2017年1月号

人間会議

平和のためのマーケティング

フィリップ・コトラー(経営学者)、湯崎英彦(広島県知事)

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広島市で開催された「国際平和のための世界経済人会議」では、いかに世界平和に貢献できるか、マーケティングがいかに平和構築の役に立つのか、活発な論議が行われた。

広島市で開催された「国際平和のための世界経済人会議」には、国内外の経済人、NGO 関係者約300人が参加。

マーケティングは「愛」

―フィリップ・コトラー

ある人は「マーケティングとは、愛だ」と言います。みなさんは「マーケティングが、なぜ愛なのか?」と思われることでしょう。そこには深い理由があります。例えばここに、問題を抱えている人がいます。その人を支えるために、私たちはお互いに協力して助け合います。そこに介在するのが「愛」です。そして「愛」は、平和を導きます。この概念を共有できれば、NPO・NGO・政府がお互いに協動して平和を構築、創成、維持するための活動ができるはずです。

人間の歴史は、平和よりも戦争によって彩られてきました。現在も各地で、紛争が勃発しています。紛争地域では二者が互いに反目しあい、互いに譲れない膠着状況に陥っています。しかし何らかの形で妥協しなければ、紛争は終結しません。

紛争解決のためには、どのようなツールが必要なのでしょうか。私は四つのスキルセットを提案します。一つは予防外交。これは、戦争が起こる前に予防的に外交を行うことです。残りの三つは、平和の創成・平和の維持・平和の構築です。

タイを事例に見てみましょう。タイの国王は先日亡くなられましたが、非常に素晴らしい方でした。政治的に対立している二者も、国王の前ではひざまずき敬意を表しました。まさに彼こそが、平和創成の王だったのです。

各々の国に、平和を作るオフィサーがいれば、タイのように国民全員が信頼できるような人物がいれば、平和を維持することができます。近隣で対立が起こった際に備え、各都市にピースオフィサーを作ることを提案します。紛争解決のための仲裁や調停も、大変重要となります。尊敬する人の利益だけではなく対立相手の利益を考え、その上で決定を下すことができる人こそが仲裁者、調停者なのです。

経営学者 フィリップ・コトラー氏

広島は平和研究の拠点にふさわしい場所

紛争はさまざまな原因で勃発しますが、宗教が根源になっていることが多いのも事実です。さまざまな宗教は多かれ少なかれほかの宗教を批判しますが、その感情は取り除くべきです。人にはアイデンティティーや信念・信条があって当然ですが、憎しみの連鎖からくる宗教に対する悪感情は取り除くべきです。

宗教とは、人間として倫理的に振る舞い、お互いに慈愛を持つためにはどう行動すればいいかを示してくれるものだからです。また、「攻撃されたらどう対応するか」「迫害されたらどう対応するか」「圧政者が誕生したらどうするのか」を考える教育も重要です。

過去には対立を解決するため、問題解決を女性に託した歴史もあります。世界が女性を尊敬し、女性がもっとビジネス界に参加し、女性によって主導されるようになれば、世界はもっと平和になることでしょう。女性が教育を受けることができない地域の状況は、変えるべき必要があります。

ダイナマイトを発明したノーベルは、自分が作ったダイナマイトで簡単に爆弾が作られることに罪悪感を抱き、平和を尊び、ノーベル平和賞を設立しました。

アインシュタインは「人々はなぜ戦争に行くのか」を考え、指導者のエゴによって戦争が引き起こされ、集団心理が憎しみと破壊への欲望をかき立てると導きだしました。

平和主義者であったフロイトは、攻撃的な衝動は戦争以外の方法に向けるべきであり、さまざまな対立は国際裁判所という正義のもとで対応すべきだと発言しました。

何が正しく、何が間違っているのか。われわれは、平和に関して学術的に研究する必要があります。そして広島は、その平和研究の拠点にふさわしい場所ではないでしょうか。

相手の利害を聞き、相手と話し共通の価値観を見つける

紛争解決のヒントとなるのが、私たちの持つ観念と認識です。私たちは客観的に他者を見ることができず、さまざまなフィルターをかけてしまいます。このフィルターによって、対立が発生。対立を放置すると、事態は悪化します。

このため、議論を行って意見の相違を書面にし、妥協点を見いだす行為が行われます。この方法の一つが、調停・仲裁・投票です。自分はもちろん、相手にもニーズや利害があります。実はニーズは、相手が求めているものの表面部分にすぎません。

もっと深い、利害を超えた本当のニーズを理解しなければ、対立は長引きます。対立している間、両者はともに「自分が勝者になりたい」と考えています。対立状態を解決するために妥協が必要ですが、両者が「自分が勝者になった」と思えるような交渉が必要です。

そのためには、まず、お互いがいい関係を築く必要があります。次に、人と問題を切り離します。相手を憎むのではなく相手の利害を聞き、相手と話すのではなく話を聞くのです。その中で事実を掘り出し、最後に合意します。相手の立場を理解することが、大切になります。どこかに共通の価値観があるはずですから、それを共有しましょう。

ここまでお話ししてきましたが、そもそも平和とはどのようなことでしょうか。民主的であるほど平和は高まりますし、社会的に人権が認められ、所得の公平さが高く、女性の権利が高いほど平和は広がります。

しかし、ここでギャップとなるのが所得の公平さです。人口の1%が利益のほとんどを享受している状態では、平和は生まれません。現代社会で所得が増加しているのは富裕層ばかりですから、富の再配分を考え直す必要があります。平和を維持するためには、どのような方法があるのでしょう。私は、世界銀行や貿易の策定を決定するような機関は、平和に対して責任を持って関わるべきだと考えています。

また各宗教は、平和に貢献できるような活動にコミットし、平和プログラムを実行すべきです。紛争解決のためのツールには予防外交・紛争解決について考える講義プログラム・調停・仲裁に加え、金銭的保証も重要です。金銭的保証を受ければ、怒りが和らぐからです。

また銃規制の強化や女性のエンパワーメントも必要でしょう。ギビング・プレッジに、より多くのお金持ちに参加してもらうのも一つの方法です。

紛争地帯で広告による平和キャンペーンを行ったり、学生を対象にした紛争解決のための新しいアイデアを競うコンテストを開催すると、紛争地域についての研究を学生に求めることができるかも知れません。

平和の歌を作ることも考えられます。ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランは平和に関する歌詞を書いています。そして、平和のためのアートプロジェクトもあります。アーティストに平和の世界がどういったものか書いてくださいとお願いをするわけです。クリエイターの方にアートを作ってもらってもいいかも知れません。

それから、平和活動において著名な人々、例えばダライ・ラマやテッド・ターナーなどを支援するのも一つの方法だと思います。このようにさまざまな形で、平和のマーケティングが可能となります。

信頼性や思いやりを重視し透明性や高潔性が重要な価値に

会議にて、湯崎広島県知事とコトラー氏が対談。

現在「意識のある資本主義運動」が少しずつ広まりを見せています。

ただ単に利益を上げるのではなく、より高い目的と意識を持ちその目的のために機能していけば、自然と利益が上がるという考え方です。

現在の利益は投資した株主に入ることになっていますが、ステークホルダーには従業員や社員、お客さまも含まれるべきです。意識のある資本主義運動を広げる方法ですが、社員からのボトムアップが重要です。経営者から命令するトップダウンではなく、社員自ら自分たちの仕事をより良くしていこうと行動する、社員からのボトムアップが必要です。意識のある文化、ただ単に販売するだけでなく信頼性や思いやりを重視し、透明性や高潔性が重要な価値になるのです。みなさんの良い行動が世界を動かし、皆さんの行動が平和に寄与しますよう、期待しています。

人類最初の被爆地である広島市で「国際平和のための世界経済人会議」が開催された。

国際平和実現に向けた経済界、マーケティングの役割

―広島県 湯崎英彦知事

本会議では、「国際平和実現に向けた経済界およびマーケティングの役割」をテーマに掲げ、副題を「平和のためのマーケティング」と致しました。本格的なマーケティングによる平和構築の可能性を探る、世界初の国際会議となります。

人類最初の被爆地である広島県はこれまで、核兵器廃絶平和構築の取り組みを進めてきました。しかし核兵器廃絶に向けた取り組みは停滞し、世界各地で紛争が続いています。

「国際平和に大きく貢献するために、広島でどんな取り組みができるだろう」と考えていたときに目にしたのが、コトラー先生のコラム「私の履歴書」で、お招きしました。

現在、広島に世界の注目が集まっています。本会議の開催を一つの大きな励みとし、国際平和拠点という役割をさらに強化し、核兵器のない平和な世界の構築に貢献していきたいと考えています。

広島県知事 湯崎英彦氏

 

『人間会議2016年冬号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 考える人間、極める機械 人工知能社会の哲学
安西祐一郎(日本学術振興会 理事長)、甘利俊一(理化学研究所)、岡本裕一朗(玉川大学 教授)他
特集2 イノベーティブな経営者が語る 企業の哲学
小林哲也(帝国ホテル 取締役会長)、出口治明(ライフネット生命保険 代表取締役会長)、谷田千里(タニタ代表取締役社長)他
(発売日:12月5日)

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