日本企業を「知の衰退」から救え 丹羽宇一郎氏と戦略広報

丹羽 宇一郎(元伊藤忠商事社長 元駐中国大使)

広報部長は経営を理解せよ

上野:伊藤忠商事の社長在任時には、コーポレートロゴの刷新を進められましたね。

丹羽:本社だけでなく、国内外のあらゆる拠点を巻き込んで、1年ほどかけて全社を挙げた改革運動を進めました。グローバルに展開する総合商社にふさわしい存在であるためにはどうすべきか。検討を重ね、組織改革を行い、企業理念を抜本的に変えた上で、百数十年続いたこれまでのロゴや社章を新しくしたのです。

上野:まさにアイデンティティのつくり直しですね。

丹羽:大作業でしたが、全社運動をしたことで、社員全員で伊藤忠を変えるのだという機運が生まれ、新しい企業文化をつくることができました。

上野:トップの立場から見て、広報はどうあるべきだとお考えですか。

丹羽:広報部長は社長の片腕です。広報は、経営陣から言われたことを単に世間に広めるだけの存在ではありません。社長と同じレベルで、経営全般を理解しておく必要があります。私がトップを務めていたときは、常務以上が出席する経営会議に広報の責任者を陪席させていました。そこでどういう議論が行われ、どんなことが決まったのかを把握させるためです。

時には耳の痛いことも進言を

上野:トップの情報参謀の役割を果たす広報パーソンを育てるには、知性や分析力で判断できる人材を育てていく必要があると思います。もっとも、最近「知の衰退」が起きているのではないかとの危機感もお持ちですね。

丹羽:広報部長は、その企業のガバナンスがどうなっているのか理解しておく必要があります。私が知の衰退と言っているのは、このガバナンスが衰退しているということです。企業の中で誰が権限と責任を持っているのか。そうしたことが大企業とされる企業でさえ明確になっていません。その背景には、本当に正しいと思うことはたとえ自分ひとりだったとしても勇気をもって発言するという人が減ってきたということがあります。

そして、「そういうことは許せない」と発言する人がもっと増えなければ、社会はさらに窮屈になります。勇気を出して発言した人に拍手をして、声を上げて賛同してあげなければいけない。企業でいえば、そういう役割は広報部に果たしてもらいたいですね。耳の痛いことは言わずに、トップに対して迎合するような人間ばかり選んでいたら、その会社は絶対に長続きしません。

上野:大きな企業になると、他部署には干渉しないという企業文化が阻害要因になったりします。

丹羽:制度よりも、組織の一員としてのリーダーの日常の行動がどうあるかが重要です。したがって、広報には会社の情報を発信するだけでなく、社会の立場に立ち、ステークホルダーや社会の声をトップに伝えなければいけません。それが経営者の片腕であると言われるゆえんです。

《聞き手》
社会情報大学院大学 学長 上野征洋氏

 

丹羽 宇一郎(にわ・ういちろう)
元伊藤忠商事社長 元駐中国大使

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