医療機関の枠を超え、地域が抱える課題の解決に挑む

『メディカルコミュニケーション2017年夏号』より
能登半島の中ほど、石川県七尾市に位置する恵寿総合病院は、医療の枠を超えて地域の生活全体を支えるという理念のもとに数多くの先進的な取り組みを行っており、全国から注目を集めている。ここでは、同地域の自動車学校と連携して実施している高齢者の自動車運転対策を紹介する。

自動車運転のシミュレーターと、作業療法士の髙間達也氏(左)、川上直子氏(右)。

近年、高齢運転者による交通事故が多く報道されている。今年3月には道路交通法が改正され、75歳以上の人は免許更新時に認知症検査が必要になるなど、高齢運転者に向けての対策が強化されている。超高齢社会を迎える日本にとっては、重要な課題である。

恵寿総合病院では10年以上前から、高齢者をはじめ入院患者の運転技術支援事業を行っている。同じ七尾市にある七尾自動車学校と提携し、安全に運転することが可能かどうかを多角的に検査しているのだ。作業療法士の髙間達也氏と川上直子氏は、検査の流れを次のように説明する。

「検査を実施するのは脳損傷のみられる患者さんがメインとなります。われわれ作業療法士が神経心理学的に運転に支障がないかを評価し、さらに2年前に導入した自動車運転のシミュレーターを使って、運転能力の評価をします。その結果を医師へ伝え、損傷部位の経過など総合的な見地から運転可能かどうかの判断を行っています」

病院内の検査だけで終わることもあるが、必要に応じて七尾自動車学校の検定を受けてもらい、プロの目から運転技能の判定も行う。昨年度だけでも、50名近くの患者が自動車学校へ足を運んでいるという。

検定では、検査員が横に座り主要道路を50分間走ってもらう。七尾自動車学校が独自に策定した基準により運転可能かどうかを判断、その結果を病院へ伝える。もちろん最終的な判断は運転者本人と公安委員会が決めることになるが、技能的に問題がないかについての有用な参考資料となる。

七尾自動車学校ではObjet(オブジェ)という運転技能自動評価システムを取り入れている。頭、足と車体にモーションセンサーやGPSを装着し、運転中の身体的な動きを定量的に測定することで、より正確な検査が可能だ。

「患者さんの検査については、すでにドライブレコーダー映像を使った客観的な評価も取り入れています。今後はこのObjetを患者さんの測定へ使用して、説得力のある資料をつくっていく考えです」。脳若トレーニングなど認知症予防にも取り組む七尾自動車学校 代表取締役社長の森山外志夫氏は、事業の一環として高齢者運転問題に携わることが「社会貢献につながる」と話してくれた。

恵寿総合病院では、七尾自動車学校と連携したこの取り組み以外にも、医療から介護・福祉まで一貫して「生活を支える」サービスの提供や、病院ほか関連施設で働く職員のモチベーションづくり・人材育成などさまざまな施策を実施している。医療機関の枠を超え、地域全体の活性化を目指す恵寿総合病院の取り組みは、同様の課題を抱える多くの地域のヒントになるだろう。

七尾自動車学校での運転技能判定の様子。高齢運転者の隣に検定員が座り、独自の基準に基づいて判定する(検定員:円山菊昭氏)。

『メディカルコミュニケーション2017年夏号』

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特集
日常になる遠隔医療
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(発売日:7月18日)

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