地元の酒蔵をタクシーで巡る 海外の富裕層向けに観光体験を提供

稲作が盛んで、良質の水が豊富にある茨城県北部の町々には、地元に密着した酒蔵がある。「SAKE TAXI」は、小規模だが魅力的なそれらの酒蔵を、タクシーで巡る体験プラン。日本酒に関心を持つ海外の富裕層をターゲットに、他の追随を許さない経験の提供を目指す。

細金寛子 SAKE TAXI 国際唎酒師

日立市、常陸大宮市、常陸太田市、大子町など、茨城県の北部地域では、古くから日本酒が醸造されてきた。全国的な知名度は低いものの、地域の需要を満たす酒を造ってきたこのような酒蔵は、人口減に伴う消費量の減少と高齢化、後継者不足にさらされ、事業の継続が厳しいのが現状だ。

地元の酒蔵に観光客を誘致し、その活性化に貢献できないか。高萩市出身で、海外で勤務した経験を持つ細金寛子氏は、酒蔵をタクシーで巡る旅「SAKE TAXI」を企画し、2017年度に県が実施した県北ビジネスプランコンペティションで最優秀賞を受賞した。「SAKE TAXI」企画の背景や、今後の事業プランを聞いた。

点在する酒蔵をタクシーで巡る

細金氏が、和の文化としての酒に関心を持つようになったきっかけは、カンボジアの首都プノンペンで不動産開発のプロジェクトマネジャーとして働いていた時だった。携わったホテル&とバー・ダイニングで、「『寛子の地元のお酒はおいしいの?』と外資の取引先に聞かれ、何も答えられないことに気がつきました。日本酒は日本人としてのアイデンティティに直結するもの。地域の歴史とともに地酒を学んでみたいと思いました」と振り返る。

帰国後、地元の企業に勤務しながら英国のワインのソムリエWSET Wines&Spirits資格と国際唎酒師の資格を取得したが、ビジネスプランコンペティションに出るまでは、日本酒でビジネスをすることは考えていなかったという。

具体的に動き出すきっかけとなったのは、栃木県那須地域の酒蔵見学に訪れたときだった。たまたま居合わせた日本酒に関心のある参加者が、「茨城県北の蔵へも行ってみたいけれど蔵までの行き方が分からない......」とつぶやいた。これが、地元の酒蔵に連絡を取り、訪問するきっかけとなった。

実際に、8軒の酒蔵を訪問したところ、様々な知見が得られた。例えば、複数の市に蔵が点在し、駅から遠いことから、効率よく回るには自動車が不可欠だ。しかし、自動車で移動すれば試飲ができず、また蔵の規模が小さいため、多数の観光客が訪問する、団体バスツアーには向いていない。そこで、タクシーを使おうという結論に達した。

最大の収穫は、酒蔵が直面している困難が見えてきたことだった。醸造に携わっている人員が1、2人の酒蔵が大半で、後継者がいない蔵もあった。地元以外での知名度が低いのは、域外にほとんど出荷していないためだ。背景には、流通網の未整備や、輸送コストを上乗せすると価格が高くなるという事情がある。「そのとき、日本酒というのは出荷するだけではない、観光客に酒蔵に来てもらうことで各蔵の魅力を伝えたい、と考えました」と細金氏はいう。

当初は酒蔵との面識はなかったが、少しずつ関係性を構築した。酒蔵の希望、例えばどういう客層を集めたいか、逆にどのような顧客は避けたいか、等を聞き取っていった。県北の高萩市出身であることは、信頼を得る上で役に立った。もう1つの重要なファクターであるタクシー会社とのつながりは、サラリーマンとしての業務の中で生まれた。

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