外国人旅行者の利便性を高める インバウンド消費喚起の決め手

政府は2020年に訪日外国人旅行者の消費で8兆円規模の市場を生み出す目標を掲げ、その実現に向けてキャッシュレス環境の整備を進めている。旅行者の利便性を高めると共に、販売機会損失をなくすことを目指す。

訪日外国人旅行者への販売機会損失をなくす

政府は「観光立国」政策を掲げ、2020年には訪日外国人旅行者数を4000万人に増やすとともに、8兆円規模の消費市場を生み出そうとしている。そのような中で「日本再興戦略」の2016年版では、主要観光地における100%のキャッシュレス決済対応、決済端末のIC対応が新たな目標として加えられた。

「これは外国人旅行者に8兆円規模の買い物をしていただく際、カードが使えないことによる販売機会損失を避け、あわせてセキュリティも確保していこうというものです」。新たに加わった政府の目標について、ビザ・ワールドワイド・ジャパン取締役次席代表の松田典久氏はこう解説する。

訪日外国人旅行者が「不満に思ったところ」に関する観光庁の調査では、「クレジット、両替に関する不満」が4番目に挙げられた。特に、地方に関しては35%の訪問者が「クレジットカードの利用や両替で困った」としており、カードが利用できる場所の整備が、今まさに求められている。(出典:観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」結果2017年2月、「外国人旅行者に対するアンケート調査結果について」 2011年11月)

「外国人旅行者がカードで買い物をしたくてもできないのは、お店にとっても販売機会損失を意味します。たとえ少額の買い物であっても外国人旅行者はその都度日本円への両替が必要になります。また、日本ではカードが利用できる店舗であっても、少額の場合、利用を断ることがありますが、このような制限行為は海外では見られないものです」

2020年に8兆円規模の市場を生み出すには、国内のキャッシュレス環境の整備が不可欠となる。訪日外国人の日本滞在中の平均消費額に関する調査では、現金のみで支払った人とカードを利用した人の平均消費額を比べると、全体でも個々の店舗単位でも、カードを使った人が現金のみの人を大きく上回るという結果も出ている。(出典:ビザ委託調査 ブラックボックス/外国人旅行者に関する調査(2016年7月)

その要因のひとつとしては、カード決済と現金決済では、心理的な部分で使う計算式が異なることがある。

「カード決済で使われる計算式は足し算で、現金決算では引き算だといわれます。例えば、カード決済で3万円と2万円の商品を購入する場合、翌月に5万円を支払うと足し算で考えます。一方、現金では手元に5万円があるから3万円使うと2万円しか残らないと引き算で考えるのです」

また、現金は「旅行中に現金しか使えない時に備え、取っておこう」という利用控え思考がある一方で、カード決済では「せっかく旅行に来たので、多少値段が高くてもこの機会に良い物を買おう」という気持ちになりやすい。

「日本でよりカードを利用しやすい環境になれば、訪日外国人旅行者の滞在中の消費額は一人当たり約271ドル増えるという試算結果(出典:同上)もあります。これが2020年の目標である4000万人の一人一人に発生するとするとするならば、単純に約1兆1500億円の販売機会損失をなくせることになると言えます」

図 インバウンド旅行者の日本での支払に関する調査

(出典)Visa委託調査:ブラックボックス/外国人旅行者の日本での支払に関する調査(2015年6月)

小型店や地方で効果が大きいブランドマークの掲示

観光客が多い地域では、カードの利用環境を改善する様々な取り組みも始まっている。ぬまづみなと商店街協同組合は、カードを利用しやすい環境を一層整備するため、所属店舗において2015年5月に利用可能なカードをわかりやすく掲示すると共に、かざすだけで支払いができる「非接触IC」カード対応の最新機器も導入した。

その結果、あるお土産物店では整備前のカード決済する人の一人当たり単価は2700円で、現金支払いの人の単価(1200円)の2.25倍だったが、整備1年後にはカード決済の単価がさらに15%増加したという例も出ている。

また、石川県金沢市では2016年4月下旬から観光客が多い「兼六園」と「金沢城公園」の入園料でカード決済を導入した。その結果、導入直後の4月28日~5月8日の間だけでカード決済件数が702件となり、小銭を敬遠する外国人の利用を促進したという。

外国人旅行者の購買機会を増やし、消費拡大を目指すには、カードが利用できることを知らせる「ブランドマーク」を店頭などのわかりやすい場所に掲示することも重要だ。「外国人旅行者はブランドマーク掲示がある店の方が入りやすいという傾向が、私たちの調査で示されています。掲示があれば、『現金しか使えないかもしれない』という不安が解消され、購買の機会の増加につながります」。

東京・表参道で行われた実験では、ブランドマークを入れた大きなステッカーを店舗の外側に貼ったところ、カード利用が大型店では7%、小型店では19%増えた。(出典:ビザゾーン表参道/ブラックボックスリサーチ2014)特に小型店や地方の店舗では、カードが使えないと思っている顧客が多いことから、マークの掲示が大きな効果を発揮する。また、カード払いの買い物は現金払いより単価が約38%大きいという調査結果もある。このため、カード利用で、買い物の頻度が増え、単価が上がれば売上増加にもつながる。

訪日外国人旅行者の出身国をRESAS(地域経済分析システムhttps://resas.go.jp/)で検索すると、地域別・国籍別に消費額とその推移や取引件数、取引単価などが表示され、地域による訪日客の違いも分かる。このため、各地域を訪れる旅行者に合わせた言語も加えて店頭掲示を工夫することで、外国人旅行者が親しみやすい雰囲気を出し、より大きな効果を期待することもできる。

その他の地域商店街などでも、同様のインバウンド施策を効果的に活用する事例が出てきている。次号連載では、北海道(札幌市など)のキャッシュレス環境整備事例を紹介する。

表参道店舗でのブランドマーク掲示

京都における多言語展開のブランドマーク

商店街でのVISA ZONEのフラグ

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