2018年2月号

地域×デザイン2018

伝統工芸職人の「町医者」に インタウンデザイナーという生き方

新山 直広(TSUGI代表、デザインディレクター)

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福井県鯖江市のTSUGIは、産地の活性化に不可欠な地場企業のブランディングや産業観光に取り組む、新時代のデザイナー集団。TSUGIを率いる新山直広氏は、デザイナー経験ゼロから独学で事業を育て上げた。

新山 直広 合同会社ツギ代表、デザインディレクター

眼鏡のまちとして有名な福井県鯖江市。眼鏡以外にも1500年の伝統を誇る漆器、和紙、箪笥、打刃物、焼物といった伝統的産業が半径10kmに点在する稀有なまちである。

ここで「産地特化型のデザイン事務所」として活躍するのがTSUGI(合同会社ツギ)だ。

代表の新山直広氏を筆頭に、メンバーは全員が移住者。地元企業のデザインワークやブランディングのほか、産業観光イベントの企画・運営、自社製品開発などに取り組み、産地に新風を吹き込んでいる。

「地域にある見えないバリアや固定概念を打ち破れるのは、僕達移り住んできた若者だと思います」と新山氏は語る。

 

 

 

「産地特化型のデザイン事務所」を目指すTSUGI。地元企業のブランディングや商品開発、行商、産業観光、自社ブランド商品まで、あらゆる事業を展開している

産地の未来を考えたら、
デザイナーに「なるしかなかった」

新山氏と鯖江の出会いは2008年、京都精華大学で建築を学んでいた頃に参加した「河和田アートキャンプ」だった。地域の資源や人と共にアート作品をつくるプロジェクトを通して、まちづくりやコミュニティデザインの重要性と面白さを知った新山氏は、アートキャンプ運営会社に新卒で入社、いきなり鯖江支社の立ち上げを任されることになる。

希望を持って鯖江に移住した新山氏だが「1カ月で挫折しました」という。「まちづくりと言っても何をすれば良いかわからないし、相談できる同世代の若者もいない、そもそも自動車免許を持っていない(笑)。でも逃げるわけにはいかないので、町会活動などに参加して地道に人脈を広げていました」

転機となったのは鯖江市から委託された越前漆器の調査事業。工房など100社にインタビューを行うなかで、産地の抱える課題に気づいた。「鯖江を元気にするには、モノづくりを元気にするしかない。そのためには『デザイン』が必要」ということだ。

「ここで言うデザインとは、グラフィック制作だけでなく企画や販路開拓も含めたブランディングデザインです。鯖江は確かにモノづくりの一大産地ですが、眼鏡も漆器も下請け・OEMが中心。このままでは価格競争に巻き込まれ、後継者も育たない。その悪循環から脱却するためにはブランディングの視点が必要でした。

しかし鯖江にはデザイナーがいない、ならば自分がデザイナーになろうと考えました。デザイナーになりたかったのではなく、まちのために何ができるかを考えたら、デザイナーになるしかなかったのです」

 

クライアントの95%が福井県内の企業。町医者のように課題を聞き、クリエイティブで解決する

ゼロから独学、移住者サークル結成

とは言っても新山氏にデザイナー経験はゼロ。有名デザイナーの作成したチラシを模写するなどの独学を続けていると、鯖江市役所から「商工政策課の臨時職員としてデザイナーをやってみないか」と声がかかる。新山氏はこうして、商工関連のホームページ作成から観光パンフレットデザイン、物産展の空間づくりまで、あらゆるデザインワークを担当し、デザイナーとしてのスキルを身につけていく。

ちょうどその頃、鯖江には職人を志して移住する若者が増えていた。産地の未来に危機感を持つ若者たちと議論を重ねるうち、2013年に「クリエイティブで産地を盛り上げよう」と自然発生的にサークルが立ち上がる。移住者7人で始めた団体の名称はTSUGI。「"次『の時代に向けて、地域資源を"継ぎ』、新しい視点を"注ぐ『ことで、新たな関係性を"接ぐ』」という想いを込めた。

若者たちが集まれる場をつくり、ワークショップやデザインセミナー、WEBマガジン発行などに取り組むうちに「福井県内で悶々としていた若者たちが集まり、メディアにも注目され、デザインやイベントの仕事が舞い込むようになりました」。産地の確かなデザインニーズを感じた新山氏は、TSUGIを法人化して市役所を退職。産地特化型のデザイン事務所として再スタートした。

創造的な産地をつくる3つの機能

TSUGIが掲げるビジョンは「創造的な産地をつくる」。作れば売れる時代は終わり、産地にはブランドとクリエイティブが求められる。しかし企業や職人が単独でブランドをつくることは困難だ。産地に革新を生むために、TSUGIは「つくる」「支える」「売る」という3つの事業を行っている。

一般的なデザイン事務所との違いは、自社ブランドを持つこと、すなわち「つくる」という機能だ。「自分たちでブランドづくりを実践し、ノウハウをためて地域に還元することが狙いです」

眼鏡工場から出る端材活用がきっかけで生まれた自社アクセサリーブランド「Sur」

鯖江は業務用漆器の製造で全国シェア80%。この資源を活かした自社漆商品ブランドが「TOOWN」だ

現在は眼鏡工場から出る端材活用がきっかけで生まれたアクセサリーブランド「Sur」、角物木地を使ったお弁当箱ブランド「Bento_to」を展開し、間もなく漆商品ブランド「TOOWN」も立ち上げる。

「支える」はいわゆるクライアントワーク。地元企業のコンサルから商品開発、デザイン制作などを幅広く手がける。代理店経由ではなく会社と直接繋がり、社長と膝を突き合わせて課題発見段階から取り組むという。

「町医者のような役割ですね。人材や仕事を獲得するためにも、中小企業にこそブランドが必要です。鯖江には金子眼鏡店や、下請けから木製デザイン雑貨に業態を変えたHacoaなど、ブランディングで成功した企業は多くあります。それらに続く企業を支援していきたい」

もうひとつの事業である「売る」は、イベントなどを通じた産地や製品の発信。現在力を入れているのが、産業観光イベント「RENEW」。期間中は鯖江市の工房・企業が開放され、職人の仕事を間近で見たり、体験することが可能になる。

「外に向けての魅力発信だけでなく、インナーブランディングも目的にしています。お客さんに褒められれば、作り手も嫌な気持ちはしない。どんどん作り手や住民のテンションがあがり、参加企業は80社以上に増えています」

3年目となる2017年は中川政七商店が主催する「大日本市博覧会」と連携したこともあり、4日間で前年の約20倍の4万2000人が鯖江を訪れた。RENEWを始めてから6社がファクトリーショップをオープンし、移住者も増えているという。

 

2017年に3度目を迎えた産業観光イベント「RENEW」。中川政七商店とのコラボレーションで4万2,000人を集めた

インタウンデザイナーの時代

「やりたいことは沢山あります。鯖江をモノづくりの仕事に就きたい若者が最初に思い浮かべるまちにして、移住者や後継者を増やしたい。素敵な宿泊施設をつくりたいし、観光案内所兼ショップもつくりたい。すべてが上手く行っているわけではないし、成長痛もありますが、確かな手応えは感じています。僕は鯖江に骨を埋めるつもりです」

TSUGIは正社員4人、外部パートナー4人という小規模な所帯ながら、常時約30案件を抱え、その95%が福井県内からの仕事だという。

「現在、デザイン事務所の約半数は東京・大阪に集中していますが、地域には僕達のような『インタウンデザイナー』が必要とされています。漁師のまち、観光のまち、農業のまちなどデザイナーが活躍できる場は様々だし、求められる役割も地域によって違うでしょう。大切なのは専門性や自己表現よりもユーティリティ。教科書はないし、カメレオンのように自ら変化することが重要だと思います」

地域におけるデザイナーの新しい可能性を示すTSUGI。インタウンデザイナーとしてのモデルケースを確立すべく、新山氏の挑戦は続く。

新山直広(にいやま・なおひろ)
合同会社ツギ代表、デザインディレクター
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