長期に渡る好業績企業は、社会課題解決を理念に掲げる

社会課題の解決を理念に掲げる企業が、長期に渡り好業績をあげて、近年、注目されている。企業理念を重視する傾向は、大企業に限らず、地域に根ざした中小企業や、新たに起業したベンチャー企業にも見られる。理念の持つ力を考察した。

企業理念の重要性とは

企業において、理念とは、自社が向かうべき方向とそこで実現すべき価値を定性的に表現したものである(図表1参照)。

すなわち、どんなに環境変化が速く、その振れ幅が大きい「一寸先は闇」と思われるような厳しい経営環境下にあっても、進むべき方向を躊躇なく明示してくれる「羅針盤」である。そして、同時に、顧客・従業員・取引先・地域社会などステークホルダー各層に対し、自社としてどのような価値を創出するかを表明する“マニフェスト(公約)”でもある。

ここに、企業理念の重要性を世界中に痛感させた事例が存在する。米国のジョンソン・エンド・ジョンソン(1887年創業)をめぐる毒物混入死亡事件である。

同社は、一貫して高収益・高成長を維持してきた世界的医薬品メーカーであると共に、経営の原点(理念)としての「我が信条」<4つの責任>の実践で知られる。注目すべきは、良きにつけ悪しきにつけ「株主第一主義」の米国において、「顧客」に対する責任を<4つの責任>の第1に置き、「社員」、「社会」、「株主」の順で、その果たすべき責任を明確にしている点である。

1982年、同社製品の「タイレノール」(鎮痛剤)に何者かが青酸カリを混入させて、シカゴ近郊で7人が死亡する事件が発生。このとき、CEOだったJ・E・バークは、「我が信条」の冒頭に明記されている“顧客に対する責任”にもとづき、推定1億ドルと言われる費用をかけて、すべての「タイレノール」を直ちに回収し、かつ、異物を混入させ得ない構造へと改良したのである。

企業理念がその存在意義を発揮するのは、もちろん、こうした非常時だけではない。

1566年創業の西川産業。日本の寝具メーカー最大手で、近江商人の流れを汲む同社では、社員全員が、理念群の書かれたカードを常時携帯し、様々な局面で活用している。たとえば、営業サイドは市場ニーズに敏感に反応しようとする一方、研究所サイドは、シーズ先行で発想するため、両者の間に激しいせめぎ合いが生じる場合がある。そのようなとき、「両者の主張は、それぞれ理念群に照らして適切と言えるか」ということが議論される。理念群は、日々のあらゆる意思決定のベースとして機能しているのである。

理念の力で業績向上

しかし、そうは言っても、企業理念が自社の業績と無関係では意味がない。ここに興味深いデータがある。

滋賀県は、2次産業比率が全国1位の工業県である。特に、地場の中小企業群の技術力の高さで知られ、出荷額全国1位の製造品は20品目以上に及ぶ。そうした地場の企業群を対象に、県と龍谷大学が2012年に実施した調査によれば、同県伝統の「三方よし」(近江商人の、売り手よし、買い手よし、世間よし)を「実践に努めている」「意識している」企業は、県内企業の5割超に達していた。

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