横浜市 川×クリエイティブで新たな魅力を創出へ

「あうたびに、あたらしい Find Your Yokohama」をブランドスローガンに掲げる横浜市。この日本屈指のクリエイティブな都市で、公共空間である"川"を活かした新しい魅力づくりプロジェクトが始まった。

横浜では水辺をいかしたクリエイティブな取組みが始まっている

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。これは、有名な鴨長明「方丈記」の一節である。このように、日本では古来、川の流れが、常に変わり続けることへの共通したイメージがある。言い換えれば、川は流れており、2度と同じ表情を見せることのない非常にクリエイティブな空間だ。また、川はモノだけではなく、人々の「思い」を乗せて、国や街を流れている。

「クリエイティブ」というと、アートやイノベーションなどのように、何かを創造したり、あるいは生み出したりするような、新規性と新奇性があるものと捉えられるのが一般的かもしれない。しかし、地域の人々が、今ある資源に気づき、そして誇りを持って表現できるようになることも、非常に「クリエイティブ」なことではないだろうか。

図1 大岡川・中村川とみなとみらいの位置関係

クリエイティブシティヨコハマ

「港町」のイメージが強い横浜だが、人々の生活のそばにはいつも「川」があった。約350年前に、江戸幕府並びに諸大名のご用達として広く石材木材商を営んでいた商人、吉田官兵衛が幕府から許可を得て、横浜村につながる入海を埋め立て、新田を築いたことで、いくつかの川ができた。その後、ペリー来航を受け、横浜は開港場となり、関内地区は出島のような外国人居留地となった。

明治に入り、港が整備されると運河が次々に掘削され、水上ネットワークがつくられ、戦後は建築用材の運搬を主体として水運利用が盛んに行われた。しかし、戦後復興と共に輸送交通体系も陸運が主役となり、環境整備を目的とした公園や、地下鉄・高速道路を整備するため運河は埋め立てられ、その役割を終えた。

かつて川は人々の生活に溶け込んでいたが、時代の流れとともに人々の関心が川に寄せられない存在となっていった。

しかし、そもそも文明は川から生まれたように、川の流れは、風を呼び、川が街に新しい風を呼び込む。そして、そこに集う人々が、互いに刺激し合い、常に新しい何かと出会う街にする力がある。地域住民のつながりの希薄化が叫ばれて久しい今日、川を起点に、地域が連携して、地域を再び活性化させようとする取組みが始まっている。

地域の魅力は川

横浜市は2017年度に、横浜都心臨海部の海辺や大岡川の水辺に様々なアート作品を展示し、それを船などで巡りながら鑑賞できるアートプログラム「Creative Waterway」を実施した。約10年にわたってアーティスト・イン・レジデンスなど、アートによる街づくりを行ってきた初黄・日ノ出町地区でも、「街」という日常の空間を舞台に、国内外のアーティスト、キュレーター、建築家を招聘し毎年開催する「黄金町バザール」を発展させる形で、この取り組みに参画した。

谷口安利 初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会会長

地域を長く見守ってきた初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会会長の谷口安利氏は次のように地域の歴史と川の魅力を語る。

「当時、横浜市中区長、小学校のPTA会長、小学校校長が全員女性であったことも追い風となり、地元・行政が一体となり、この地域にかつて存在した特殊飲食店を排除してきました。また、賑わいを取り戻し、安心・安全に暮らせる街をつくるために、横浜市の政策とも連携し、国内外からアーティストを呼び、アートによる街おこしも進めています。

今後は川を活用して何かをやりたい。この地域の魅力は川。私自身カヌーをやっていますが、一回浸ってみると川の魅力がわかります。都会のど真ん中でも四季を感じることができますし、せっかく桟橋もありますので、もっと地元の人にも川に出て行ってほしいですね」

川を起点に地域を繋ぐ

川井嘉和 川本屋茶舗 取締役副社長

地域の次世代の担い手も、川を起点とした街づくり、賑わいづくりを始めている。明治創業の老舗茶屋「川本屋茶舗」の川井喜和氏は川に注目する理由を次のように語る。

「私は伊勢佐木町の人間なのですが、以前は川で繋がる元町や石川町の方を知りませんでした。このように、街の中で川の存在感が薄まるとともに、川によって地域が分断されてしまっている現状に危機感を持っています。地域を盛り上げるためには、点と点ではなく、面で回遊する必要があり、川がキーポイントになります」

現在、川井氏は、川で隔てたられた人と人を繋ぐために、NPO法人HamaBridge濱橋会(以下、濱橋会)の企画部長として、5年前より始まった運河パレードを手掛けている。

「運河パレードは、人・地区・未来を繋ぐ架け橋として、今一度川に注目を集める大切な機会となっています。今後は、小学校と連携するなどして、運河利活用や川のおもしろさを、下の世代に伝えていくことに、より一層力を入れていきます」

その他、地域の商店街の活性化に向けた若手の会であるザキ六新興会の企画・運営も行うなど、地域を盛り上げるために、精力的な取組みを行っている川井氏。地域の未来に向けて、次のように話す。

「まずは、自身の商売を良くしていくことが第一です。そのためには、ショッピングをしている人を増やしていく必要がありますので、回遊する人が増えるよう、5年後、10年後を見据えて、川を軸に地域を盛り上げていきたいと思っています。同時に、私一人だけではできませんので、熱意のある、地域の若手リーダーと一緒に取り組んでいきたいと考えています」

ライトアップを起爆剤とし、
賑わいを創出

横浜市と事業構想大学院大学は2020年度までの連携協定を締結した。地域の方が主体となった、地元で愛される地域資源である川を最大限に活用したクリエイティブな取組みを生み、新たな賑わいを創出することを目指している。具体的には、まず、賑わいを生む象徴(エンジン)となる事業として、川そのものに着目したこの地域ならではの話題づくりを行い、あわせて、新しい魅力を創出し続けるための民間投資や新たなアイデアを生み出す場もつくるというものだ。

キーワードは、「川」「自走」「クリエイティブ」の3つだ。「自走」を掲げているのは、地域の賑わいを創出する上で、かつてのような補助金頼りの取組みは継続性が見込めないこと。そして、世界中が同質化する中、地域のアイデンティティにもなりうる新しい魅力をつくるためには、行政がどの地域でもできる施策を実行するのではなく、地域に思い入れのある方々が主体となり、「民」ならではの柔軟な行動と思考で、地域資源をいかした新しいクリエイティブを生み出すことが求められているからだ。横浜市文化観光局横浜魅力づくり室 横浜プロモーション担当課長の貝田泰史氏は今後の計画について次のように説明する。

「これまで横浜市が初黄・日ノ出町地区で推進してきたのは、地域・警察・行政が一体となって特殊飲食店を撲滅し、アートの力で「負の課題の解消」を目指したもので、それは着実に成果をあげてきました。今回は、そこからさらに街へ活力や賑わいを作り広げていくという視点で、川という既存の地域資源へ着目し、オンリーワンの魅力を創出する計画を考えました。具体的な取り組みのスタートとなる2018年度には、レーザーを活用して、『川』自体を輝かせる、他では見られないライトアップを実施したいと考えています。また、ライトアップだけではなく、地域の内外を問わず、様々なリソースやスキルを持った方々による、川を活かした新しいクリエイティブなプロジェクトが次々と創出される環境を整えることで、『あうたびに、あたらしい⦆Find Your YOKOHAMA』というスローガンに込めた、横浜の都市ブランドに相応しい魅力を創っていきたいと考えています」

図2 2018年度以降に取り組む事業

賑わいを生む象徴(エンジン)となる事業としてライトアップを行い、地域のイベントの魅力をさらに高めます。