2015年7月号

人間会議

多様な個性と価値観を受容「区別しない」が肝

林雅子(アサヒプロマネジメント)、小瀬村幸子(東京海上日動火災保険)、泉川玲香(イケア・ジャパン)

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マーケットや顧客ニーズが多様化する中、多様性(ダイバーシティ)に溢れる人材を活かすことでイノベーションを起こすことが求められている。そこで、多様な意見や価値観を受け入れて、強みを活かし、新たなビジネスチャンスにつなげていく「ダイバーシティ経営」が注目されている。各企業でダイバーシティ戦略の中心となって活躍する3人の女性リーダーが、企業におけるダイバーシティの必要性やその効果などを語る。

左から)東京海上日動火災保険 小瀬村幸子氏、イケア・ジャパン 泉川玲香氏、アサヒプロマネジメント 林雅子氏

多様性を受容することが重要

――企業におけるダイバーシティの重要性についてどのようにお考えでしょうか。

泉川 イケア・ジャパンでカントリーHRマネジャーを務めています。イケアグループでは、2002年に「ダイバーシティ&インクルージョン」という部門が立ち上がりました。100人いれば100通りある個性や才能。この多様性(ダイバーシティ)を互いに尊敬し認め合い、インクルージョン(受容)していくことで、国や文化の違いを越えたビジネスに活かしていく。この10年、イケア・ジャパンでは、ダイバーシティ&インクルージョンに対する社全体の理解に努めてきました。これからの10年は、この思想を実際にビジネスに活かしていくステージだと思っています。

アサヒグループホールディングスのグループ会社でグループダイバーシティ推進室の副室長をしています。弊社は国内でビールを製造・販売して成長してきたドメスティックな企業です。

それが、時代の変化とともに、飲料事業、食品事業、海外マーケットへの展開と、事業構造が大きく変わってきました。

これまでのモノカルチャー、単一民族のような価値観で事業を進めていたのでは、グローバル化、多角化が進む事業展開の中で対応していけない。企業を支えるためには、人材の多様化が必要です。グループで中核会社であるアサヒビールでのダイバーシティへの取り組みは2008年頃から行っていましたが、2014年4月にグループダイバーシティ推進室が立ち上がり、グループ全体としての取り組みが始まりました。

小瀬村 東京海上日動火災保険で人事企画部のダイバーシティ推進室チームリーダーを務めています。ダイバーシティでは多様性だけが重要なのではなく、多様な価値観を取り入れながら、次のものを生み出していくことが大切だと考えます。

弊社は今年で136年を迎えますが、特にこの10年間で女性の活躍が進みました。社員の約半数は女性ですが、まだ眠っているかもしれない女性の能力を、最大限に発揮し、活かしていくことを考えています。さらに今後、高齢化や少子化が進み労働人口が減る中で、育児や介護など時間的な制約のある社員でも活躍できる場が必要です。優秀な人材に働き続けてもらうためにも、より働きやすい環境を作って行きたいと思います。

―多様な人々の視点を入れたことで、新しい商品やサービス開発につながっていますね。どのようなアイデアが実現しましたか。

小瀬村 弊社では、若手の女性社員の意見を活かして、業界初の1日単位で加入できる自動車保険、「ちょいのり保険」を開発しました。ワンコインから携帯で手軽に申し込める保険というアイディアは、若者の視点が新たなイノベーションを生み出した事例です。こういったことが周りの社員のモチベーションも上げています。

アサヒビールの「サントネージュ リラ」というペットボトル入りワインもママ視点で発案した商品です。働くママが増え、仕事帰りに子どもを迎えに行き、買い物で重いものを持ちたくない。ママである女性マーケッターの日々の気づきが、社会に役立つ企画開発につながっています。

林 雅子 アサヒプロマネジメント グループダイバーシティ推進室 副室長

アサヒビールのペットボトル入りワイン「サントネージュ リラ」は、ママ視点で発案した商品。

社内では「女性のためのビジネスリーダーシップ塾」も開催する。

先回りしてインフラを整える

―多様な働き方が増える中で、どのような評価体制をとっていますか。

泉川 イケアでは現在、同一労働同一賃金を実行しています。例えば、子供ができて短時間の勤務になっても、フルタイム勤務の社員と同じ時給がもらえます。日本は短時間労働、パートタイマーを安価な労働力にし、コストコントロールに使ってきました。しかし、一歩日本から出てみると、そんな国はほとんどありません。

短時間=安価な労働力という発想は、これからの社会にも、グローバルな視点でも、ダイバーシティの観点からしても通用しないと思います。

日本の企業における人事制度の特徴である終身雇用、年功序列では、長時間働くことが評価につながっていました。また、同じ仕事でも、雇用形態の違いで賃金の基準が異なっているため、同一労働同一賃金は日本の企業ではなかなか難しいのも現実です。この問題については、現在、国でも議論されています。

小瀬村 短時間勤務になった女性自ら、「クライアントに迷惑がかかる」と営業担当を外れ、社内業務に転向する人もいます。会社としては、短時間勤務になったからと言って、能力が落ちるわけではないので、強制的に業務内容を変えることはしません。その人の能力が最大限発揮できる環境を整えたいと思っています。

泉川 短時間労働というと、女性がするものというイメージが強い。でも、今後、介護などで男性も同じように短時間で勤務しなければならないことが出てくると思います。長期的な視野に立って人事を見た時、社会や環境の変化の中で、どれだけ先回りしてインフラを整えていくかがポイントです。ダイバーシティ&インクルージョンは、長期的な視野でビジネスの中でインフラを整えるために、やっておかねばならないことだと感じます。この思想が浸透していれば、全てがスムーズに動き始めます。

小瀬村 これからは女性だけが変化をするのではなく、「イクボス」の育成も重要です。男性女性を問わず、ともに働く社員や部下の仕事と生活の両立を考えられることがリーダーの要件となるでしょう。

小瀬村 幸子 東京海上日動火災保険 人事企画部 ダイバーシティ推進チームリーダー

東京海上日動火災保険では、スムーズな復職に向けて、各種情報・意見交換を行う産休育休セミナー「すくすく会」を開催。

業界初の1日自動車保険「ちょいのり保険」は若手や女性の意見を反映して開発された。

キャリアアップが課題

―「女性の活躍促進」の課題のひとつで、企業側と女性社員の意識の差があると聞いています。

日本の企業で働く女性の傾向として、昇進意欲が低いというデータがあります。弊社は制度も整っており、男女の差別をするような社風でもありませんが、部長や役員などのポストに就きたいと考える女性は少ないのが現状です。

権限を持った経営者や役職に就いている女性のモデルが現実に少ないことが、ポストに就くことを躊躇させる大きな理由の一つになっているのかもしれません。

結果的に意思決定する場は男性ばかりになり、これではイノベーションは起きません。まずは、意思決定の場がダイバースになる、多様な人がポストに就くことが重要です。

小瀬村 弊社でも会社の意識調査を見ると、「管理職になりたい」という女性社員は多くないのですが、一つ上の等級には行きたいという気持ちを持っている女性が多く、その先にはリーダーがあるわけで、その気持ちを大切にしたいと思っています。一歩先のステージに立てば、今まで見えなかった景色が見えるようになるものです。躊躇する女性の背中を、押し続けることが重要だと感じています。

泉川 役職が高くなるほど、いつでもどこでも、どこにでも行かなければならなくなる。家庭での役割がほぼ女性にあるアジアの文化の中にあって、これは大きな問題です。文化的にも、自分的にも家庭のことはきちんとしたい。こうした文化、価値観が女性に次のステップを躊躇させる原因になっているのかもしれません。

イケアでは、転勤も異動を個々人との対話なく会社が一方的に決めることはありません。世界中のイケアのどのポストが空いているか、社員はいつでも知ることができ、ポストに就きたいと思えば、どの店舗へも応募できます。

自分のキャリアには自分で責任を持つ。これがイケアの方針です。女性が子供を連れて海外に転勤し夫は主夫、という事例も多い。そうしたロールモデルがあることが女性のキャリアアップを後押しし、女性マネージャー率43%の数字につながっています。

泉川 玲香 イケア・ジャパン カントリーHRマネジャー

スウェーデン発祥のグローバル企業イケアは、100人いれば100通りある個性や才能を互いに尊敬し認め合い、インクルージョンしていくことで、国や文化の違いを越えたビジネスに活かしている。

21世紀は全員リーダーの時代

―理想の仕事社会についてお聞かせください。

ダイバーシティを推進する上で最も難しいのは、その成果がどれだけ業績につながるのか、見えにくいところだと思います。頭で「やらなくては」と思っても、踏み出せない企業は多いのではないでしょうか。

泉川 ダイバーシティ、インクルージョンというのは、経営トップ、経営陣が本気で動かなければ踏み出せない。その重要性とビジネスにおける効果をしっかりと享受している人がトップに立って、初めて動きだすのではないかと思います。

小瀬村 弊社では「期待して、鍛えて、活躍する機会と場を与える」の「3つのK」を合言葉にダイバーシティを推進しています。最も大事なのは、女性や若者が育って活躍しはじめた時、その意見を取り入れる、受容する風通しのいい風土だと思います。性別や年次に関係なく論議し、活躍したいと思っている人が普通に活躍できる職場、それが理想だと思います。

理想は、特にダイバーシティ、インクルージョンと叫ばなくても、性別、年齢、国籍問わず、誰もが普通に活躍できる状況です。キャリアは基本的に会社が決めるという、これまでの日本型の人事制度は崩壊しつつあります。これからは、一人ひとりが自分のキャリアを自分で決められる社会になっていく必要があると感じます。

泉川 一人ひとりに、それぞれの才能がある。「区別しないこと」がダイバーシティの本質だと思います。コントロールとマネジメントとプロセスに終始し、トップリーダーがコントロールした20世紀から、21世紀は全員リーダーの時代になっていきます。ダイバーシティ&インクルージングで、少子高齢化していく世界の、日本が良いモデルになっていけばと思います。

林 雅子(はやし・まさこ)
アサヒプロマネジメント
グループダイバーシティ推進室 副室長

 

小瀬村 幸子(こせむら・さちこ)
東京海上日動火災保険
人事企画部 ダイバーシティ推進チームリーダー

 

泉川 玲香(いずみかわ・れいか)
イケア・ジャパン
カントリーHRマネジャー

 

『人間会議2015年夏号』

『環境会議』『人間会議』は2000年に創刊以来、社会の課題に対して、幅広く問題意識を持つ方々と共に未来を考えています。

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」、『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、企業が信頼を得るために欠かせない経営・CSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。(発売日:6月5日)
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