「GaaS」で新たな市場を拓く 行政サービスを支援する新事業

創業90年を超える町工場がインターネット企業に生まれ変わり、東証1部に上場。公共領域のインターネットサービスで存在感を高めているスマートバリューは、「GaaS(Government as a Service)」を提唱し、新たな事業モデルで成長を目指す。

渋谷 順(スマートバリュー 代表取締役社長)

自治体向け情報通信サービスで多くの実績を持つスマートバリュー(本社:大阪市)。同社の前身は、1928年に創業した自動車電装修理などを手掛ける町工場だ。創業家の3代目である現社長、渋谷順氏は1985年から家業に携わり、90年以上の歴史を持つ会社を大胆に変革してきた。

スマートバリューはインターネットやクラウドサービスに軸足を置くことで成長を遂げ、2015年にはジャスダックに上場し、2018年6月に東証2部、同年12月には東証1部への市場変更を果たした。現在では、400以上の自治体に地域情報クラウドサービスを提供するなど、行政・公共部門の事業で存在感を高めている。

インターネットで新規事業、
自治体向けで活路を開く

「90年代後半から普及し始めたインターネットを1ユーザーとして体験し、『これは世界を変える』と確信しました」

渋谷社長は1996年、当時はまったくの異業種であったプロバイダ事業に参入。しかし、企業向けインターネットサービスは大手も手掛けており、スマートバリューが競争力を発揮するのは難しく、何年も赤字の状態が続いた。そこで狙いを定めたのが自治体だ。

「自治体のマインドは企業より保守的でしたが、転機となったのは、2001年に大阪府の小学校で児童殺傷事件が発生し、不審者情報を住民に知らせるシステムへの関心が高まったことです。自治体を回って声を聞き、防犯情報のメール配信サービスの導入に結び付けました。そのシステムは大阪府警にも採用されるなど、高い評価を得ました。現在では多くの自治体で同様のシステムが運用されていますが、その先駆けは当社のサービスです」

自治体向け事業の足掛かりを築いたスマートバリューは、2005年にクラウドサービスを開始。クラウドを基盤にした地域情報メディアやオープンデータポータルなどの構築・運用を支援し、広報広聴・防災・防犯・子育て・観光・定住・移住など様々な分野の情報提供サービスを展開している。

「当社のクラウドサービスは、自治体など公の存在と地域社会・住民とのコミュニケーションを創発するインフラとなります。今、自治体の情報システムに求められているのは、透明性、参加性、連携性の3要素。かつては、自治体の情報発信は広報誌が中心で、オープンな発信など仕事が増えるだけだという空気がありました。現在は、取り組みの程度に差はありますが、開かれた行政、オープン・ガバメントの重要性への理解は深まってきています。当社の事業がフィットする時代になったという感慨がありますね」

GaaSによるまちづくり

自治体のプロポーザル(公募)において、スマートバリューは約50%もの高確率で受注を獲得できているという。自治体に「刺さる」提案のポイントについて、渋谷社長は次のように語る。

「数多くの自治体が財源や人材の不足に悩んでいる中で、自社でしか運用管理ができないシステムを売り込んだり、あるいは単に省庁指定の仕様に沿っただけのシステムを売り込んでも、価値がありません。カギとなるのは、自治体の状況を把握し、その改善に向けて知恵を絞る姿勢です。スマートバリューは単一の地域課題の解決にとどまらず、まちづくりまで射程に入れた提案をしています」

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