シャネル、チキンラーメンに学ぶ 「ライフスタイル変革」のプロセス

優れた事業構想は、社会や私たちの生活に大きな変化をもたらす。チキンラーメン、iPhoneなどのライフスタイルを一変させた商品は、どのような発想やプロセスから生まれたのだろうか。

女性のライフスタイルを変える

20世紀のファッション界において、最大の事業構想を成し遂げたのはココ・シャネルだろう。

シャネルは、1910年パリにブティック「シャネル・モード」を開店し、本格的にファッションデザイナーとしての活動をはじめた。帽子のみの制作販売でスタートしたが、まもなく服装のデザインも手がけるようになった。当時のヨーロッパでは、女性はコルセットで腰を締め付け豪華に装飾のついた衣服を着用するのが当然のコードと思われていた。シャネルは、その「当然」のライフスタイルに対し真っ向から異を唱えた。

シャネルのパリ本店(31Rue Cambon)

それまで婦人服では使われなかったジャージー生地を多用し、パンツスタイルや黒のドレスを普段着として世に送り出した。過度な装飾を省き、シンプルなデザインを追求した。ともすれば、女性が脚を見せるのがはしたないといわれた時代に膝丈のスカートをつくった。シャネルは、女性を当時の「当然」から解放したのだ。

彼女が創り出したスタイルは、特別な機会のためのアイテムではなく、黒のワンピース、ショルダーバック、ジャージー素材の服など、今も街の中で見かけるものばかりだ。

シャネルのこうしたファッション革命は、女性の社会進出が進みはじめた当時の世相に適合し、女性のライフスタイルそのものを大きく変革させた。

シャネルは、スタイルについてこう述べている。

「私は流行をつくっているのではない。スタイルをつくっているの」

経営学の巨匠ドラッカーは、著書『イノベーションと企業家精神』の中で、イノベーションを成功させる条件として、経済や社会を変え得ることが必要だと述べている。

優れた事業構想は、私たちの生活や社会に大きな変化をもたらす。新しい商品やサービスが世の中に普及することで人々のライフスタイルが大きく変わることがある。逆にいうと、ライフスタイルを変えるような新商品の開発が優れた事業構想といえる。

ビジネススタイルも変えた
iPhone

インスタントラーメンは、今や世界で年間千億食以上も消費され、日本だけでなく世界で最もポピュラーな即席食品となった。最近の報道によると、新型コロナウイルス感染症の渦中の米国でインスタントラーメンが飛ぶように売れたらしい。

1958年に発売された「チキンラーメン」は、日清食品の創業者、安藤百福氏が自宅の庭に建てた研究小屋から生み出した商品だ。あるアンケート調査では、日本の20世紀最大の発明に選ばれている。戦後の食糧難を経験した安藤氏は、インスタントラーメンという新しい市場を創出した。うどん、そば、ラーメンといった麺類は、もともと日本人の大好物の食だ。しかし、麺類を食べるのにコンロ、鍋といった調理器具が必要となる。安藤氏は、簡単につくれて保存が利く麺類の開発に没頭し、商品化を果たした。麺類を食べるスタイルに変革をもたらした。

71年に登場したカップヌードルも安藤氏が開発したものだ。インスタントラーメンが専用の容器に入っている便利さから、発売と同時に世界中に広まり、大ヒット商品となった。

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