富山発、次世代型スマートアグリ

ICTを活用することで、農作物の効率生産と安定供給を目指す農業の新しい形「スマートアグリ」が全国で広がってきた。富山県では、廃棄物由来エネルギーを利用したスマートアグリがスタート。先進事例として注目されている。

富山環境整備では32棟以上のハウスを所有。大きいハウスの長さは100m以上

富山県でスマートアグリに取り組む富山環境整備は、廃棄物処理事業で県内有数の規模を誇る。2001年、最終処分場の埋め立て完了後の跡地を利用してイチゴのハウス栽培を始めたのが、同社のアグリ事業の始まり。その理由は、「跡地を利用して雇用を生み出してほしい」という先代社長の思いを叶えるためだった。

2008年には、ハウスで使用するエネルギーを廃棄物から生み出そうと、発電併用焼却施設を設置。廃棄物由来エネルギーを活用してイチゴ栽培を始めた。

「当社が扱う産業廃棄物は年間30万トン。そのうち中間処理・選別をすることで18万トン、つまり17万kWhの発電量が見込めます。それをアグリ事業に活用すると、ハウスが約2,000棟分、雇用は数千人になります。一地方の廃棄物由来エネルギーにも、これだけのポテンシャルがあるということを知ってほしい」と、代表取締役の松浦英樹氏は廃棄物由来エネルギーが秘める大きな可能性を示唆する。

松浦英樹 富山環境整備 代表取締役

国内唯一のエネルギーを使用

2014年には、同社が事業主体として参加している「富山スマートアグリ次世代施設園芸拠点整備協議会」が、農林水産省の「次世代施設園芸導入加速化支援事業」の富山県拠点として採択された。この事業は、地域資源エネルギーを有効活用した循環型農業と最新のICTを活用して、高品質な農作物の安定供給や、県内の農業振興・雇用創出を目指すものである。

全国で10拠点が採択されているが、木質バイオマスではなく廃棄物由来エネルギーを使用しているのは、唯一、富山県拠点だけであることが大きな特徴である。廃棄物由来エネルギーは、日々企業や家庭から排出されるものを有効活用できるうえ、廃棄物処理費の収入でボイラーの費用を捻出できるため、農業の運営に負担をかけずに済むところが強みだ。

富山県拠点に採択されたのは、時代のニーズに応え続けてきたこれまでの富山環境整備の取り組みが、同事業の目指す方向と合致していたからに他ならない。

2012年から始めたトマト栽培は、今回の事業で18棟を増設。このほかにも、花卉栽培を10棟のハウスで開始し、合計28棟のハウスが増設された。

ICT活用で科学的な農業に

トマトの栽培には、アイメック農法が採用されている。その農法の特徴は、苗と溶液との間に敷かれるフィルムにある。ナノサイズの穴しか空いていないため、根は必死に溶液を吸わなければなわない。そのストレスが、トマトの栄養価を高めることにつながっている。実際に水耕栽培や土耕栽培よりも、美肌効果が期待できるリコピンや、抗ストレス作用のGAVA、脳機能を活性化させるグルタミン酸などを多く含んでいることが科学的に実証されている。

さらに、高品質なトマトを効率的・安定的に栽培できるよう、ICTを導入。2500㎡と最も大きいハウスでは、移動式ロボットと固定ロボットに加え、500のセンサーを設置し、温度、湿度、水分量、二酸化炭素、外気温などを測定している。その数値を1日1回サーバーに送ることで、データとして蓄積しているという。将来的には、ビッグデータからトマトの栽培に最適な条件を割り出すことで、さらなる効率化・安定化を進めていく考えだ。また、生育状況などを確認できるタブレットやウェアラブル端末の活用も、作業の効率化に役立っている。

ICTの活用により、1段目のトマトだけが大きくなるという、成長過程における問題点も解決。データによって溶液量の変化を知ることで、すべてを均一の大きさ、糖度にすることを可能にした。

高糖度・高栄養価のトマト「フォレスト フルティカ」を栽培

食の安全と危機を見据えて

現在、トマトの1日の収穫量は、600kg(約3000パック)。新しい造成地が完成する約半年後には、1日1.3トンの収穫が可能になる予定だ。収穫したトマトは現在、県内外のスーパーのみならず、シンガポールや香港にも卸しているが、タイでの販売も視野に入れて活動している。

「行き着く先は、オーガニックでしょうね。今後は高度な農業技術を使って、新品種の開発に努めていきます。食料と水の供給不足に備え、地方の一廃棄物処理会社がその一助になれたらと思っています」

松浦氏は先代の想いを胸に、農業に必要なエネルギーをすべて自社で賄える廃棄物処理事業施設という強みを生かしながら、地域に活性と雇用を創出する新たな農業を切り拓いていく。

センサーで収集した生育状況をタブレットで確認することで、常に最適な作業を実施しているアグリ事業本部青果部課長の山藤正智氏。移動式ロボットでは、室温や湿度などを測定できる

お問い合わせ


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  2. URL:http://www.tks-co.jp
  3. TEL.076-469-5356

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