2017年5月号

第1回DMO全国フォーラムレポート

地域の組織と人を「巻き込む」 広域・地域連携の最先端事例

村橋克則(せとうち観光推進機構 事業本部長) 松木政治(富良野市商工観光課)

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地域の観光振興に際した協力は、異なる県を跨いだ広域連携や、地域内に集中した連携など、展開は多様である。日本版DMOの本格導入を控え、先進事例として頻繁に取り上げられる広域観光連携の今を、瀬戸内と道央の事例から探った。

せとうちDMOの組織と取り組み

「瀬戸内ファインダー」ポータルサイト。六つのカテゴリーを軸に地元ライターがお奨めを紹介

瀬戸内の中で、歴史や地域性の異なる7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県 、香川県、愛媛県)から成り、その景勝は世界の著名な探検家やパナソニック創業者・松下幸之助から絶賛されている。しかし現状を見ると、例えば外国人延べ宿泊数を見ても、7県を合計した総数(261万人)は全国7位の福岡県(236万人)にようやく並ぶ程度である(2015年観光庁統計)。

こうした現状を打開しようと、瀬戸内は従来の行政区域を超えて連携し地域を跨いだ観光振興に取り組み始めた。その担い手である瀬戸内ブランド推進連合(2012年発足)の先駆的な取り組みは、かつて本誌2015年10月号でも紹介された。現在の「せとうちDMO」は、同連合が発展的改組した「せとうち観光推進機構」と金融機関と事業会社からなる「瀬戸内ブランドコーポレーション」の設立を経て昨春(2016年4月)に現在の事業形態で始まった。「瀬戸内の魅力を国内外に向けて発信し、来訪者・交流人口の増加を図るとともに、せとうち地域ブランドを確立する。域内事業者と住民の意欲を喚起し、新産業と雇用の創出をはかり、地域再生と自立的かつ永続的な成長循環を作り上げる」ことをミッションに掲げ、地域とステークホルダーが緊密に結びついた一体的な推進体制を実現している。

せとうちDMOが地域の観光振興において主に担うのは事業者・組織間の幅広い連携である。具体的には各種振興事業の事務局・域内の現状把握、新商品開発、インキュベーション(事業育成・起業支援)における広告・宣伝、マネジメントを担っている。

せとうち観光推進機構としては、数年以内に認知度で北海道や沖縄に並ぶことを目指している。

何を運営・推進するか

そもそもDMOが担う役割には、大きく二つある。さまざまな嗜好を持つ観光客が持つ個々の潜在的ニーズに訴求し、来訪行動へ結び付くよう効果的な情報提供・発信を行うことである(マーケティング)。あわせて、観光地にも顧客とともに満足するサービスを提供できるよう、適切な運営体制を整備することである(マネジメント)。せとうちDMOは、滞在者満足度だけでなく住民満足度をも重視し、受け入れ環境の整備に努めている。

このうち後者のマネジメントについては、地域事業者や住民を「巻き込む」様々な取り組みを進めている。

広域のエリアマネジメントはどのように推進しているのか。まず、エリア部会を設け、ストレスなく地域を満喫し、再訪意向が高まるよう受け入れ環境を整備する。

また、テーマ別部会を設置し、瀬戸内の価値を高め、「儲かる商品・サービス」開発を共同で推進する。クルーズ・サイクリング・宿・アート・食・地域産品の六つを磨き込み、組み合わせつつ、必要に応じ、事業者の参画も得ながらインキュベーションを進める。DMOはマーケティングを担うと同時に、事業者の事業開発の阻害要因たる規制の緩和・インフラ整備に携わる行政のパイプ役も担う。

第三に、会員制度の設置である。地域の事業者が問題を「自分ごと化」し、当事者として関わってもらう様々なインセンティブを設定する。

会員である事業者は、観光客への良質な商品・サービスを提供し、若者にノウハウ・ネットワーク・資金を提供する。将来、地域観光振興を担う人材の育成に資する。

今後のマーケティング施策

他方、前者のマーケティングについては、資金やノウハウの制約から充分に実施できているとは言えない。

今年は以下のような取り組みを行い、次年度以降の蓄積とする。
⑴ 外国人観光客の動線や各地点消費額などのビッグデータ分析。今年は基礎づくりにあたり、以後の経年変化を追えるよう整備する。現時点の解析でも、瀬戸内地域が「船舶交通」を前面に押し出している割には、山陽・山陰・四国に跨った横断的な周遊が少ないのが惜しまれる。こうした動向を踏まえて、次の事業に何が必要なのかを適時観察していく。
⑵ あわせて実施する「瀬戸内ブランド調査」は、観光客の来訪意向・満足度など前身の組織から継続して取り組むものである。
⑶ 宿泊実態調査の実施。従来も取り組んでいたが、個別施設に問題があるという前提での取り組みが主体であった。実際は、「見る観光」が主たるコンテンツになり、アクティビティを含む滞在時間が短いために、結果として宿泊を伴う観光が発生しないのが適切な仮説ではないかと考えられる。
⑷ 在住外国人モニター調査の実施。今後インバウンド(訪日外国人観光客)の取り込みは重要視されているが、DMO担当者の多くはこれまで国内観光に従事し、国際観光には必ずしも精通していない。あらかじめメンタリティを深く把握することで、文化差を知り、来客への対応を容易にする。
⑸ 受入環境調査の実施。特に瀬戸内の海はクルーズの観光資源として最も重要視すべきものである。但しその際の主要顧客はアメリカ中心の外国人となる。日本では必ずしも普及していないラグジュアリー・クルーズをどう事業として定着させるかが課題となる。
⑹ 住民満足度(最高位のKGI[目標値])の向上である。4,000人を対象に各年度末に調査を実施し、経年変化を観察する。

既にポータルサイトとして認知度を上げている瀬戸内Finder では、観光客や事業者の情報を蓄積し、受発信のポータルサイトとして引き続き拡充していく。

販売支援はせとうちフェア(全12回)を開催し、富裕旅行者への販促にも投資と経営参画を行っていく。

「瀬戸内ファインダー」facebookページ。「いいね!」数は58万強(2017年3月現在)

道央に根差す観光地域づくり

富良野美び 瑛えいの観光圏は1994年から、27団体・6市町村で「観光地域づくり」としてスタートした。観光への誘客を通じて、地域経済の振興につなげる目的で、観光庁立ち上げと同時にいち早く導入された概念である。同観光圏がわけても北海道の中央に位置する特質を生かし、拡散・拡大よりは内への凝集に重点を置いてきた。

具体的には、「観光地域づくりマネージャ」の認定、泊食分離(客足を街に降ろし、いかに延泊を増やすか)、また地域のホテル持ち回りでの国際交流イベントを開催し、市民ボランティアによる外国人のスキーホストを手配している。

接客面でも、質を向上させるため、倉本聰氏の率いる「ふらのグループ」監修による「(お客をもてなす演技としての)演劇による表現コミュニケーション」の研修を行ったり、観光パッケージに脚本家がシナリオを添え、起承転結の物語を付けることで、従来の観光ルートに捉われない移動チャネルを提示したりという様々な取り組みを行ってきた。

滞在型のイベントでは、エン旅(エンターテイメントな旅)、ナイトシャトルバスの手配を進めている。

ウェブ展開は、せとうちDMOと同様に、ポータルサイト「田園休暇」を開設し、統合的な情報発信を進めている。誘客には繋がるがリピーターの確保には繋がらないという負の面が現れてきた。

この負の面を補い、多様な観光事業を推進していくため、広域DMOを上位に置き、富良野版DMC(会社の設立)を個別に配するピラミッド型の推進体制を取る。全体として富良野美瑛の名前をブランドとして認識してもらう。また各地のDMOをインターネット・クラウドで繋ぐ「DMOネット」をインフラとして整備していく。

もちろん、DMOだけでは担うことができない要素や側面もある。道路などの交通インフラは行政が作るものであり、景色の基礎をなす田畑や町並みは農家や在地の商店街により時間をかけてられるものである。こうした多様な事業者の協働と連携が、持続的な観光振興の要諦になる。

以上、道央の観光連携に際してのポイントを改めて以下にまとめてみよう。
⑴ 「地域経済の拡大」と「拡大した規模の持続」をミッションとする。
⑵ そのため、天候にかかわらず旅行者を年間通して安定的に呼び込む。
⑶ 顧客を知るために、マーケティングのプロを育てる。
⑷ 顧客との接点を持ちデータを体系化する。
⑸ 「歩いて回れる街」を目指し、昔ながらの街並みと新しいものが混在した街並みづくりを進める。
⑹安定財源を確保・拡大する。

演劇風の旅を演出する「富良野プレミアムシアター」

新しい観光創生へ

行政の連続性(インクリメンタリズム)に鑑みれば、本来刷新したい諸制度があるとしても、依然として変わらないことがしばしばある。その意味で、既存の変型よりは新規作成が重要であり、壊して一から作り直す(スクラップ・アンド・ビルド)ことが有効である。顧客や外部者の声を推進力として利用することが大事である。

予算もまた公平・平等ではうまくゆかない。選択と集中投下が重要になる。瀬戸内や富良野美瑛のように、広域連携を担うDMOの課題は、カバーすべき地理の広さに対して、組織規模が小さく、営業の人手が割けない点である。こういった点を補うべく、DMOは各アクターの隙間を埋める形で繋げることに注力し、DMCが個々の財源確保と経営に注力する、という役割分担が必要になる。いわば広域連携DMOが個別アクターの立ち回る舞台づくりに特化するのである。

人材の発掘と育成も追求すれば尽きない永遠の課題である。事業者としては観光地や交通(観光動線)などの設計が中心には据えられるが、実際に観光客の心に刻まれる旅のエピソードには、道すがら現地で会う「人」の印象が大きい。住民の間にも観光のプロに委ねるばかりでなく、自らの住まう土地を誇りに思い、広める市民意識の涵養が不可欠だ。コミュニケーション力・地域デザイン・マネジメントといった総合的なノウハウの普及が鍵になってくるだろう。

二地域の事例報告後、広域連携・地域連携をめぐる議論が交わされた。多様な利害と特性をもつ地域を適切な目標 値に収斂させることは極めて難しい。指標の選定・位置づけ、その利活用など、課題は多い

せとうち観光推進機構 事業本部長 村橋克則氏

富良野市商工観光課 松木政治氏

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