バッドロケーションに賑わいを 想像から創造を生み出す「強さ」
人通りが少ない、寂れているなど、一般的な飲食店が二の足を踏む立地に出店する「バッドロケーション戦略」で成長し、売上高が100億円に迫る勢いのバルニバービ。同社は、「飲食」の枠組みにとどまらない店舗開発を推し進め、地域に賑わいをもたらしている。
JR大津駅に直結、飲食店だけでなくカプセルホテルも併設する複合施設『ザ・カレンダー』。陶芸体験や着物教室など、イベントの開催にも力を入れている
安藤 文豪(バルニバービ 常務取締役COO)
「2011年にここに店を出す前、土曜日に店前の通りを歩く人を数えたら、丸1日で50人もいなかったんですよ」
さまざまな業態の飲食店を76店舗運営し、売上高が100億円に迫る勢いのバルニバービ。常務取締役COOの安藤文豪氏は、蔵前の隅田川沿いに位置するバルニバービ運営の複合商業施設『MIRROR(ミラー)』7階のラウンジで、そう言って笑った。
『ミラー』は、年間約20万人が来店するカフェ、バー、ギャラリーが併設する人気スポットだ。オープンしてから6年が経つが、1、2階に入っているカフェは今もランチタイムに行列ができている。
もともと、『ミラー』のある蔵前は町工場が並んでおり、若者が足を運ぶような地域ではなかった。それが今では、外国人だけでなく日本の若者も多く泊まりに来るゲストハウス、洗練されたレストラン、ショップなどが軒を連ねる注目のエリアになっている。
「立地」という観点で見ると、人がその通りを歩いていなくても、周辺には人がいる場所がある。求心力のある店舗がオープンすることで、新しい人の流れが生まれ、まちに賑わいがもたらされているのだ。
バルニバービは、人通りが少ない、活気がなく寂れているなど、一般的な飲食店であれば二の足を踏む立地に積極的に出店する「バッドロケーション戦略」で成長してきた。2015年10月には、東証マザーズに上場。近年、業績を急拡大させている。
「無駄な空間」こそ必要
バルニバービは、なぜバッドロケーションに注目するのか。
「人がたくさん通る立地は、競合店舗が多く、坪単価も高い。でも、大通りから1本、2本入ったところになると、坪単価は一気に下がります。そうなれば、店舗面積の広い場所を確保し、大規模店をつくりやすくなる。空間にゆとりがあることで、居心地のよい店舗ができます。一見、非効率に見えるとしても、無駄な空間こそ必要だと考えています」
安藤COOがもう一つ、「非効率」として挙げるのが、店舗ごとに異なる店づくりを行っていることだ。出店を決めた関係先とは、どんな店にするのかをひざを突き合わせて話し合い、さらに地域住民の集まりにも顔を出して、生の声を聞いたりする。
「多くのチェーン店は店舗モデルをパッケージ化しており、コンテンツづくりよりも、数値的な市場調査に力を注ぎます。しかし、バルニバービはそれとは真逆で、あえてマニュアル化していません。別の場所で人気のお店をそのまま持ってくるのではなくて、この場所に何があると地域に喜ばれるのか、時間をかけて話し合います」
それは、人材の育成・活用にもつながっているという。
「ルールやマニュアルで束縛せず、スタッフから良いアイデアが出てきたら、それを採用する。私たちは特別なことをやっているのではなく、本来、人は想像する生き物。自分たちで考える環境になっていることは、スタッフの成長にもつながっています」
潜在的な地域の魅力を発掘し、建物をリノベーション。地域に賑わいをもたらす中核施設としてよみがえらせる(写真は、東京・蔵前の『ミラー』)
ホテルや観光案内所も手掛ける
今、バルニバービのもとには、年間で数百件の案件の引き合いが届く。見込みのあるバッドロケーションを見極めていくうえで、決め手になる要因の一つが、「地域の人たちが喜ぶストーリーを描けるかどうか」だ。
「ストーリーは個人の想像から生まれますが、それは単なる妄想ではなく、周辺の地域を巡ったり、たくさんの人の声を聞いたりした結果、つくられるものです」
2016年10月、滋賀県・大津駅直結の商業施設「ビエラ大津」がオープンした。バルニバービは、その中核テナントを担っており、380坪の大型複合施設『THE CALENDAR(ザ・カレンダー)』を運営している。
『ザ・カレンダー』には、飲食店だけでなく、カプセルホテルが併設されているほか、ブックカフェや卓球ラウンジもある。さらに、バルニバービは観光案内所も運営しており、酒蔵見学ツアーや着物教室などの企画・運営を行っている。「飲食」という枠組みにとどまらないコンテンツは、ストーリーによって生み出される。
「例えばカプセルホテルの背景には、法事などで親戚一同が集まったときに、駅の近くに気軽に泊まれて、快適に過ごせる場所があったら利用したくなるというストーリーがある。卓球ラウンジも、収益性を考えたら、卓球台のスペースを客席にしたほうがいい。でも、会社員の方々がお酒を飲んでいて、ふと横を見て卓球台があったら、自然とそれが話題にのぼり、普通なら『もう1軒、行こうか』となるところで、卓球を始める姿が見える。卓球台を置いたら人気店になるという話ではなく、そこにストーリーがあることが重要だと考えています」
コト消費を支える「想像力」
近年、体験型サービスなどコト消費が注目されているが、バルニバービにとっては、イベントなどを手掛けるのも「体験が流行しているから」ではなく、ストーリーを描くという方法論から導き出される結果だ。
「コト消費を支えているのは、想像力とストーリー。私たちは、想像から創造を生み出すことを繰り返している会社なんです」
ストーリーをカタチにするうえでは、空間デザインも重要になる。バルニバービでは、デザインの多くを社内のデザイナーが担当している。それにより、メンテナンス時にも柔軟に手直しをしながら、場の心地よさを維持することが可能になっている。
バッドロケーションに賑わいを生み出すバルニバービの戦略は注目を集め、近年は自治体や教育機関からの誘致も増えている。今、全国で活気がなく寂れている場所は増え、再生が難しいように思われているが、安藤COOの目にはそう映っていない。
「地方にも、ポテンシャルのある立地はまだまだたくさんあります。これからも、そんな立地との出会いに想像と創造の繰り返しをしていくんじゃないかなと思っています」