「偶然」をフックに、社会にワクワクを 廃棄予定の花で宅配事業
「偶然配達」は、農家で廃棄予定の花を使用し、いつ届くか分からないサプライズブーケを配達するサービス。27歳で株式会社インサイドゾーンを立ち上げた浦住俊平氏は、偶然性をフックに世の中のワクワクの総量を増やすことを目指している。
試行錯誤の上で辿り着いた
廃棄予定の花で「偶然配達」
農家で廃棄予定の花を使って、いつ届くか分からないサプライズブーケを配達するサービス「偶然配達」をローンチしたインサイドゾーン。代表を務めるのは、事業構想大学院大学8期生で、2021年3月に修了したばかりの浦住俊平氏だ。
もともと大手広告代理店ADKでビジネスプロデューサーを経て、人事部で新卒採用担当者として従事していた浦住氏。大学院に進学した動機は、「広告代理店のビジネスプロデューサーとして、プロモーションだけではなく、クライアントと事業を一緒に構想できる人間になりたい」という思いだった。入学後、大学院での学びが大きな刺激になり、徐々に起業を志すようになった。
偶然配達は在学中からテストを繰り返していたサービスだが、元々は今のサプライズブーケを配達するサービスではなかった。
「元々の『偶然配達』は、花に絞ったものではなく、『お客様にお申込みしていただいた金額分のなにか』を配達して、同じものが届いた人同士で匿名のチャットで交流ができる ガチャガチャとSNSを組み合わせたようなサービスでした。予期せぬ『ヒト・モノ・コト』との出会いを自分が作り出せることに、ものすごい面白みを感じて、サービス運営者である僕が誰よりもワクワクしてやっていました。ただ、属人性があまりにも高いビジネスモデルだった点、初回の顧客獲得はできるがリピーターが生まれてこない点などの課題を解消し切れず、一度サービス内容を0から考えることを決意しました。そこで、送るものを固定しても、お客さんをワクワクさせられるものはないか?と模索し至った答えが、『花』でした。それが現在のサプライズブーケを専門で取り扱う『偶然配達』に繋がります」。
コスト削減と収益性向上のため
入念なリサーチとテストを実施
事業開発のプロセスにおいて最も力を入れたのはフィールドリサーチだ。商材は花と決まったものの、農家で廃棄予定の花に絞り込むまでには、何軒も花屋、卸売り市場、農家、時には同級生の人脈を辿り、農林水産省にも花についてヒアリングを重ねた。花屋で廃棄予定のお花を染め物として活用するサービスや花屋で売れ残りそうな花を格安で定期購入できるサービスなど、さまざまな事業アイディアを考えたが、利用者を一番ワクワクさせられることができると確信した「農家で規格外になっている花をサプライズブーケにする」という構想に決めた。
「農家さんを訪ねたときに、茎が曲がっていたり、大きく育ち過ぎるなどを理由に『こんなに綺麗な花が捨てられてしまうのか…』と驚きと悲しさを感じました。素人の僕にはどれも本当に綺麗なお花に見えたのですが、誇りを持って栽培をされているが故に農家さんは『これは出荷できない』とお話をされていて、その気持ちもわかると思いました。とてももどかしい気持ちになり、このお花を使ってなにか面白いことをやるぞ!と決め、日々どのくらいの本数が出るかわからない規格外の花の特性を『いつ届くかわからない』というサプライズに変換するサービスにすることにしました」
さらに、ブーケのテスト販売も入念に実施した。プロがアレンジメントしたブーケと、浦住氏がアレンジメントしたブーケをそれぞれ配送した結果、ユーザーの満足度にほとんど差異は見られなかった。
「初めてやることは、まず一度自分の手でやってみることをとても大切にしているので、フラワーアレンジメントも自分でやってみました。実際にプロの方が作られたものと比べると技術の差は歴然だったのですが、ダメ元で僕の作ったブーケも配達テストをしてみました。すると、驚くことに満足度には差が見られなかったんです。『サプライズでブーケが届く体験を楽しみにしている』という方が多く、偶然配達においてはアレンジメントのクオリティはそこまで重要視されていないのではという発見がありました」。
これらの結果から、農家の花を浦住氏の事務所に集め、自身でフラワーアレンジメントを施してから1軒1軒配送することにした。お試し用は550円(送料別)で3本程度、月1定期便は1,540円(送料込)で6〜8本程度。品種にもよるが、都内の花屋では通常1本250円~300円で販売されていることが多いため、店頭よりも新鮮な花を手頃な価格で手に入れられる。
「ロスフラワーと言えども、十分価値のあるお花だと思っているので、お花の仕入れの時にアンフェアな価格交渉はしないようにしています。ただ、会社としては利益を出さないといけないので、アレンジメントや配達などを内製化してコストカットしています」と浦住氏は笑顔を見せる。
小さくても数多くの事業を生み
ワクワクに満ちた社会を創出
2021年11月上旬にECサイトを構築し、中旬から千葉市内の一部エリアからサービスを開始した「偶然配達」。ポスティングなどの地道な販促活動により、ユーザー数は順調に増加しているという。今後の構想について、浦住氏は次のように話す。
「サービスエリアの拡大も視野に入れていますが、僕が直接自宅に配達しているため、地区を絞った上である程度の発注がなければ成り立たず、同じビジネスモデルでスケールしていくことは難しいと思っています。それゆえ、規模拡大を目指すのではなく、小さくても数多くのビジネスを生み出そうと思っています。送別会などで贈られるブーケの再活用など、他にもたくさんの事業構想を仕掛けていくつもりです。僕が生み出したサービスで一人でも多くの人にワクワクしてもらうのが夢ですし、そのために、まずは自分自身がワクワクした毎日を過ごすように心がけたいと思います」。