2015年7月号

人間会議

美観の背景を考える デザインに秘められた真価

アウグスト・グリッロ(ルーメンセンター・イタリア(LCI)、ヴィッラトスカ・デザインマネージメントセンター・グループ CEO)

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ミラノ国際博覧会の日本館では日本の食文化や農林水産業を紹介している。その日本館のレストランで光のデザインを手がけたのがルーメンセンター・イタリア(LCI)。デザインでも最も難しい分野とされる「食」。レストランでは、料理の色彩、器の色彩を表現し、会話も楽しませる光の演出が施されている。LCIのCEOを務めるアウグスト・グリッロ氏は、デザインの本質を捉えながら、快適な光を追求した。その哲学とデザインが持つ力について聞いた。

LCIは、1976年にイタリアで創業した老舗照明器具メーカー。イタリアならではの卓越したデザイン性と試作から検査、製造まで全ての工程をミラノの工房で一貫して行っているのが特徴。広大な工房では、デザイナー、設計者、職人などプロフェッショナルなエンジニアが、創造力を活かしながら制作にあたり、作品を生み出している。

今年4月に開催された、世界最大の国際家具見本市「ミラノサローネ」の照明部門「エウロルーチェ」では、新作を発表した。中世フランスの騎士に由来するシリーズ「Astolfo(アストルフォ)」では、金の槍をイメージ。また日本人力士(相撲)からインスピレーションを得た「Sumo(スーモ)」は、日本ならではのオリエンタルな印象をデザインし、世界中の来場者から注目を集めた。

そして、5月から開催中のミラノ国際博覧会の日本館のレストランの照明も手掛ける。

イタリア本国のLCI代表取締役社長であり、LCI JAPANのCEOも務めるアウグスト・グリッロ(Augusto Grillo)氏は、「日本館のレストランエリアのために作った光は、快適性の高さを追求しました」と話す。

アウグスト・グリッロ ルーメンセンター・イタリア(LCI)、ヴィッラトスカ・デザインマネージメントセンター・グループ CEO

快適性を追求
人に優しい光を創る

竹を模したLED 照明TAKE は、安らぎを与える。

光のデザインには、4つの重要なファクターがあるという。「量」「質」「方向」「存在感」だ。

まずは光の「量」。光は少なすぎても多すぎても見ることができない。特に多すぎる光は、視覚だけでなく、触角や嗅覚、聴覚までおかしくしてしまう。次に光の「質」。人間は普段、太陽の光の下で生活している。最も快適な光の質というのは、太陽の波長に近い光だ。第三に光の「方向」。光が作り出す影によって、人は時を知ることができる。そして最後に光の「存在」。たとえわずかでも、そこに光が存在するかどうかは、重要なファクターだ。

グリッロ氏は、日本館のレストランの光をデザインするにあたり、CRI(演色性)97という、太陽の波長に極力近い光を創り出した。さらに、色彩も形も綺麗に見ることができ、影もしっかりとできる。自然に近いルールを適用し、4つのファクターを十分に考慮する。それが、快適な光、人に優しい光を創り出す基本だ。

「食の分野は、デザインが最も難しい。レストランエリアのためのデザインを考える場合には、人の五感に加え、その文化も考慮する必要があります」

例えば、日本人は食べ物を見ると、まず「目で食べる」という。そうした食文化を踏まえ、より深い料理の色彩、器の色彩を表現できるような光が必要になる。

同時に会話も食事をより楽しむための大きなポイントだ。レストランは食事をすると同時に意見交換のできる場でなくてはならない。食事を綺麗に演出するための光、会話を弾ませる光、そしてよく見える光。光一つデザインするにも、その中には複雑な要素が絡み合っている。

ミラノ国際博覧会の日本館のレストランで光のデザインを手がけた。

効率・機能性からデザインの時代へ

産業において「デザインが重要」と言われはじめたのは、1990年代の初め頃からだ。それまでの産業は、市場競争で勝つために「生産効率を高めコストダウンすること」、「機能性を高めること」の二つを追求し、発展してきた。

しかし、効率・機能を高め価格競争ばかり追求することには限界がある。

「例えば、機能性を極限まで高め0・01秒の誤差のない時計ができたとして、それが人間にとって何の意味があるのか。コストダウンのために安い人件費を求めて海外に出たとして、いつまで続くのか。効率と機能性の追求には自然的なリミットがあるのです。そのリミットを見て、本当のクオリティ、価値とは何かを考える必要があります」

効率、機能、コストダウンで勝つのではなく、デザインで付加価値をつける。それに気づきはじめたのが90年代前半。あらゆる商品の普及が進んだ現代、デザインをどう考え、商品、サービス、空間に取り入れていくかが、重要な意味を持つようになっている。

デザインはエネルギー

「デザインとは何かと考えた時、デザイン=エネルギーと言うことができます」

例えば一枚の紙があったとして、その上に何か置けば簡単に潰れる。しかし、その紙を円筒状にすると、物を支えられるようになる。形を変えることでエネルギーを生むことができるのだ。ギリシャの哲学者、アリストテレスは『世界には“質”と“形”がある』と言った。質=マテリアルと形=フォームは両方とも重要だ。形の中にエネルギーがある。デザインはエネルギーを生み出すものでもある。

「例えば、シャボン玉の形は全て球です。球は最も自然な形。非常に小さなエネルギーで大きなパフォーマンスを実現する形です。形は非常に大きな意味を持ちます。最小のエネルギーで最大のパフォーマンスを出せる形を探すのがデザイナーの役割です。その形は自然のルール、黄金率に沿っていて、自然に近いものは美しいのです」

「ミラノサローネ(エウロルーチェ)」(2015 年)にて、LCI が発表した新作。

Astolfo(アストルフォ):中世フランスの騎士に由来する名称で、金の槍を表した。

Sumo(スーモ):日本人力士 (相撲)からインスピレーションを得たデザイン。

Grus(グルース):星座のつる座をイメージした。

ビューティを分析する

デザインにおける最初のインパクトは形=フォームだ。しかし、黄金率に沿ってデザインしたからといって誰にでも受け入れられるかといえばそうでもない。次に大事なのは心理学、社会学、人類学といった文化的な部分だ。中でも、その時代の社会構造、経済状況は大きな影響を持つ。

1929年、アメリカが大不景気に陥った時のデザインは、経済全体の暗さを表現するようなデザインのものが多い。「経済のコンディションによって人間は行動します。その感覚を敏感に読み取ることが重要です」

経済が豊かで楽観的だったルネッサンス時代は、未来を見据えた合理的で頑丈な建物が多かった。対してバロック期には、“驚き”のコンセプトのもとに、複雑なスタイルのデザインが好まれた。

エジプト時代のピラミッドは、当時の社会構造をよく表している。ファラオである王様が、上から下へトップダウンのプロセスで社会を動かす。そうした社会的秩序、構造を表すのに最も適した形が三角だった。一方ギリシャ時代になると、三角を柱で支える神殿造りが盛んになった。権力は三角だが、支えているのは柱である民衆。トップダウンではなく、ボトムアップ。民主主義が生まれたのだ。

デザインは、自然の作り出す黄金率をベースに、その時代の社会構造、経済、風潮といった文化的要素を盛り込むことで、より美しくなる。「デザインとは、ビューティを分析することです。その形がなぜ美しいのか。美しさの背景を考えることが重要です。美観を分析し、商品、サービス、空間にデザインとして反映させる。それでこそ、真の付加価値が付くのです」

快適な世界を創り、届ける

商品とデザインには、大きく分けて三つの関係性があるという。

一つは、手に入るサイズの商品をデザインした場合、人間にとって商品は支配できる、破壊できる物という心理が働く。二つ目は、テレビや冷蔵庫など中型サイズのものをデザインした場合、支配・破壊の関係ではなく、抱くもの、そこにはリスペクトと友情が生まれる。そして、さらに大きな家、車、空間などをデザインした場合、相手に支配・破壊されるという心理が働く。

つまり、商品のライフサイクルは小さければ小さいほど短く、大きくなれば長くなると言うことができる。ただ、インターネットで情報が溢れ、グローバル化で個々のアイデンティティの薄れた「リキッド・ソサエティ(液状化した社会)」と呼ばれる現代では、商品のライフサイクルは測れなくなってきている。

「リキッド・ソサエティは、アイデンティティだけでなく、空間や時間の流れまで薄めてしまう傾向があります。そうした時代に、商品のライフサイクルを測ることは不可能と言ってもいいでしょう」

こうした時代背景はデザインにも大きく反映されている。象徴的なのが携帯電話だ。ひと昔前まで、携帯電話は「電話=音のコミュニケーション」という明確なアイデンティティを持っていた。しかし、現代では、それが電話なのか、テレビなのか、パソコンなのか、境目が分からなくなってきている。

日本では地方創生が叫ばれているが、グリッロ氏は「こうした時代だからこそ、“地域のデザイン”に目が向くのです」と話す。

地域の文化とは地域のアイデンティティに等しい。ローカルのアイデンティティだ。グローバライズしすぎた現代、自分のアイデンティティがなくなったことに気づき、それを取り戻すためにローカルに戻る。

「人は、バラエティがあるからこそ、豊かになれるのです」

商品であれ、サービスであれ、空間であれ、地域であれ、デザインの果たす役割は「デリバリハッピネス」だという。デザインすることでより快適な世界を創り、人々に幸せを届ける。デザイナーのミッションはそこにあり、そうした世界を創ることができるのが、デザインの力だ。

自然のルールに沿った「太陽の波長」は、快適な光、人に優しい光を創り出し、色彩も形も綺麗に見ることができる。自然に近い照明が生活を豊かにする。(写真はLCI 商品のアイスグローブ)

アウグスト・グリッロ
ルーメンセンター・イタリア(LCI)
ヴィッラトスカ・デザインマネージメントセンター・グループ CEO

 

『人間会議2015年夏号』

『環境会議』『人間会議』は2000年に創刊以来、社会の課題に対して、幅広く問題意識を持つ方々と共に未来を考えています。

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」、『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、企業が信頼を得るために欠かせない経営・CSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。(発売日:6月5日)
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