日本随一の地域ブランド育成力 佐賀の「強み」「弱み」を分析

農業や窯業などの良質な地域資源・ブランドを保有する佐賀県。一方、地域に根ざして発展を遂げ、県経済をリードする大企業は少ない。佐賀県の課題とポテンシャルを分析し、今後の成長の方向性を探る。
文・嶋田淑之 自由が丘産能短大・教員、文筆家

 

変革期に強い県民性

「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」

江戸中期の1716年頃、肥前国佐賀鍋島藩の藩士・山本常朝の話を、田代陣基が筆録したとされる、「葉隠」の最も有名な一節である。 生きるか死ぬか、という切迫した場面においては迷うことなく死を選ぶべし。二者択一を迫られた時には、即、より困難な方を選択することを尊しとする。

こうした「葉隠」の精神が根付いているのだろうか、佐賀県は明治維新前後の激動期において日本近代化の礎を築いた「佐賀の七賢人」(大隈重信、江藤新平ほか)を輩出。さらに、その後、重要戦機に指導的な役割を果たす陸海軍将官を多数輩出している。

志士・政治家・軍人だけではない。敗戦後、池田勇人内閣において「所得倍増計画」を立案し、日本を高度経済成長へと導いた経済学者・下村治氏も同県出身である。また、同県出身で、東京に出て実業家として大成した人々も、孫正義氏をはじめ数多い。「変革期・激動期に強い県民性」が看て取れよう。

そして、まさに、そのことが、良くも悪くも現在の佐賀県の在り方を決定づけていると思われるのである。

IT活用など「攻めの行政」、県外への依存度が高い産業界

佐賀県は、人口83万4千人で九州最少(全国第42位)であり、同時に、面積も狭小である(同第42位)。そして、それに対応するように、県内総生産も第43位に留まる。

県土は、有明海に面し、田園地帯が広がる南東部の旧・佐賀藩と、玄界灘に面し、山間部・丘陵地帯を有する北西部の旧・唐津藩に二分される。

県内には20市町が存在し、佐賀市(24万人)、唐津市(13万人)、鳥栖市(7万人)の3市に県人口の半数超が集中している。しかし、DID(人口集中地区)の人口比率は全国46位に留まり、中心市街地への人口偏在は見られない。

冒頭で指摘したように、歴史的に、中央に出て一旗揚げる傾向があったために、創業後、地域に根ざして発展を遂げ、県経済をリードする大企業が非常に少ないのが同県の特徴である。鳥栖市の久光製薬をはじめ若干の例外があるのみである。そのため、工業生産は総じて低調とならざるを得ず、それをカバーするために、県外大企業の工場・事業所・店舗などの誘致が盛んである。高速交通網に代表される、充実した社会基盤がそれを助長する。

それは、換言するならば、地域創生の担い手として県内企業群が主導的立場に立つことが困難であるということであり、勢い、行政主導の創生とならざるを得ない。ITの積極活用をはじめ、「攻めの行政」が顕著に見出される背景には、そうした事情も存在すると考えられよう。

そうした産業界の状況は、2次産業ばかりではなく、3次産業、なかんずく観光業にも見出される。

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