2015年4月号

地方創生への挑戦

住民主体のエコミュージアム構想 地域に眠る「魅力」を発掘

福留 強(全国生涯学習まちづくり協会 理事長)

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箱物ではなく、まち全体を博物館と捉えるエコミュージアム構想。生涯学習にも通じるこの取り組みで、まちおこしに成功している自治体がある。地域に活力を与える日本版エコミュージアム構想とは何か。

眠る資源を発掘しまち全体を博物館に

日本の地方創生の一手となる取り組みの一つに、「エコミュージアム」が挙げられる。地域資源を活かしたまちづくりは、地域内の人が活発になり、雇用を生み、地域外からの人々を惹きつける原動力となる。

エコミュージアムは、1960年代にフランスで発祥した。エコロジーとミュージアムを合成した言葉だ。従来のミュージアム(博物館)は一つの建物の中で完結するのに対し、エコミュージアムは地域固有の自然、歴史、文化、伝統、伝説など地域に眠る資源を、“まちの魅力”として発掘し、現地で整備保存して、まち全体を博物館として捉えるものだ。

日本におけるエコミュージアム形成の推進者の代表的なひとりが、全国生涯学習まちづくり協会の福留強理事長だ。各地で地域資源を活かしたまちづくりを行い、さらに成功事例を他の地域へつなげている。まさにまちづくりプロフェッショナルだ。

出典:福留強氏資料より編集部作成

「エコミュージアムの形成は、行政主導型ではなく、地域住民、地域の事業者が一体となって行う活動です。それは身近なところに生活の糧を探し、学びながら発展させていく生涯学習と相通ずるものがあります」

福留氏は、当時の文部省に務めていた頃から、長く生涯学習普及に携わってきた。その活動の中で、「まち全体が学習できる環境づくり」を掲げる生涯学習は、まちづくりや観光誘客へ通じることに気がついた。

「地域の魅力を探すこと、それは生涯学習の一つです。それは箱物の資料館の中ではなく、様々なところに潜んでいます。自然や遺跡のよう視覚的なものだけではなく、歴史や伝説、また文化や地域特有のおもてなし精神も含まれます。それらを見出していくと、自ずとエコミュージアムができるのです」

主役は市民
行政はサポート役に

日本のエコミュージアム構想の先駆けとなったのは、1992年にスタートした岩手県三陸町の取り組みだ。当時の三陸町は、人口減少が進み、1万2000人いた住民が9000人にまで減少。一方で鹿が増えて約6000頭もいる状況だった。まちを活性化したいと思い、まちの人々は福留氏に相談をもちかけた。

全国生涯学習まちづくり協会 理事長 福留 強 氏

「『他所の人に対して見せるべきものを教えてほしい』と投げかけました。初めはすぐに出てきませんが、一緒に6ヶ月かけて地域を調べていきました。すると、食べ物、伝統、史跡、人材、昔話など次々と出てきました。地元の人であっても、意識をして積極的に探さないと、本当の魅力は見つからないものです」

それらの資源を「三陸まるごと博物館」と命名。さらに、まち全体を博物館と名乗るため、学芸員を配置した。エコミュージアムの学芸員は地元のガイド役ボランティア。講座で養成し、商店の店主、地元の料理人、鹿狩りの猟師まで、あらゆる人材が学芸員となった。

「地域でエコミュージアムを作り上げる時に大切なことは、地元の人が関わり、つながりを作ることです。行政が決めるのではなく、市民が主体となるべきです。行政の役割は、地域住民に対して機会を提供することだと思います」

本気で地域の活性化を担いたいと考える人物を発掘するため、福留氏は地域の公民館や大学で、講座やワークショップを行っている。参加者はエコミュージアムや生涯学習まちづくりを知り、地元の人が自分で地域の魅力を考える機会となっている。

“1日乗降客2人”の無人駅が観光名所に

エコミュージアムの事例として象徴的なのは、鹿児島県霧島市隼人町だ。福留氏の郷里でもあり、日本では先進的にエコミュージアムのワークショップが開催されていた。参加者に向けて「隼人町にはどんな資源があり、何ができるか」と問いかけをした。そこで、立ち上がった一人の主婦が考案したのは、地元の食材を使った駅弁だった。

隼人町の山奥に、JR肥薩線の嘉例川という駅がある。しかし、無人駅で当時は1日の乗降客数が2人程度と揶揄されていた。駅弁を買う乗客もいない状況だった。そこで、地元の人たちは嘉例川駅について調べ始めたところ、1903年に建築された九州で一番古い駅だと判明した。

まちの資源を発見した住民は、駅を地元の公民館のような存在として、集会やイベントを開催し、次第に地元の人が集まる駅になった。

するとJR九州が住民の想いに共感し、築101年目にあたる2004年、特急列車「はやとの風」が嘉例川駅に停車することになった。『九州で最も古い駅舎』の見学や記念撮影を目的に、地域外からも人が来た。それ以来、嘉例川駅は有名になり、日本各地から鉄道ファンが訪れる、一つの観光名所となった。

特急の停車の年に、ついに駅弁「百年の旅物語 かれい川」の販売を始めた。歴史情緒を感じさせる嘉例川駅の存在が世に知られると同時に駅弁も話題になり、九州駅弁グランプリで第4回から6回まで3連覇。今では簡単に手が入らないほどの人気の弁当となった。

一人の主婦のアイデアが、過疎地域に人を呼び、成功を収めた。「一見何もない嘉例川でも資源はある」と福留氏は話す。住民が地域資源を活用したアイデアを出し、周りの住民がそのアイデアを実現させるためのアイデアを考える。その一連の流れが生涯学習であり、まちづくりにつながっていく。

「生涯学習では単に個人の学びに留まらず、生活をどう豊かにするか考えることが重要です。『生涯学習とは利益につながること』だと言い続けてきました。商店街の人が1円でも利益を出すために工夫することも生涯学習、農家の人が少しでも多く農産物を作って販売することも生涯学習です。エコミュージアムも同様です。エコの部分の語源はエコロジーですが、私はエコノミーも含まれていると考えています。それは、まちづくりに経済的な発想は不可欠だからです」

鹿児島県霧島市隼人町の嘉例川駅は、かつて1日の乗降客が2名の無人駅だった。一人の主婦が発案した駅弁「百年の旅物語 かれい川」をきっかけに、観光名所へ様変わりした

観光誘客もハードではなく“ソフト”重視

三陸町や嘉例川のように、まちをエコミュージアム化するには何を始めればよいのか。

「探す、調べる、推理する、整理する、創造するという5つの言葉の頭文字を取った『観光のさしすせそ』が有効です。特に『創造』が重要で、何もなければ創るところから始めればよい。例えば、雪深い北海道壮瞥町では、“雪合戦発祥の地”を自称しています。そこから発展し、1988年には『スポーツ雪合戦』を始め、今では世界10ヵ国で開催されるイベントになっています」

まずは地域の価値を見出し、ブランド化することが重要だろう。嘉例川の駅弁のような地元資源を活用したアイデアもあれば、壮瞥町のスポーツ雪合戦のようなアイデアを生み出す方法もある。

「アイデアは一人で考えても、実現するのは難しい。まずは本気で考える地元の人が数人で集まり、お互いの考えを出し合う場が重要です。さらに、地元の魅力に気づくためには、外部視点の活用が効果的です。他の地域の事例や着眼点を聞くと、たくさんの気づきがあります。複数の地域の人が集まり、アイデアを出す研究会は特に有益な場です」

専門家によるワークショップやセミナーに出たり、全国に9000人ほどいる“地域アニメーター”、1000人ほどいる“まちづくりコーディネーター”のようなまちづくりに関心のある市民の力を借りるのも一つの策だ。

「地方は高齢化が進んでいますが、年齢は関係ありません。高齢者が多いことは、“知恵の宝庫”であること。豊富な知恵は、地方の一つの資源と捉えられます。これからのまちづくりは箱物などのハードではなく、まちの文化や歴史、食、伝統といったソフトが重要で、その知恵を使っていくべきでしょう」

食、おもてなしの精神、伝統継承といった、日本特有の魅力を発揮する時期がきている。地域の人々が推進していくエコミュージアムに、地方創生の大きな可能性が秘められている。

“雪合戦発祥の地”と称した北海道壮瞥町。スポーツ雪合戦を開始し、全世界にも広がっている 写真提供:北海道雪合戦連盟

写真提供:北海道雪合戦連盟

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