「最後の1社」が挑む新市場開拓 佐賀の伝統工芸・名尾和紙
佐賀県重要無形文化財の名尾和紙。その技術を伝承するのは今や1社のみになったが、次々と新しい販路を開拓し、成長を続けている。その取り組みから、伝統工芸再生のヒントが見えてくる。
取材協力:リンカーズ
佐賀空港・国際線ターミナル。飛行機を降り立った外国人の目に飛び込んでくるのは、通路に広がる美しい和紙のブラインドだ。有明海に羽ばたく海鳥をイメージした、まるで絵画のような和紙を漉き、デザインしたのは、佐賀市大和町の和紙工房である肥前名尾和紙の谷口祐次郎代表。
名尾和紙は、300年以上の歴史を持つ佐賀県の伝統工芸だ。その特徴は「強度」。一般的な和紙は、楮(コウゾ)や三叉(ミツマタ)を原料につくるが、名尾和紙は楮の原種である梶(カジ)を使用する。この原種は佐賀市大和町の半径3kmにのみ残っているという。梶は繊維が長く、和紙を漉く過程で繊維同士が絡みつく。そのため、見た目は普通の和紙と同じでも、非常に破れにくく頑丈な紙ができる。昔から提灯や障子などによく使われてきた。
名尾和紙づくりは、耕作面積の少ない山間部の農家で副業として広まり、最盛期には100軒を超える工房が軒を連ねた。しかし、1960年代を過ぎると需要は急速に落ち込み、廃業が相次ぐようになる。
肥前名尾和紙の6代目、谷口祐次郎氏が家業を継ごうと考えたのは25歳のとき。当時、町内の工房は3軒まで減っていたという。「先代の父からさえ大反対されましたね。しかし、300年続く技術を、何とか残さなければという使命感がありました」
全国の和紙産地を巡る旅視点を変え、市場を見つけ出す
「技術を身につけることはもちろんですが、一番苦労したことは販売です」と谷口氏。肥前名尾和紙は、博多山笠や唐津くんちの提灯に使われるなど、和紙の質に定評があった。しかし取引は100%問屋経由で、直接販売の経験はなかった。
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