2018年2月号

地域×デザイン2018

農作物の大量廃棄をストップ 生産者と飲食店を繋ぐ新アイデア

菊池 紳(プラネット・テーブル代表取締役)

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2015年8月にリリースされた農家と買い手を結ぶプラットフォーム「SEND」。需要予測を活用した作物の買い取り、自社配送などユニークな仕組みで急成長を遂げた。「生産者のモチベーションを高めたい」と語る創業者の菊池紳氏の構想とは。

菊池 紳(プラネット・テーブル代表取締役)

「28歳の時、山形で農家をしている祖母から『継いでくれんかね?』と相談を受けました。その時に改めて農業について考え、こう思ったんです。今の農業は、生産者のモチベーションが上がらない仕組みになっている。だから衰退し続けているんじゃないかって」

外資系金融機関、コンサル、投資ファンドなどを経て、2015年8月、生産者と買い手を結ぶプラットフォーム「SEND(センド)」をリリースしたプラネット・テーブルの菊池紳氏は、そう振り返る。

農家と買い手を結ぶプラットフォーム「SEND」。リリースから2年で登録生産者は4500件を超える

既存の流通システムの限界

なぜ、モチベーションが上がらないのか、その理由は主に3つあった。ひとつは、一生懸命にこだわって作った作物とほかの誰かが作った作物と一緒に混ぜて出荷されてしまうこと。ふたつ目は、作物が熟す前に出荷せざるを得ないこと。青かったり、固いうちの方が物流上都合は良いが、本来の美味しさではないことは生産者も知っている。三つ目は、作物が誰にどう扱われて、最終的に誰が食べているのかわからないということだった。

菊池氏がさらにいくつか農業が抱える課題を挙げる。まず、市場や事業者の多くは作物の「香りや味、食感」ではなく、「色、形、大きさ(の揃い)」を判断基準にしていた。そのために、市場が求める規格にそぐわないものは、出荷にも乗らず大量に廃棄される。

さらに日本は需要がゆるやかに減退する中、生産量を減らし、価格を維持するための政策がとられてきた。同様に、作物が豊作になった時にも、市場価格を守るために「産地調整」という名目で大量の作物が廃棄される。こうした大量廃棄も、生産者のモチベーションを大きく下げる要因になる。

「既存の流通システムは、戦後の人口増加に合わせて食料を大量生産・大量供給するためのもの。その目的を実行するためにはとても優れていますが、今は違う。このまま生産者の高齢化と減少が進んでいけば本当に作る人がいない未来が来てしまう。作り手をいかに維持し、増やすかが課題ですよね。そのために、作り手のモチベーションを上げる場が必要だと思いました」

菊池氏が目指したのは、「やる気がある個々の生産者と、そうした生産者が作る食材を望む個々の需要者を細かくつなぐこと」だった。物流も自社でやる、と構想を口にした時に「狂っている」と言われたこともあるそうだが、菊池氏は意に介さなかった。

「100万円分の作物を誰かひとりに売るという発想ではなく、100円の作物を1万人に届ける仕組みがあれば良いと思ったのです」

全量買取りや自社配送など、SENDはユニークな仕組みを取り入れている

人とITのハイブリッドサービス

ITを使って生産者と買い手をつなぐ、運営者は手数料を得るという仕組みはよくあるコンセプトだが、SENDはユニークだ。生産者は食材をまとめてSENDに送る。SENDはそれをすべて買い取り、直営の配送センターから買い手に届ける。買い手は、首都圏の個店のレストランがほとんどだ。

全量買い取りとなるとリスクが大きいように感じるが、そこで活かされるのが様々なデータを使った「需要予測」である。

「例えば買い手の過去の注文、業種、業態、規模、ロケーション、客層といった自社データのほか、外部データでは天気、イベントなどによる人の流れ、休市日などの情報を利用しています。このデータを解析し、需要予測に従って生産者に事前にオファーを出します。需要予測の精度は非常に高く、誤差は2~3%ですね」

SENDの仕組みは、この誤差をさらに縮めることができるのも特徴だ。自社で配送も手掛けることで、スタッフは買い手と直接コミュニケーションをとれる。スタッフがつなぎ役になるメリットは大きい。例えば、配送の際に行商することもできるし、まだ需要が明らかではない新品種などをシェフに渡してテストマーケティングもできる。シェフからの「こんな食材が欲しい」「もっと小さい方が使いやすい」などのリクエストも回収し、生産者に伝えることができる。単なるネット上の取引ではなく、互いのニーズを補完しあうような関係ができているのだ。

SENDは農家の売上を高め、やる気を上げる。SEND効果で後継者が見つかった農家もいるそうだ

「ただITを使って、右から左に取引を流すだけなら誰でもできますよね。弊社は配送スタッフを含めて、全員が生産者と買い手のつなぎ役になることで、人とITのハイブリッドなサービスを目指しています。例えば、山形には節々にムカゴができるミズという山菜がありますが、これをシェフに配ったら美味しいと評判で、昨年から3倍の売り上げになりました。農家さんは『こんなに売れたことがない』と驚いていましたよ。誤差分の作物も、シェフに提案し、追加で仕入れてもらうことで、1%以下にまで減らしています」

SENDはレストランへの販売価格の8割を生産者に還元しており、生産者にとっては既存の流通に乗せる場合の1.5倍~2倍の収入になることもある。レストラン側は、こだわりの作物、珍しい作物を1つからスマホで簡単に注文できる。

両者にとってメリットが大きいこの仕組みが受け、リリースから2年で登録生産者は4500件、買い手にあたる登録店舗は4000件に達した。2017年9月には畜産・加工品、10月には水産物の取り扱いも始めた。

SENDは、菊池氏のテーマである「生産者の増加」にもつながり始めている。「SENDで人気のフルーツトマトを作っている農家の方は、しばしば上京して息子さんと一緒に仕入れ先のレストランに食事に行っていました。SENDを通じた売上が高いことも奏功して、息子さんが跡を継ぎに戻ってきたそうです」

このような生産者個人のエピソードを菊池氏が知っていることこそ、SENDの強みだろう。農業の様々な課題をクリアにするSENDはいま、海外からも注目を集めており、2018年には海外進出を計画している。

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