2014年12月号

地方創生 2つの輪

地域力を結集させた産学公連携 知の創造拠点形成とネットワーク化

清成忠男(事業構想大学院大学学長)

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自治体、企業が地方創生の取り組みを構想するにあたり、何を主軸にすべきか。都市構想、地域活性、新規産業、人をつなげるネットワークの点から中小企業論の第一人者である清成忠男が提示した。

地方創生は構想から

地方創生の出発点は、全体構想と個別の地域構想の策定である。

全体構想は、国家ヴィジョンの視点からの構想である。国は地方から成る。国が地方のあり方を全体として見渡すことは当然である。マクロ的視点から地方のあり方を示す、いわば鳥観図というべき構想は重要である。

これに対して、個別の地域構想は、地域の視点からあるべき姿を地元が主体的に策定すべきものである。それは、地域の有利性を最大限に活用し、不利な点を克服するという性格を有している。もちろん、全体構想と個別構想を適切に調整する必要がある。

ところで、地域は、立体的にとらえるべきである。少なくとも、次の三重の構成が考えられる。すなわち、(1)ブロック別広域圏域(全国7〜8ヶ所)、(2)都道府県、(3)市町村。

広域圏のコアは、中枢拠点都市である。知的資源の蓄積を促進し、中枢機能を強化する必要がある。とりわけ企業の本社機能、金融機能、大学等教育機関の集積を一段と進める必要がある。また、県庁所在都市は、サブ拠点都市として整備すべきである。さらに、市町村は、基礎的な経済・生活圏として独自の魅力を備えることが望ましい。

これらの地域は、各レベルを超えて、それぞれがネットワークを形成することになろう。ネットワークは、特徴や機能に応じて、相乗効果を発揮することに寄与する。

こうした各レベルの地域の具体像については、論旨の展開とともに後述する。

課題は地方の疲弊の解消

地方創生の課題は、地方の活性化を進め、地方の疲弊を解消することにある。具体的には、人口の地方分散をはかり、地域間の諸格差を是正しなければならない。地方から大都市圏域、とりわけ東京圏への人口流出を抑制するとともに、人口の「地方回帰」を促進する必要がある。とくに若者が地方で就業し活躍することが望ましい。そのためには、地方に雇用の場を確保しなければならない。

さて、地方の経済振興には、三つの方法がある。(1)企業誘致、(2)財政による所得移転、(3)地元産業の振興、の三つである。

今日では、企業誘致は容易ではない。生産機能の国外流出が進み、空洞化が拡大している。知識集約的な企業の誘致となると、立地条件の変化を考慮しなければならない。

また、財政の所得移転は、補助金や公共投資等の財政資金を通して国から地方への所得移転である。これは、国の財政力の低下により、今日では限界に達している。

そうなれば、地元産業の振興を重視せざるをえない。ただ、現在は、産業構造の転換期である。産業の新陳代謝が求められている。

しかも、移入が移出を上回り、域際収支が赤字に陥っている地域が多い。所得が低く、雇用の機会が乏しいため、若者が流出し人口が減少する。その結果、高齢者の比率が上昇し、地域の活力は低下する。こうした悪循環を断ち切ることが切実な課題になっている。

それだけに、新産業の創出の重要性が増している。新産業の創出は必ずしも容易ではない。一定の時間を必要とする。「地方の時代」といわれた1980年代と比較すると経済成長率は低下している。2007年からは、国全体として人口減少社会に移行している。

にもかかわらず、産業構造の転換は、新しい事業機会を多様に生み出している。従来とは異なった手法で新産業を創出することは十分に可能であると思われる。

地方創生へインパクトをもつ「新産業の創出」

 

新産業の創出は、容易ではないが現実的である。成功すれば効果は大きい。所得効果、雇用効果が大きければ、経済自立が可能になる。ただ、持続性を有し、産業として一定の規模に達しなければ、効果は小さい。里山での事業に成功しても、産業化がされなければ人口減少を抑制できない。事業としての小さな成功は話題性に富み、それなりに評価できるが、地方創生へのインパクトは小さい。

さて、新産業創出の担い手は、企業家(entrepreneur)である。彼等は事業を起こす前に、事業を構想し企てる。まさに企業家である。そして、アイディアを市場に結びつけ事業化をはかる。その結果、起業する。企業家はリスクを引き受け、それを最小にすべく努力する。その手段は、的確な情報取得である。企業家は、シーズと需要を結びつけ、リスクキャピタルを調達して事業を展開する。こうした一連の活動が企業家活動(entrepreneurship)である。こうした活動にあたっては、チームを形成することが望ましい。

新産業を起こす事業体は、既存企業もあれば新しい独立ベンチャーもある。いずれも、企業家活動という点では共通している。革新的な既存企業は企業家を起用し、新規事業に挑戦する。また、企業家が企業や大学から独立し、ベンチャーをスタートする例も多い。こうした企業家活動が地域で活発になれば、地域に「企業家風土」が形成される。「企業家活動が企業家活動を呼ぶ」という状況が生ずるのである。かつてのわが国には、京浜地区、諏訪、坂城、浜松、東大阪などにおいて「企業家風土」が形成された。いま、あらためて、その現代版が期待される。

そうした現代版には、知的資源の活用という特徴がある。現代は、知識基盤社会である。それに対応した知的資源活用型の新産業がいま求められている。

ところで、産業は、市場から見て、グローバルな産業とローカルな産業に大別できる。前者は、貿易財産業であり、国際競争力が問題になる。これに対して、後者は国内需要を充足する産業である。

前者は、高い技術を集約した産業であり、生産性が高い。典型は、自動車産業である。また、後者は多様な消費財産業、小売業、サービス産業である。典型はヘルスケア・サービス産業である。なお、観光業や農業は両者にまたがっている。

地域のレベルや特徴に応じて、立地に最適な産業は異なるはずである。

産業の選択

 

新しい産業を起こすといっても、どのような産業を選択するかが問題である。地域資源を活用すれば良いというわけではないし、地産地消がベターだというわけでもない。

人口減少社会においては、イノベーションを進め、生産性を向上させることが不可欠である。新産業創出でイノベーションを実現しなければならない。

前述したように、現代は知識基盤社会である。知的資源の活用でイノベーションを促進するのである。図1は、スマイルの表情に類似した価値獲得のスマイリング・カーブである。縦軸は付加価値、横軸はヴァリュー・チェーンである。産業としては、ICT産業を想定している。もともとは台湾のパソコン・メーカーであるエイサーの創業者が発案したモデルである。欧米の研究者がこれを精緻化し、筆者も修正を加えた。意味するところは、カーブの両端において付加価値が高いということである。川上の事業構想、経営戦略、事業モデル開発、知財戦略、研究開発、製品開発、川下での顧客サポート・サービス、ソフト開発、複雑なシステム提供などにおいて付加価値が高い。このシステム提供とは、単独の産業を超えて、複数の関連産業をシステム化することを意味する。さらに、その延長上でより高次の問題解決をはかり、新しい産業を構想し創出することが可能になる。ヴァリュー・チェーンの最終段階において、まさに知的創造活動が盛り上がる。そして、低次の加工や組立てなど低付加価値の領域は外部化される。新興国は、こうした低付加価値域を戦略産業として重視することになる。

このように、スマイリング・カーブ論は経営機能という視点から知的創造活動の意義を明らかにし、先進国産業のあるべき姿を示唆している。知的創造活動が専門化し、外部化されれば、知的サービス産業が成り立つ。

しかも、こうした論理は、ローカル産業にもあてはまる。例えば、ヘルスケア・サービス産業において、スマイリング・カーブの両端の知的創造活動が強化されれば、現場の作業効率を引き上げ、全体の生産性が上昇する。こうした動きは、農業においても同様である。

いずれにしても、新産業の創出にあたっては、知的資源の活用が不可欠である。ただ、産業によって、必要とする知識のタイプは異なる。ここでは、三つの知識ベースを区別しておこう。すなわち、(1)分析的知識、(2)統合的知識、(3)象徴的知識、である。

分析的知識は、科学的知識であり、基礎研究によって生み出される。リニア型開発によって産業化が実現する。バイオ分野が典型であり、具体的には再生医療や創薬が挙げられる。形式化が可能であり、グローバルな普遍性をもつ。

統合的知識は、既存の技術や知識を統合し、複雑な産業のベースになる。知識の創造というより応用という色彩が強い。この分野の典型は、航空機、自動車などの組立産業である。医療と介護を統合したヘルスケア・サービス産業もこの分野に属する。

また、象徴的知識は、独自なシンボルによって表現される知識である。アートや文化が集約された知識である。こうした知識をベースにした産業の典型は、ファッション産業やアニメである。クール・ジャパンがこの分野に属する。

こうした三種類の知識の関係を示すと、図2の通りである。現実には、この三つの知識ベースはオーバーラップし、地域産業の多様化をもたらしている。

どのレベルの地域も、何らかの知的資源を意図的に蓄積する必要がある。知の創造拠点を戦略的に形成し、知的資源を活用して地域独自の産業を起こすことが望ましい。地域イノベーションの展開である。

地域力集結でイノベーション

新産業創出のプロセスは企業家活動であり、地方創生のためにはイノベーションを展開する必要がある。しかも、イノベーションを加速化しなければならない。こうした加速化の手段は、地域力の結集による知的資源の結合と活用である。産・学・公が連携し、クラスター形成またはネットワーク化をはかる。

クラスターは、イノベーションを目的とする知的諸機関の空間的集積である。大学、研究所、企業の研究開発部門などの集積を進める。クラスターにおいては、異質人財の交流をはかる。交流は知的摩擦を生み、知識創造が可能になる。創造を求めて知的人財が集まり、「接触の利益」が生ずる。ICT時代にもかかわらず、信頼に媒介される「フェイス・トゥー・フェイス」の関係が依然として重要なのである。こうして、「独創」×「独創」=「共創」という形で、より高次の知識創造が可能になる。さらに、クラスターにおいては、取引コストの削減という効果がある。これも集積のメリットである。

また、ネットワークは、知的人財や機関を対象とする。ベースは人脈である。必要に応じて接触をはかる。やはり知識創造に寄与する。

知の創造拠点としては、クラスターは強力な存在である。中枢拠点都市においては、大規模なクラスターが有効である。産学連携の活発化が重要であり、大学クラスターの形成も有力な手段である。

県庁所在都市においては、独自の専門的クラスターの形成は十分に可能である。国際拠点にもなり得る。

これに対して、ネットワーク化は、地方や小都市になじみ易い。戦略的にネットワーク化を活用すれば、外部の知的資源を大規模に活用し得る。この点で長野県飯田市の展開は見事である。

最後に、地方創生を先導するいくつかの例を紹介しておこう。クラスターについては、過去の政策の結果、本格化しつつある例が出始めている。神戸市の医療産業都市がその代表例である。

また、次世代の主要産業である航空機製造業においては、すでに全国に16ヵ所のクラスターが形成されつつある。

注目すべきは、「スーパー連携大学院」の活動である(図3)。2012年度文科省採択事業ではイノベーションを目的とした博士養成と地域再生のための産学官ネットワークを展開している。協働事業大学は電気通信大学他5大学である。

出典:スーパー連携大学院コンソーシアム資料

同様に宮崎県と県内企業、宮崎大学及び新潟大学は、東京の三鷹光器と連携し、ビームダウン式太陽熱集光装置を完成させた。

盛岡市では、大企業の工場撤退時に独立したアイカムス・ラボが岩手大学と連携して世界最小のプラスチック歯車を用いたマイクロアクチュエーターを開発、幅広い分野への展開を試みている。

その他、愛知県蒲郡市のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングは、産学連携で再生医療の産業化に挑戦している。

こうした例は、枚挙にいとまがない。今後、大学との連携で全国に広がる可能性が大きい。

盛岡市・40社のベンチャー企業登場大企業工場撤退がきっかけに

盛岡市からアルプス電気の工場が2003年に撤退。それまでのリストラも含め、地元出身の社員が製品開発、部品加工、組立などでそれぞれ起業した。大企業の工場撤退が40社余りの起業を生み、これらの企業が協力して新事業を展開している。開発担当の片野圭二氏はアイカムス・ラボを創業。岩手大学と連携し、世界最小のマイクロメカニズムの専門技術を応用して、ペン型電動ピペットなど医療機器部門で製品開発に成功。岩手県も同社に注目し支援している。

大企業の撤退が地元にダメージを与えたが、ベンチャー企業の登場が地元創生の劇的なきっかけとなっている。

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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