老舗の工具商社が「DIY」で躍進 自社に「ある」ものを再定義

義父から跡を継ぐことを請われ、老舗の金物工具商社「大都」に入社した山田岳人社長。当初、その仕事に後ろ向きだったが、自社に「ある」ものに目を向けた時、別の可能性が見えてきた。そして、DIYを軸に、数々の新規事業を生み出している。

山田 岳人(大都 代表取締役)

大都は今、DIYツールを販売するECサイトや、工具の使い方を教える教室「DIYファクトリー」を展開している

単に工具を売るだけではなく、それを使って何かをつくることを応援する。「DIY」をそう定義した結果、当初は仕方なく承継し、いったんは廃業しようとさえ思った事業の未来が開けた。大都(大阪市)の山田岳人社長は自身の経験を次代のアトツギに伝えようと今、奔走している。

気づいていなかった自社の強み

山田社長が大都に入社したのは1998年。その理由は、妻との結婚を申し出た時、1937年から続く工具商社を経営する義父から提示された条件が「跡を継ぐこと」だったからだ。それまでリクルートに勤めていた山田社長は、「まったく勝手のわからない」工具商社の業界に転じた。金物メーカーから商品を仕入れ、売り先はホームセンター。小売りから倉庫代わりのように使われ、受取手形が現金化されるまでの期間が180日という商習慣が当たり前に残っていた。

「理不尽なことに立ち向かうこともできず、大きい会社が有利というルールの中で勝ち目の無い勝負を強いられました。かといって、その競争から降りることもできなかったんです」

不景気で売上げが減少し、不渡り手形もつかまされた。泥沼の状況に陥った2006年、やむにやまれず「問屋業のままでは廃業せざるを得ない」と義父に伝えた。会社の存続を望んでいた義父からの答えは、「自分の好きなようにやっていい」。全社員をいったん解雇し、再スタートを切った。

山田社長は立て直しに当たり、先々代から70年間存続する自社の強みを見直すことから始めた。そこで発見したのが、銀行との長年の取引があること、社屋があり家賃を払わずに済むこと、そして数多くの金物工具メーカーとの取引口座を持っていること......。

「それまでは無いものばかりを見ていましたが、たくさんの資産がありました。それは当たり前のものではなく、すごいことだと気づいたんです」

メーカーなど協力会社との信用を築いてきた強みを活かして、何ができるのか。手応えを感じていたのが、その数年前に見よう見まねで開設した工具のECサイトだった。それは、事業として売上げは大きくなかったが、一般ユーザーと直接つながることができ、理不尽な商習慣からも解放される。

山田社長はECサイト事業に懸けることを決意。「苦しんでいなければ、そんな発想も生まれなかった」と、もがいた末の決断を振り返る。

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