5Gが地方移住を後押し 子育て世代の生活はどう変わる?

都会から農村部への移住を考える人たちにとって、インターネット環境は不可欠なもの。では、遠隔医療・教育、スマート農業や自動運転など、5GやIoTが実現する未来は、移住を後押しするのだろうか。子育て世代をターゲットにしたネット調査からは、移住者が魅力を感じるテーマが浮かび上がってきた。

谷口 守(筑波大学システム情報系社会工学域教授)

地方の暮らしや、働き方を変えると期待されている5Gの普及。テクノロジーを最大限に活用し、豊かな自然とゆったりした生活環境を享受しながら、都市部と変わらない暮らしが送れるようになれば、首都圏への一極集中が緩和されるのではないかという期待は大きい。

だが、通信インフラの強化や自動運転の導入などが、地方移住者にとってどの程度、魅力的に映るものなのかはあまり調査されていなかった。そこで、筑波大学システム情報系社会工学域教授の谷口守氏らは、地方移住を考える人たちの意識に、ICTやIoT活用はどのような影響を与えるのか調査しようと考えた。調査のきっかけについて、「Society5.0時代の地域の暮らしについて、国の有識者会議などでも関心が高まっていました。また、トヨタ自動車との自動運転に関する共同研究や、研究フィールドとしている茨城県石岡市でのヒアリングなども、研究のアイデア源となっています」と谷口氏は振り返る。

子育て世代をネット調査

都市から農村部への移住を希望する人は、大卒直後の若者からリタイヤした高齢者まで多様だが、谷口氏らがターゲットに選んだのは、都市部の子育て世代だ。都市部の子育て世代に対する先行調査は、これらの人々が「農村部に移住するならば子どもは今より多く欲しい」、と考える傾向を掴んでいる。つまり、子育て世代の移住の後押しができれば、子どもの数が増える可能性があり、人口減に直面している社会全体にとって喜ばしいことと言える。

谷口氏らの研究チームは、3大都市圏の都市部の子育て世代に対し、ウェブでアンケートを実施した。この調査では、社会実装が期待される先端技術を「Society5.0の要素」として組み込んだ。自動運転・通信インフラの強化、在宅医療・介護ロボット、分散型電源や、農村部での雇用環境の向上に貢献する要素であるスマート農業・テレワーク、そして子どもの教育環境向上に貢献するICT教育も、調査項目に入れている。移住者の意識についての調査であるため、産業面よりも、生活の質の向上に役立つ要素を選んだ。自動運転や在宅医療、スマート農業、テレワーク、ICT教育は、5Gの応用分野として必ず挙がる、期待の分野でもある。

谷口氏らの調査ではまず、移住に対する意識を尋ね、その後、先端技術による生活の質の向上要素が、移住の意識を活性化する度合いを聞いた。例えば、在宅医療の「自宅で健康への助言を受けられる」が実現する、とした場合。回答者の約半数が、「移住意識が強くなった」と回答した。特に移住意識を強める効果が高かったのは、分散型電源の「電気料金がかからなくなる」と、ICT教育の「子の理解度に応じた教育が受けられる」だった。その他も大半の要素が、5割以上の子育て世代の移住意識を活性化していた。

「子育て世代の移住では、子どもの教育環境の確保が重視されます。5Gなどを用いた遠隔教育が、本当に距離の壁を克服できるかどうかは大きなポイントです」と谷口氏は予測する。

谷口氏らが分析した、推計人口増減比と実人口増減比の関係。鹿児島県十島村は離島からなる自治体だが、実人口は推計人口より増えている。その背景には、積極的な移住者支援がある

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