進化し続ける3Dプリンター 企業の事業モデルはどう変わる?

年間20%を超える成長率で拡大し続けている3Dプリンター市場。日進月歩で進化する3Dプリンターは、企業の事業モデルを激変させ、地方創生に寄与する可能性を持つ。今求められているのは、3Dプリンターを活用した事業構想だ。

2019年には3兆円市場に

トラタシスは3Dプリンターで世界トップシェアを誇る

2016年1月、アメリカの調査会社IDCは、3Dプリンターの市場について、年平均27%で成長し、2019年には267億ドル(約3兆500億円)規模に達するという予測を出した。

日本も同様に成長しており、IDC Japanによると2015年から2020年にかけて総売上額の年間平均成長率は15.3%で、20年には702億円にのぼるという予測を発表している。

3Dプリンターの急速な普及は、現在、そして未来の産業にどのような変化をもたらすのか。この成長市場で世界シェアトップを争うストラタシスの日本法人代表、片山浩晶氏は3Dプリンターについて「技術が日進月歩で進化していることで、注目を集めている」と語る。

「3Dプリンターは長年、試作品を作るための技術(ラピッドプロトタイピング:RP)として活用されてきましたが、造形速度の高速化、対応材料の拡大、製品の低コスト化などによって試作品以外の用途も拡大。現在、これまでのモノづくりの主流であった材料を削る、変形するという作業を必要としない、3Dプリンターで製品自体も作るDDM(ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)の時代が訪れつつあります」

ストラタシスは2020年までに、製品のツール・冶具を作るラピッドツーリング(RT)は市場規模が6倍、製品そのものを作るラピッドマニュファクチャリング(RM)は20倍になると予測しており、3Dプリンターの関連業界は技術開発にしのぎを削っているという。

片山 浩晶 ストラタシス・ジャパン社長

事業モデルを激変させる可能性

具体的には、どのような分野で3Dプリンターの導入が進んでいるのだろうか。

「RPは現在、既にほとんどすべての製造業分野で導入されていると言っても過言ではありません。RT、RMに関しては主に航空宇宙産業、自動車産業が積極的に動いています」

片山氏によると、航空宇宙産業、自動車産業といった精密かつ多種多様な部品、しかも軽量化など機能性の向上が必要とされる産業が3Dプリンターに着目しているのは、いくつかのポイントがある。

まず、量や形状の制約を受けないこと。従来のように、ひとつの部品のためにひとつの金型を作ると、何万、何十万個と量産しないとコスト的に割に合わないし、金型をストックする手間も大きい。安全規格の変更などで部品の変更が必要になった場合は、量産した部品が使えなくなり、新たな金型の製造が求められる。

一方、3Dプリンターは必要な部品を必要なだけ作ることができるうえに、複雑なデザインにも対応可能。もし部品の変更が必要になったら、3Dデータを入れ替えるだけですぐに生産体制に入ることもできる。

もう一点は、在庫の管理。例えば、世界各国に就航する航空会社は、飛行機の保守パーツも各地に保管しておかなければならない。そのために各社が空港の近くに巨大な倉庫を保有しているのが現状だが、各地に3Dプリンターを配備しておけば、現地で必要な部品を製造することも可能になる。

このように3Dプリンターは、サプライチェーンはもちろん、企業の事業モデルを大きく変える可能性を持っている。既に欧米の航空会社などは、将来の技術革新を見越して3Dプリンターで製造できるもの、できないものの仕分けを始めている。この流れは、航空宇宙産業にとどまらず、様々な産業に波及していくことは間違いない。

3Dプリンターは造形速度の高速化、対応材料の拡大、製品の低コスト化などが進み、製品自体を3Dプリンターで作るDDM(ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)の時代が訪れつつある

共同研究プロジェクトが始動
日本企業の品質管理技術も重要に

16年6月には欧州の航空機大手エアバスが世界初の3Dプリンターで製作された航空機を披露して話題になったが、他社も研究開発に力を入れている。

「16年9月、アメリカの国際工作機械見本市(IMTS)でボーイングとストラタシスが共同開発した新たな3Dソリューションである2つのデモンストレーターを発表しました。3Dプリンターは通常上から下に積層していくボックス型なのですが、そのボックスを横向きに置くイメージで、可動式の台座によって従来不可能だった大きさの立体モデルを造形できるようになっています。その発表時に、共同開発への参加を呼び掛けたところ、フォードとシーメンスが名乗りを上げて、これから本格的な共同研究が始まります」

新型の3Dプリンター「Infinite-Build 3D Demonstrator(IB3D)」は、現時点で従来のスピードの10倍で造形でき、17年中には従来比125倍にまで進化するという。

3Dプリンターというと樹脂を材料にしているイメージがあるが、使用可能な材料の種類も増えており、IB3Dの場合、主に航空宇宙産業で用いられているULTEM(ウルテム)という高い強度と剛性を持つ特殊プラスチックをフィラメント状態にして使用している。カーボンや硬化剤などを混ぜた複合材料も使用できるようになれば、用途は広がる一方だ。

しかし、課題もある。品質管理である。

「品質管理に関しては、3Dプリンターは大きく遅れを取っています。試作品の場合、ひとつ作れば終わりでしたが、たくさん作ってそのばらつきを測るというノウハウはまだ不十分。日本のメーカーは品質管理、品質保証の技術に長けており、今後、一緒に研究開発していきたいですね」

いかに誤差なく製造できるか。この課題が解決されたときこそ、3Dプリンターを用いた本格的な産業革命が始まるのかもしれない。

ボーイングとストラタシスが3Dプリンターの共同開発に乗り出すなど、世界では3Dプリンターを事業モデルに組み込む動きが活発だ

3Dプリンターを導入し地域に開放しているアメリカの地方大学。地域活性化の観点からも、3Dプリンターは大きな可能性を持つ

オープンイノベーションへの活用
地方創生にも寄与

3Dプリンターは、イノベーションの起爆剤としても期待されている。現在、活発化しているのがファブレスで受発注できる3Dプリンティングのクラウドサービスだ。

エストニアのふたりのエンジニアが作った「GrabCAD(グラブキャド)」は、世界最大の3Dデータバンクで、エンジニアとして登録すると、誰でも自由にデータをアップロード、ダウンロードできる。現在325万人以上が登録しており、日々、国境を超えてデータがやり取りされている。

もうひとつは、ニューヨークに拠点を置くMakerBotによるデータ共有サービスの「Thingiverse(シンギバース)」。こちらも100万ファイル以上がアップされており、無料でデータをダウンロードできる。

これらは「YouTubeの3Dプリンター版」(片山氏)のような存在で、「グラブキャド」は本格的なエンジニア向け、「シンギバース」はライトユーザー向けとして、どちらもストラタシス社が買収しグループ内で運営されているのだが、近年様々な企業がこれらのユーザーに注目し始めているという。

「GEが、グラブキャド上で総額200万円の賞金をかけて次世代エンジンのブラケットのデザインを募集したところ、2ヵ月間で600件以上の応募がありました。優勝者はインドネシアの学生で、従来の84%の軽量化を実現するアイデアでした。GEは大喜びですし、その学生のもとにも仕事が舞い込むようになっています。ほかにもNASAやティファニーなど名だたる組織や企業がグラブキャドのユーザーに対してプロジェクト(GrabCAD Challenge)を開催しており、オープンイノベーションの場になり始めています」

企業とエンジニアを結ぶ試みは、地域レベルでも進んでいる。

「現在、アメリカの教育機関では約6000台のMakerBot Replicator 3Dプリンターが導入されていますが、地方の大学は、ビジネスとして地域の企業へのサービス提供や産学協同の製品開発などを始めています。3Dプリンターを持っていない地方の中小企業にとってみても、部品の試作や新製品の開発などができるために利便性が高い。そうすることで人が集まり、イノベーションの種をまくというファブラボのような役割を地方の大学が担っているのです」

日本ではまだ浸透していないが、「グラブキャド」のようなクラウド上でのエンジニアと企業の共創や、アメリカのような3Dプリンターを通した大学と地域企業の連携が進めば、地方創生にもつながっていくだろう。世界の動向に詳しい片山氏は、「人材を育てて、3Dプリンターを活用すれば、日本のモノづくりを変えられる」と語る。

「日本は今後3Dプリンターの分野で活用が確実視される機能性材料の分野で世界一の技術力を持っていますし、電子部品の分野でも世界をリードしています。企業や大学が3Dプリンターの技術革新やオープンイノベーションの可能性に気付くことができれば、もっと世界で活躍できると思っています」

イノベーションの原動力になり得る3Dプリンター。企業や地域には、3Dプリンターを活用した事業構想が求められている。

会員数325万人の 3Dデータバンク「GrabCAD」上で、GEは次世代エンジンのブラケットのデザインを募集。オープンイノベーションにこうしたサービスを活用する動きも広がっている

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