消費者、投資家の視点の変化 待ったなしの環境貢献事業

パリ協定で気候変動への対策は進む。CO2排出量の削減をカーボン・オフセットで進めるEVIは、企業、自治体、消費者全てが、身近に環境貢献できるプラットフォームを作る。「環境貢献」は投資の判断でも重要な位置づけで、事業展開においても欠かせない視点だ。

EVIは、購入金額の一部が森を守るクレジットにつながる仕組みを作った。「EVIショップ」にて、クレジットの対象となる雑貨や食品などを販売する

「環境落語家」「環境貢献型ダンスユニット」−。気軽に、楽しみながら、環境に貢献でき、環境について知ることができるイベントが各地で開催されている。一見難しく、敬遠しがちな環境保全・環境貢献活動。自治体やNPO、企業、そして一般の人も参加しやすい仕組みを作る組織がある。それがEVI(Eco Value Interchange)推進協議会である。

EVIは、日本の森と水と空気を守ることを目指した、森林事業者、企業、消費者の三者を結ぶ環境貢献プラットフォーム。企業が森林事業者からCO2吸収実績を「クレジット」として購入することで自分たちのCO2排出を相殺する「カーボン・オフセット」を促進するなど、国の仕組みを補うインフラである。

EVIのクレジットの特徴は、クレジットを小分けにできること。1トン1万円という単位でなくても、3000円、6000円など小分けにして購入することができ、中小企業での購入がしやすい仕組みだ。個人であれば、通販サイト「森のめぐみのおとりよせ」で、商品金額の1%をクレジットに充てることができる。EVIは全国90カ所の森林などのオフセット・クレジットを持っているため、生まれ育った地域や住んでいる地域など、購入者が応援したい森を選べることも特徴だ。

EVI推進協議会でもあるカルネコの加藤孝一代表取締役社長は、「日本は国土の約7割を森林が占めますが、日本人が日本の木材を使う割合が下落したため、未来に向けての森林整備ができていません。もっと日本の木材を使うことと、クレジットを購入し活用していただくことを地道に拡大していかなければいけないと思います」と課題について語った。

加藤孝一 カルネコ 代表取締役社長

森林管理の負の循環を解決する2つの方法

日本の木材自給率は、2009年に27.8%まで落ち込んだ。2009年12月には林野庁が「10年後の木材自給率50%以上」を目指すべき姿として、「森林・林業再生プラン」を策定した。プランでは、(1)適切な森林施業が確実に行われる仕組みの整備、(2)広範に低コスト作業システムを確立する条件整備、(3)担い手となる林業事業体や人材の育成、(4)国産材の効率的な加工・流通体制の整備と木材利用の拡大という4つの改革を提言し、具体策に移していった。その結果、木材自給率は、2011年から5年連続で上昇し、2015年には33.3%まで回復した。しかし、以前として約67%は輸入材で、輸入中心の現状だ。

国土面積の7割を占める森林。使用目的がない森林は、伐期を迎えても伐採されず、また間伐などの手入れがされていない。そのような森林は、木の成長は悪く、CO2の吸収力も低下する。また太陽光が届かないため、下草が生えにくく、根もしっかり張ることができず、風雪の被害を受けやすくなり、土砂崩れなどの災害が起きる危険性もある。一方、木材が利用されないため、森林管理のための資金もなく、放置されるという負の循環が続いている。

「今できる解決策は2つあります。1つは、木材を利用し、売上としてのお金を森林業者に回すことです。ノベルティなど小さい商品であれば間伐材を利用することもできます。2つ目は、カーボン・オフセットの考えです。木材を利用できなくても、クレジットを購入することで森を守る資金を確実に届けることができます」

パリ協定は一人ひとりの行動から

2015年、パリで開催された気候変動枠組条約締約国会議COP21では、新たな法的枠組みとなる「パリ協定」が採択され、196ヵ国・地域が批准に向けて完全に合意。2016年11月4日に発効された。

産業革命以前と比較し、世界の平均気温上昇を2度未満に抑えること。21世紀末までにはCO2排出量をゼロにするという目標だ。日本は、2030年度に2013年度比でCO2排出量を26%削減するという目標を掲げる。

「目標だけではうまくいきません。この事実を多くの企業、一般の方々が知り、一人ひとりができることを始めていかなくてはなりません」

EVIでは、過去5年間連続で、「生活者環境意識に関する調査」を行ってきた。2016年の調査では、環境保護・保全活動への参加意欲は、26.9%の人が持っている。保護が必要だと思う対象は、男女ともに「国内の森林」が1位という結果だった。

「日本の森を守る活動は、ボランティアや寄附の資金によるところが大きく、活動自体の持続可能性が低いことが課題です。そこで、普段の買い物を通じて、森を守ることができないかと考え、EVIでは購入金額の一部が森を守るクレジットになる仕組みを作りました」

現在は、コメなどの食品、文具、キッチン用品、子ども用品など多数取り揃え、販売している。2015年4月には、それらの商品を販売する「EVIショップ」を楽天、ヤフー、アマゾンにオープンし、より気軽に買い物ができる工夫をしている。さらに商品ラインナップを増やし、ニーズに応えていく姿勢だ。

先述の調査で、「環境保護・保全活動を行う企業の商品・サービスの購入意欲が高まるか」という質問に対し、約6割は高まると回答。環境保護・保全活動を行う企業の商品(日用品)を高くても選ぶ人は2割程度、同じ価格なら選ぶという意見が半数程度もいる。「環境」のキーワードは、商品や企業のブランドを上げるカギとなっている。

変わる市民、企業の姿勢

EVIは毎年、東京にて「EVI環境マッチングイベント」を開催している。このイベントは、クレジットを提供する森林事業者、クレジットを購入する企業、消費者をつなげることが目的だ。2016年10月には、第6回を迎え、「もっと身近に。」をテーマに東京国際フォーラムにて開催された。

EVI事例1 【環境落語】真打 春風亭柏枝

真打 春風亭柏枝

落語芸術協会の真打 春風亭柏枝が、環境落語「和尚とちん念」を、「EVI環境マッチングイベント2016」で披露。落語を通して、“カーボン・オフセット”を知ったかぶってはいけない!というメッセージを込め、観客が楽しみながらカーボン・オフセットについて知る機会を提供している。春風亭柏枝は1高座につき「150円」を森林支援に回している。森を守る日本初の落語家を宣言した。

 

来場者は日本各地から約300名が集まり、今年は一般の参加者が多いことが特徴的だった。第1回では一般の参加者は0名であったが、今年は60名も参加した。2015年のCOP21での話題もあり、多くの市民が「環境における真実」と、環境のためにできる活動に興味を持ち始めたのだろう。

今年は、落語家の真打 春風亭柏枝がカーボン・オフセットをテーマにした「環境落語」の「改作 和尚(おしょう)とちん念」、「環境パフォーマンス」としてボルカホンラインダンスユニット「Cheeky」がダンスステージを披露した。

「環境の話は難しい、敷居が高いというイメージを持つ人が多いです。『環境落語』はしっかり環境問題やカーボン・オフセットの話をしますが、落語で話されると笑いもあり、そして頭に入りやすい。来年は全国の自治体での講演も、環境落語も合わせて積極的に行っていきたいです」

環境落語は、1高座150円が森林のクレジット購入に回る仕組み。ライブの落語を聞き楽しみながら、環境問題を知るきっかけになり、同時に環境貢献に参加できる新しい取り組みといえるだろう。

環境パフォーマンスを行う「Cheeky」が使用している「ボルカホン」は、ダンボールでできたカホン型パーカッション楽器。ボルカホンは1商品につき100円が森林支援に回る楽器で、環境貢献型商品でもある。Cheekyは1公演につき500円を森林支援に寄与し、ライブを通して環境貢献している。

「まずは多くの人に環境問題の現実を知ってもらうこと。そして、消費者がカーボン・オフセットを使って、1円、10円という単位でもクレジットを購入でき、森にお金を回せるという事実を、まず知ってほしいです」

EVIの過去の事例でいうと、トマト1パックを購入すると、支払った価格の10円が森林の支援に回る。コーヒーフィルターを購入すると、佐賀県のムツゴロウが住んでいる森林を守ることができるといった仕組みだ。

最近では、鳥取県の日南町の道の駅「にちなん日野川の郷(さと)」で、CO2排出量ゼロのカーボン・オフセット道の駅を目指すという事例が出ていたり、再生可能エネルギーの電気を購入すると一部がクレジットに回る仕組みを作ろうとする電気会社が出てきたりと、自治体や企業との連携も増えている。

「自治体や企業は、“環境のために”新しい商品やサービスを作らなければ、と意気込む必要はありません。既存の商品やサービスに、EVIの仕組みを組み込むだけで、自治体や企業だけではなく、消費者も一緒に環境貢献に参加できるのです。ビジネス視点で見ると、『グリーン金融』の考え方が出てきて、これからは投資の基準として『環境を意識していること』が必ず付加されるでしょう。特に欧米ではその兆候が強く、グローバルに展開する企業は特に意識しなくてはならないのではないでしょうか」

EVI事例2 【高校生の環境貢献】愛知県立南陽高等学校 Nanyo Company部

愛知県立南陽高等学校の「Nanyo Company部」は、地域のために何ができるのかを自分たちで考え、エコバック等商品の開発や販売、地域イベントへの出店などを継続して行ってきた。フィリピンのココヤシを使ったキーホルダーのフェアトレードやカーボン・オフセット制度を活用し、昨年は第5回カーボン・オフセット大賞で特別賞を受賞。EVIを活用して地域や世界、環境にも配慮した地域貢献活動を提案、実践している部活動として、注目されている。

愛知県立南陽高等学校の「Nanyo Company部」

エコバック、フィリピンのココヤシを使ったキーホルダーなどを商品開発し、地域のイベント等で販売している

無駄な在庫を持たない環境配慮の事業展開

EVIを運営する会社、カルネコの本業は、店頭POPなど販促物の作成・販売である。2002年にカルビーの一事業部として発足し、2016年8月に株式会社として独立。発足当時から事業部長を務めた加藤孝一氏が、代表取締役社長を務めている。

カルネコシステムは、必要な分だけPOPなど店頭メッセージツールを作る仕組み。まずはデザインだけ作り、店舗の商談後に必要な数のPOPを実際に作成することが可能だ。これまでは、単価を下げるために大量生産され、残った在庫は焼却処分されていた。

「カルネコは、無駄な在庫を持たないという意識から始まった事業です。在庫が少なければ、捨てるもの、燃やすものが減り、CO2排出量を削減できます。本業も、環境にも貢献できる事業として取り組んでいます」

カルネコは2016年4月から、販促物を作る過程のCO2排出量をゼロにする取り組みを開始した。カーボン・オフセットも取り入れて、仕入れから出荷拠点を出るまでCO2排出量ゼロに取り組んでいる。顧客である企業にとっては、CO2排出の報告書として提出できるメリットもある。

また、環境に特化したデザイナーがいるため、「環境」を打ち出したブランド戦略も可能。さらに、加藤社長自身が、カルビーの商品パッケージやブランディングを行っていた経験を持つので、「プロモーションの効率化」「環境負荷を下げる取り組み」「ブランディング」の三位一体で提案することができる。

地球規模での環境保全・環境貢献が必要になっている時代。「環境」は社会貢献という枠組みではなく、「21世紀型のブランディング、新規事業」を行う上で必要不可欠なものとなっている。

EVI事例3 【環境パフォーマンス】ボルカホンダンスユニット Cheeky

ボルカホンダンスユニット「Cheeky」

環境貢献型商品でもある段ボール製のカホン型打楽器「ボルカホン」は、1商品につき100円が森林支援に回る。ボルカホンダンスユニット「Cheeky」は、ボルカホンを使って、ラインダンスと組み合わせたパフォーマンスを演じる。Cheekyは1公演につき500円を森林支援に寄与し、ライブを通して環境貢献に参加している。

1商品の購入につき、100円が森林支援に回る楽器「ボルカホン」

 

お問い合わせ

  1. カルネコ株式会社
    カルネコ株式会社
  2. カルネコ株式会社 URL
    http://info.calneco.jp
  3. EVI推進協議会 URL
    http://www.evic.jp/evi/top.jsp
  4. TEL:03-5220-6234

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