県内には、大型放射光施設「SPring-8」に加えて、X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」という世界最高性能の研究基盤があります。さらに、スーパーコンピュータ「京(けい)」の後継機となる「富岳(ふがく)」が理化学研究所計算科学研究センター(神戸市)に設置される予定であり、放射光施設との相互利用による創薬や新素材開発等の進展が期待されます。

兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設「SPring-8」提供:国立研究開発法人理化学研究所

県内の阪神から播磨の瀬戸内海沿岸を中心に、全国有数の金属素材製造・加工企業の集積があります。金属産業の高付加価値化を図るため、2019年4月、兵庫県立大学に新素材の研究・開発拠点となる「新素材研究センター」を開設しました。

兵庫県にはこうした科学技術の基盤があり、ものづくりの強みをさらに発揮するための取り組みを強化しています。一方で県内に集積する大企業や大学の研究所には、まだ使われていない技術があります。そうした技術を中小企業に移転し、新産業の創出と既存産業の発展につなげるために、公益財団法人 新産業創造研究機構(NIRO、ナイロ)が様々な支援策を講じています。兵庫県は、ハード・ソフトの両面から次世代成長産業の育成を進めています。

起業家が地域を元気にする

――新事業展開や起業を担う人材の確保、活躍を後押しする施策について、お聞かせください。

井戸 これまで兵庫県は雇用の確保に向けて、ものづくり企業の誘致に力を入れてきました。しかし、経済のグローバル化や情報通信技術が発達する中で、これからは工場への設備投資に頼る時代ではありません。そのため、兵庫県は今、工場ではなく事業所の誘致に力を入れており、IT企業等も積極的に誘致しています。

また、県内各地で空き家が増加していますが、空き家を事業所に改修する費用を県が助成するなど、起業拠点の整備も進めています。

地域を元気にするには、被雇用者だけではなく起業家・事業家が増えることが重要です。兵庫県は、起業・創業の拠点施設「起業プラザひょうご」を神戸に開設しました。今後、姫路や尼崎でも起業プラザを開設していきます。

起業・創業の拠点施設「起業プラザひょうご」では、様々な人が交流し、それぞれの事業アイデアを磨いている

すでに県内から存在感のあるベンチャー企業も生まれています。今年6月の20ヵ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の飲食スペースでは、神戸市のベンチャー企業、フードピクトが開発したピクトグラム(絵文字)が食品表示に採用されました。

兵庫県は、海外の文化や産業を取り入れて発展を遂げた歴史があります。現在、外国企業の誘致にも力を入れており、すでに中国大手空調メーカーAUX(オックス)グループが神戸に研究開発拠点を置いています。今後も日本に関心を持つ海外の新興企業の動きをいち早くキャッチし、こうした流れを促進させていきます。

また、県内企業の海外進出も後押ししており、「ひょうご海外ビジネスセンター」を中心に国・県・市の機関が連携し、県内中小企業の海外ビジネス展開をサポートしています。こうした施策により、アジア新興国等の成長活力を取り込んでいきます。

さらに、新たな異業種交流の促進にも力を入れています。従来の異業種交流は、同じ業種やものづくり企業同士の交流が中心でした。今、県が推進しているのは、例えばメーカーから卸、小売りまで、垂直的な関連企業による異業種交流です。マーケティングが重要な時代ですから、上流工程の企業も含めて顧客視点の知見を共有することは、新しい市場の開拓につながると考えています。

最終年度を迎えた地域創生戦略

――兵庫県地域創生戦略が、今年で最終年度を迎えています。移住促進の施策について、お聞かせください。

井戸 2015~2019年度の兵庫県地域創生戦略では、5年間で2万5700人の人材流入増加(流出抑制)という目標を掲げました。2018年10月1日現在の推計人口では、兵庫県は日本人の社会減が約6700人となる一方、外国人の転入者が5500人増となっており、トータルで約1200人の社会減となっています。現在、2020年度から始まる次期戦略を策定中ですが、日本人ベースでも社会増を達成することが重要になります。

今、兵庫県は他の地域からの転入を促進するために、関係人口の拡大にも力を注いでいます。今年、楽天株式会社と連携して「ひょうごe-県民制度」をスタートしました。「ひょうごe-県民制度」の登録者には「ひょうごe-県民証」を発行し、全国のコンビニやスーパーで利用すると、楽天スーパーポイントが付与されるほか、皆さまの利用額に応じて、楽天Edy株式会社から兵庫県にふるさと寄附が行われます。

「ひょうごe-県民制度」の登録者に発行される「ひょうごe-県民証」

さらに、県内地場産品などが買えるECサイト「ひょうご市場」を開設する予定であり、そこで買い物をすると、県独自の「ひょうごポイント(仮称)」を上乗せします。「ひょうごe-県民制度」は、県外に住む兵庫出身者や兵庫県に関心を持つ方々とのネットワークをつくり、将来の移住にもつながると期待しています。

兵庫県には37校の大学があり、短大・高専を含めると56校があります。高等教育機関が充実しているため、年齢別の人口動態を見ると、10代の増減は横ばいで推移しているのですが、就職を機に県外に流出する若者が数多くいます。

人口減少に歯止めをかけるためには、20代の対策、特に女性の対策が重要です。兵庫県はものづくり企業が多く、そうした企業は若い女性の雇用の場としてあまり意識されていません。今、公益社団法人兵庫工業会と一緒に、県内ものづくり企業で働いている女性の姿を紹介するなど、県内には女性が活躍できる雇用の場がたくさんあることをアピールしています。

また、兵庫県へのUJIターンに関心を持つ人はたくさんいます。兵庫県は、移住相談窓口として「カムバックひょうごセンター」を神戸と東京に開設しており、相談件数は非常に多くなっています。東京の同センターには「カムバックひょうごハローワーク」を併設しており、兵庫に戻ってからの就業の支援も行っています。

国内外からの交流人口を増やす

――インバウンド推進の取り組みについて、お聞かせください。

井戸 人口減少対策のためには、交流人口を増やすことが重要であり、インバウンドにも力を注いでいます。

日本政府観光局の統計によると、2018年の日本全体のインバウンド観光客数は約3100万人ですが、都道府県別の訪問率を勘案して試算すると、大阪は約1100万人、京都は約800万人の一方で、兵庫は200万人弱にすぎません。兵庫県は、圧倒的に水を開けられている状況にあります。

その背景には、情報発信力の差もあると思いますが、交通条件の違いも大きいと考えています。関西国際空港を利用する外国人は、関西を周遊してから東京に行かれる方、もしくは東京から入って関西に来られる方、どちらのケースでも大阪や京都への訪問がメインで、外国人旅行者の大きな動線から兵庫は外れています。

しかし、数々の追い風もあります。関西国際空港、伊丹空港、神戸空港の関西3空港の発着枠や運用時間は、長年見直されていませんでしたが、今年5月、「関西3空港懇談会」で神戸空港の1日当たり最大発着回数の20回拡大(60→80回/日)、運用時間の1時間延長(22→23時まで)が合意されました。今後、国際線就航に向けて努力を続けていきます。

また、ラグビーワールドカップ2019を活用した誘客促進、ワールドマスターズゲームズ2021関西に向けたスポーツツーリズムの振興、2025年大阪・関西万博を契機とした兵庫県の魅力発信の検討なども行い、ツーリズム人口の拡大を図っていきます。

――兵庫県の観光資源の魅力と、それを活かしたツーリズム人口の拡大に向けて、どのような取り組みを進められますか。

井戸 兵庫県は今年、「『日本第一』の塩を産したまち 播州赤穂」(赤穂市)、「日本海の風が生んだ絶景と秘境-幸せを呼ぶ霊獣・麒麟が舞う大地『因幡・但馬』-」(香美町、新温泉町)、「1300年つづく日本の終活の旅~西国三十三所観音巡礼~」(宝塚市、加東市、加西市、姫路市)の3件が新たに日本遺産に登録され、全国最多8件の日本遺産があります。

兵庫県は、摂津・播磨・但馬(たじま)・丹波・淡路という歴史も風土も異なる個性豊かな五国から成ります。豊富な日本遺産が示すように、五国にはそれぞれに特色がありますから、有馬温泉や城崎温泉、湯村温泉などとも組み合わせて、魅力的なコース設計を提案することが大切です。

今、サイクルツーリズムの促進、景観ビューポイントの環境整備、酒蔵やコウノトリなど地域資源を活かした体験型ツーリズムの展開など、五国の資源を活かしたツーリズムの強化を進めています。

また、冬の雪も観光資源です。兵庫県には山地が連なる自然環境があり、遠方に行かなくても、都市部から近いところにスキー場があります。こうした立地の利便性を活かしながら、国内外からの誘客を促進していきます。

兵庫県には有馬や城崎など人気の温泉地があるほか、全国最多8件の日本遺産があり、多様な観光資源がある。写真は左上から時計回りに、有馬温泉、塩の国塩釜上げ(赤穂)、西国三十三所の1つ・一乗寺(加西)、麒麟獅子(因幡・但馬)

2030年の展望を策定

――兵庫県が目指す将来像や2030年の姿、その実現に向けた基本方針について、お聞かせください。

井戸 兵庫県は10年前、2040年までの長期ビジョンを策定しました。また、現在進めている兵庫県地域創生戦略は2020年をターゲットにしています。昨年、兵庫県は設立150周年を迎えましたが、その節目となる年に、2020年と2040年の中間となる2030年の展望を発表しました。

兵庫県の特色は五国の多様性があること、そして明治の開港以来、海外の文明を取り入れ、日本の発展を牽引してきたことです。そこで、2030年の目指す姿として、「五国を活かし 日本を先導 世界につなぐ」を掲げ、生活も人も産業も地域も、すべてがバランスした「すこやか兵庫」の実現を目指すというビジョンを策定しました。そのための基本方針として、「未来の活力」の創出、「暮らしの質」の追求、「ダイナミックな交流・還流」の拡大の3つを打ち出しています。

2030年に向けて今後、AI・IoT・ロボット等の革新技術が浸透し、世界的な大交流時代が到来します。かつての高度経済成長期のやり方は通用せず、自分たちで新たな道を切り開かなくてはなりません。私たちは「すこやか兵庫」の実現に向けて、県民と一緒に努力していきます。

 

井戸 敏三(いど・としぞう)
兵庫県知事