デジタル民主主義の課題、これからネット社会で起きること

日本の国政において、いわゆる「ネット選挙」が解禁されてから6年。ソーシャルメディアの普及も相まって、情報と政治・行政の関係は大きく様変わりしつつある。政治や行政、官民連携におけるデジタル化の先端動向とは何か。

西田 亮介(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授)

「ネット選挙」解禁でも
古い政治システムは変わらず

2013年の公職選挙法改正により、デジタル・デモクラシー実現の方途として長く期待を寄せられてきた「ネット選挙」が、ようやく日本でも実現した。東京工業大学の西田亮介氏は、「近年は、若い世代や女性など政治に対して無関心だった層にアクセスする狙いから、TikTokのような動画やインスタグラムを使ったり、屋外広告と組み合わせたプロモーションを行うなど、民間企業に引けを取らないレベルのネット活用が自民党を中心に進んでいます」と、その進捗に一定の評価を示した。半面、投票率の向上や選挙運動にかかるコストの低減については、ほとんど改善の兆しが見られないことを厳しく指摘。とくにモバイル機器やPCからの投票(オンライン投票)に関しては、海外でもハッキングのリスクを恐れて敬遠する傾向が強いうえ、国内に投票機を製造できるメーカーがなくなったこと、岐阜県可児市議会議員選挙の電子投票システム障害に関わる裁判で県が敗訴したとことなどが重なり、一気に機運が萎んでしまったと振り返った。

「他国の先行事例や学説を見て、インターネット技術の導入が選挙に及ぼす影響は限定的だろうと予想していました。第一に、英米圏では"表現の自由"の観点から選挙運動についても基本的に制限をかけないので、多彩なプロモーションを実施できるのに対して、日本では公職選挙法という"べからず集"の存在に阻まれ、自由闊達なキャンペーンを行うことができないからです。第二に、電子メールを使った選挙運動や有償バナー広告は候補者本人ですら利用できないルールになっており、政党や政治団体に優位な従来型の政治が、映し鏡のようにネット選挙にも影響を及ぼしたからです」(西田氏)。

そして、政党が協力者として雇った広告代理店やスピンドクターが、マーケティングや広報戦略の補完的な手法としてIT技術を利用したことで、いわゆる"イメージ政治"が加速した。

ネット選挙解禁にともなう政治・メディア・一般有権者の関係性の変化

出典:西田亮介『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版、2014年)、86ページ

 

共通体験の喪失が招く分断や
世論の極化にどう対応するか

マスメディアが影響力を維持していた時代は、"プッシュ型"の情報提供によって共通体験の形成することができた。ところが、インターネットの台頭により、人々は「見たいものしか見ない」という"プル型"の情報提供に親しみ、共通了解のないままに分断の線引きが行われることが増えてきている。

「テレビ番組が『ネット発』の情報を目玉コンテンツにして制作され、『テレビで話題の』ネタがSNSで拡散される時代です。真偽が怪しい情報までもが小さくない影響力を持つようになり、インターネット上の情報が従来の政治的常識を書き換えることで、人々を混乱に陥れたり世論が極化したりする恐れもあります」と西田氏は懸念を示す。

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