「損して得とる」の威力 無料化戦略で変わる観光地
観光による地方創生は、まず何より「人を動かす」ことが肝心。地方を体験し、そのファンになってもらうための導線の形成が求められる。その方法の一つとして、無料化戦略が注目を集めている。
「損して得とる」無料化戦略
東京駅、朝10時。平日にも関わらず、大きな貸し切りバスに、家族連れやカップルが続々と乗り込んでいく。約3時間の旅の行き先は、福島県いわき市のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」だ。電車ならば往復約1万2000円かかるところを、スパリゾートの宿泊客に限り、東京や神奈川など首都圏10カ所から毎日、無料でバスを運行している。
ハワイをイメージした巨大施設でプールやホテル、ゴルフ場などを備え、「フラガール」でも有名なスパリゾートは、バブル崩壊に伴い客数が大きく落ち込んだ。そこで起死回生の策として打ち出した一つが無料送迎バスだった。
無料化で、とにかく現地に来てもらい、スパリゾートの魅力を体感してファンになってもらう。浮いた交通費の分を施設で消費してもらい、トータルで収益をあげる。顧客接点を増やしてマーケティングの精度を上げる――。
こういった狙いは大当たりし、2013年度は日帰り部門150万人、宿泊部門は過去最高の45万9000人を記録。東日本大震災の危機からV字回復を成し遂げた。
フリーミアムで雪山に革命
基本サービスを無料で提供してユーザーを集め、プラスアルファの機能やサービスで収益を上げるビジネスモデル「フリーミアム」を観光業界に導入したのが「雪マジ!19」。19歳のリフト券を無料にして若者の集客を図るキャンペーンで、2013年度には172のスキー場が参加し、会員数15万人、雪山訪問人数延べ50万人を達成した。
仕掛け人のリクルートライフスタイルの加藤史子主席研究員は「日本には約600のスキー場があり、その半分は赤字経営と言われています。スキーやスノーボード人口を継続的に底上げするには、若者の参加率を上げる必要があります。そこで、ゲレンデで最も高価なリフトを無料にするという考えに至ったのです」と話す。
効果は絶大だった。2011年度に雪マジに参加した19歳のうち、翌年20歳になってゲレンデを再訪した割合は92%。そのうち50%以上が、5回以上訪問したのだ。雪山に大革命をもたらした雪マジは、ITなど他業界の視点やマーケティング手法を観光産業に導入することの可能性を示している。
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