マイナンバーカードの普及促進 多様な取り組みで交付率向上

マイナンバーカード交付率が全国の市区で1位の宮崎県都城市では、タブレットを活用した申請補助をはじめ、その普及促進に向けた様々な取り組みを行っている。カードを普及・利用促進させることで、市民サービスの向上や行政の効率化を目指す。

マイナンバーカードで本を借りられる新図書館

都城方式で申請を補助

人口約16万6000人の宮崎県都城市は、市区別のマイナンバーカード交付率で全国1位となっている。市ではカードの普及促進に向けて、様々な取り組みを行ってきた。

第1に、市内には高齢者が多いことから、タブレットを使って申請者の顔写真を撮影する申請補助を開始した。他の自治体に先駆けて始めたことから、この方式は「都城方式」と呼ばれるようになった。さらにタブレットの機動力を活かし、企業や商業施設等も巡回して申請をサポートしている。

その一方で、「市民の目線に立てば、申請補助があってもカードに魅力がなければ申請する動機は生じません。ですから、カードの利便性を向上させるための様々な取り組みも進めています」と都城市総合政策部総合政策課行政管理担当副主幹の佐藤泰格氏は言う。

佐藤泰格 都城市総合政策部総合政策課 行政管理担当 副主幹

市の面積は653.3km2と広く、多くの市民は市役所や支所から離れた場所に居住している。このため、マイナンバーカードを使えば、市が発行する各種証明書をコンビニでも受け取れる「コンビニ交付」のサービスを導入し、市民の利便性向上を図ることとした。また、「コンビニ交付の利用法がわからない」という市民の声に応え、昨年2月には同じ仕組みを市役所窓口で利用し、便利さを体験できる「らくらく申請サービス」も開始した。

「らくらく申請サービス」の端末

さらに金融機関の協力を得て、カードを持っている人は定期預金や子育て支援ローンの金利で優遇される特典も設けた。金融機関は様々な場面で顔写真付きの身分証明書を必要とすることから、民間企業との協力では、まず金融機関との連携に取り組んだ。

子育て支援は特に市が力を入れる政策分野で、市の「電子母子手帳サービス」ではマイナンバーカードで本人確認を行い、子どもたちの健康診断の結果や予防接種の履歴を提供するサービスも始めた。

母子手帳もアプリを活用している

他には、マイナンバーカードを市の図書館カードにする環境づくりも進めている。この仕組みでは、国の「マイキープラットフォーム」を活用する。マイナンバーカードを活用したマイキープラットフォームでは、公共施設の利用者カードを1枚にまとめることが可能になる。さらに、市民がボランティアや健康増進の活動を行った場合などに自治体が発行するポイントを、マイナンバーカードに貯められる。

将来的には、マイナンバーカードと健康保険証の一体化も実現する見込みだ。

「健康保険証と一体化すれば、ほぼすべての人がマイナンバーカードを持つ時代が訪れるでしょう。その際、非常に多くの市民が一斉に申請すれば、カードの速やかな発行は困難になります。また、カードの電子チップは5年ごと、カードは10年ごとに更新が必要で、申請が一斉に行われれば5年後10年後にも同様の波が生じるでしょう」(佐藤氏)。

このような事態も想定し、市では多くの市民に早い段階からカードを申請してもらおうとしている。これらの様々な取り組みは、池田宜永市長が自らリードしてきた。市の一連の取り組みが評価され、2017年には総務省の「マイナンバー・マイナンバーカード広報大賞」に入選したほか、「地方自治法施行70周年記念総務大臣表彰」も受けた。

市内のマイナンバーカード交付率は現在、約3割で、今後は10割を目指し、さらに交付率を高めていく方針だ。その際、カードを作った人たちに利便性を実感してもらうことも重要になる。

「国では2020年度、消費活性化対策としてマイキープラットフォームを活用したプレミアムポイントを発行する計画を立てています。これが始まれば、カードを持つ方々に利便性を実感していただけるはずで、市では全国の自治体に先駆け取り組みを進めます」(佐藤氏)。

マイナンバー管理システムで
ふるさと納税も効率化

牛肉、豚肉、鶏肉を合計した市町村別生産高で全国1位、焼酎の製造も盛んな都城市は、2015年度と2016年度にはふるさと納税の寄付件数と金額で日本一となった。その一方で、ワンストップ特例制度によって全国の寄付者からマイナンバーやその証明書類が届くようになり、大量の書類を厳重に管理する必要が生じている。

「市では従来、窓口で市民の書類を受け付けてきましたが、ふるさと納税では全国の寄付者の書類を受け付け、電話で管理する作業も生じています。また、書類の保管では、かなりのスペースが必要になっています」と都城市総合政策部総合政策課政策企画担当主幹の野見山修一氏は説明する。このような中、市では今後、シフトプラス(大阪市)が開発したワンストップ特例マイナンバー管理システム「motiONE(モーション)」の活用で電子化を進め、作業を効率化させ、寄付者の利便性も向上させていく方針だ。

「シフトプラスのシステムは自治体の通常業務で使用することの多いLGWANネットワークに対応しており、セキュリティ面でも安心できます。自治体の困りごとや市民の不便を解決してくれるシステムになっています」(野見山氏)。

野見山修一 都城市総合政策部総合政策課 政策企画担当 主幹

市ではまた、「人財育成」によって組織を活性化させようと「都城フィロソフィ」を策定し、2019年4月に運用を開始した。市長や職員の想いが込められたフィロソフィには、「あいさつが全ての基本」、「地域を愛し、地域と共に生きる」、「市民目線を貫く」などの内容が含まれる。フィロソフィの策定は多くの企業で行われているが、自治体では全国初で、他の自治体からも「策定したい」と問い合わせが寄せられている。市ではフィロソフィを職員の行動指針として市民サービスを向上させ、市民に「日本一」と思ってもらえる自治体を目指していく。