職人に頼る「検査・測定」を自動化 スマート工場を支える未来技術

今、自動車業界で急速に存在感を高めているベンチャーがある。2002年創業の東工大発ベンチャー、光コムだ。同社は、世界初の測定器を開発。人力に頼ってきた検査工程を自動化・高速化し、工場のビッグデータ収集を可能にする。

福沢 博志(光コム 代表取締役社長)

光コムは、2005年にノーベル物理学賞を受賞した「光コム」というレーザー技術を実用・ビジネス化した世界で唯一の企業だ。研究開発に10年以上を費やし、世界初となる小型の光コムモジュールを実現。そのモジュールを搭載した「三次元形状測定システム」を2016年にリリースした。

それからわずか1~2年、インライン(生産ラインに測定・検査工程を組み込んだ方式)自動車部品検査の市場でシェアNo.1になっている(富士経済、2017年調査)。

AIが「脳」なら、光コムは「目」

光コムのインパクトは、どういった点にあるのか。福沢博志社長は、次のように説明する。

「従来の測定器は、日光など外乱光の影響を受けるため、工場では使用できず、測定ルームなどでの利用に限定されていました。また、精度を高めると視野が狭くなり、逆に視野を広くすると精度が粗くなることも課題でした。顕微鏡で小さなモノにピントを合わせるには、倍率を高めて見える範囲を狭めなければならないのをイメージすると、わかりやすいかもしれません」

光コムの技術は、こうした課題を一挙に解決する。

「光コムの特殊なレーザーは外乱光の影響を受けず、広い視野と高い精度を両立します。自動車エンジンの外観検査は、カメラと併用して人間が目視で抜き取り検査をするのが主流ですが、光コムのレーザーはミクロン精度で不良箇所を自動検出します。また、エンジンの容積測定においても、従来は1~数時間を要していたのを1~2分に短縮できます。しかも世界で初めて、エンジン容積の全数測定が可能です」

光コムの技術は、職人の力に頼ってきた工程を自動化するものであり、人材の確保が難しくなる中で大きな脚光を浴びている。

今のところ、導入先は自動車メーカーのエンジン素材が中心だ。それは「エンジン開発は自動車開発の根幹であるため、費用対効果が得やすく、普及が進めやすい」という戦略によるところもあり、技術的にはいろいろな領域で使うことができる。大型の製品にも対応することができ、航空機やロケット、造船、建機・建材などへの適用も考えられる。

さらには、製造業におけるAI活用、工場のスマート化の流れも大きなチャンスだ。AIは大量のデータを用いて学習させなければならないが、人力の検査でデータを得るのは難しい。

「AIが脳なら、光コムの技術は目です。全数データの取得が容易であり、しかもその精度が高い。優れた目で品質データを取得することで、機械学習の運用が可能になります」

光コムのポテンシャルは高く評価され、2018年3月、産業革新機構やニッセイ・キャピタルなどから総額12.9億円を調達した。

特殊なレーザーにより、高精度の外観検査や容積測定を実現。今後、様々な分野への応用が見込まれる

存続の危機を救ったVCの資金

成長を遂げている光コムだが、ここまでの道のりは苦難の連続だった。

福沢社長は野村證券や外資系金融を経験した後、光コムの技術に惹かれて、2007年に参画。しかし、当時は研究開発の段階で、プロトタイプを売り込むしかない状況だった。

「資金繰りが苦しく、私個人のお金を投じて会社を存続させました。2011年には自宅を売却して資金繰りに充当。それでもやめなかったのは、『負けてたまるか』という根性だけです。世の中が私たちの技術を評価してくれるまで、どれだけ粘れるかが勝負だと考えていました」

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