令和時代、変革を担う広報・コミュニケーションの役割とは

新元号「令和」が施行され、変革による新しいものへの期待が高まっている。元NHK専務理事で社会情報大学院大学・吉國学長が、平成時代を振り返るとともに、新時代の変革を担う広報・コミュニケーションの役割について寄稿した。

4月1日、天皇の退位に伴う新元号を「令和」とすることが発表された。菅官房長官の会見の模様はツイッターやインスタグラム、ユーチューブなどでも生中継され、その結果はただちにSNSで拡散された。発表のその日のうちに新元号にちなんだ新曲がネットで披露され、令和に関連した様々な商品が即座に店頭に並ぶなど、まさにデジタル時代を象徴する光景が各地で見られた。これまでのところ国内では新元号に対して好意的な受け止めが多いようだが、その盛り上がりにインターネット、中でもSNSが一役かったことは間違いないであろう。

平成を振り返る

振り返ると「平成」の30年間は、社会全体の情報化が我々の予想を超えて急速に進展した時代である。平成がスタートした1989年、インターネットプロバイダーの商用サービスはまだ始まっていない。携帯電話の普及台数は、3月末で24万台、全人口に対する割合は0.2%にすぎなかった。それがブロードバンド環境の整備、モバイル機器の携帯からスマホへの進化といった技術革新とそれに伴う様々なサービスの登場で、今やインターネットは、私たちの生活の中で欠かせないツールとなり、誰もがいつでもどこでも必要な情報を入手し、社会に向けて発信できる世界が実現した。

一方でこの間の日本経済は、様々な困難に直面した。バブルの崩壊は平成2年の株価急落から始まった。その後は、円高不況、金融危機、リーマンショック、さらには東日本大震災と厳しい試練が続いたが、日本はそれらに十分対応できず、結果として国際的なプレゼンスを大きく低下させることになった。

その要因としては様々な指摘がされているが、私は日本の企業や行政が情報化の進展による社会経済の大きな構造変化を読み切れなかったことにあると考える。情報化社会の中で我々の利便は飛躍的に向上した。インターネット上のサイバー空間には膨大な量の情報が集積され、その情報をどのように得て活用するのかがデジタル時代の競争を勝ち抜く鍵となっている。さらにインターネットは、人と人、さらに人と社会とのつながりも大きく変化させ、それによって、今の社会を支える経済や政治のシステムそのものが揺らぐ事態に陥っている。日本の企業、行政は情報化のこうした状況の中で社会が求めている商品やサービスがどのように変化し、それによって、それぞれの社会での立ち位置がどう変わっていくのかが十分把握できなかった。結果、変化に対応した構造改革が進まず、イノベーションの面でもアメリカや中国などに後れをとったのではないだろうか。

もちろん企業や行政の方々がまったく無為無策であったとは思わない。1970年代、それまで高度成長をおう歌していた日本企業は、オイルショックや公害問題の深刻化で、最初の試練を迎え、企業の社会的責任を問われることになった。こうした中、日本経団連は、1978年経済広報センターを設立し、国内外のマスコミ、オピニオンリーダー、教育界や一般社会など様々なステークホルダーへの発信や対話というコミュニケーション活動を通じ、経済界の信頼獲得への取り組みを始めた。バブル崩壊で再び企業に対する追求が高まる中、平成に入り多くの企業がCSRに取り組みその成果をアピールしてきた。

しかしながら、日本の場合、こうした活動はあくまで企業全体の中で付随的なもので本業とは別という受け止めをしているところも多かったのではないか。このため広報コミュニケーション活動は、企業経営そのものを変革するという形では十分に機能しなかった。さらに情報化社会の進展によって、社会の多様化が進む中では、一部のステークホルダーに頼っていたのでは、全体を把握することは困難であり、大きな構造変化が認識できなったという側面もあったのではないかと思う。

令和時代の広報を考える

これから世界は、AI、IoTの活用によってさらに大きな変革の時代を迎える。その中で日本がグローバルな競争に対応していくためには、それぞれの企業が広報、コミュニケーション活動の在り方を見直し、今社会で起こっている事象を的確に、経営に反映する体制を整える必要がある。 そして、社会との絶え間ない対話を通じ、膨大な情報を収集、整理、分析して、今社会が求めている自らの立ち位置をしっかり確認し、それを経営理念や経営戦略にまで高めて実践すること、さらにそれを社会に向けて発信し、共有してもらうことが何より重要となっている。その意味では、広報は会社の一部門ではなく、経営そのものとも言えるだろう。

社会の変化への対応は過去の経験ばかりにとらわれていては、成し遂げられない。的確な情報をもとに、将来の社会のデザインを描き、その変化に向けての提言ができる人材を育てていかねばならない。

また、社会との対話を効果的に進めるためには、広報、宣伝、マーケティング、IRなどに分かれて活動しているコミュニケーション領域を一体として運営し、様々なチャンネルを通じて情報を収集し、また逆に発信していく体制をつくる必要がある。

近年、企業の行動がネット上で取り上げられて炎上し、即座に謝罪に追い込まれるケースが急増している。ネットは時としてすさまじい破壊力を持つだけに、その特性をよく認識して様々な事態を予測し、リスク管理を行うのは当然の責務である。その際は、炎上を拡大させているメディア環境変化というものにも注意を払う必要がある。最近、炎上が目立つようになっている背景として、テレビなどのマスメディアが炎上を加速させているという指摘がある。

また、大規模に見える炎上でも実際に参加している人は少数であるとする検証の結果も出ている。

炎上に対応するにあたっては、日頃からこうした状況の変化を的確に把握しておくことも求められていると思う。

日本が「令和」の時代を迎え、国全体が新しいものに期待する機運が高まっている今こそ、変革に向かうチャンスである。広報・コミュニケーションが企業や社会変革の起爆剤としてその役割を果たすことを強く望みたい。