2014年6月号

日本を変える観光

タイ人観光客が大挙する町

河野裕喜(うたのぼりグリーンパークホテル 総支配人)

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空港や有名観光地からほど遠く、地域に観光資源もない小さな町にタイ人観光客が押し寄せている。そこには固定概念を捨て、ターゲットのお国柄に特化させたもてなしの形があった。

うたのぼりグリーンパークホテルで日本体験を楽しむタイ人観光客

タイ人が体験したい
日本を用意する

北海道の北端近くに位置する枝幸町歌登。かつてはスキー場やゴルフ場などレジャー観光で栄えていたが、バブル崩壊とともに衰退。人口も1962年に7000人だったのが2000年には1900人まで急速に減少し、過疎化の一途を辿っていた。1989年に町営で開業した「うたのぼりグリーンパークホテル」も大きな赤字を抱え、2007年より再建に着手。そこで総支配人として就任したのが、ホテルコンサルタントをしていた河野裕喜氏だ。

河野裕喜 うたのぼりグリーンパークホテル 総支配人

早速、河野氏は事前調査を行って再生事業に取り掛かるが、現実は想像以上に厳しかった。札幌からは280km以上、新千歳空港からは300kmも離れている場所。他と差別化ができる観光資源も乏しいため、国内の旅行代理店などからの反応は薄く「路頭に迷っていた」という。

そんな中、タイの旅行会社へコネクションを持つ人物を紹介され、河野氏は自ら直接営業を行った。「タイ人旅行者を札幌から280キロも離れた場所に連れて来るためには、どのようなリクエストにも応えると誘致をお願いしました」

北海道の自然環境を活用した健康づくりと海外向けのヘルスツーリズムなどに取り組む「NPO法人健康保養ネットワーク」に協力を仰ぎ、観光庁が行う「ビジットジャパン事業」など各種事業も活用しながらモニターツアーを実施。タイの旅行会社のリクエストをベースに、タイ人に特化した「おもてなし」を追求した。近隣に観光地がないため、その舞台となるのはホテルそのものだ。

旅行者には浴衣や着物を着用してイベントを楽しんでもらう

「タイ側から強く求められたのは、日本の文化を体験したいということでしたので、日本のお祭りをテーマにイベントを組み立てました。タイ人旅行者には浴衣を着ていただき、寿司握り、餅つき、流しそうめん、生花など35のプログラムを体験していただきます。『歌登の・北海道の』といったものではありません。中には『鮭の解体ショー』もあり、宴会場も屋台風の作り込みをしますので、日本人にとっては違和感が多いかと思います。しかし、これがタイ人が望む『日本』なのです」

イベント終了後は毎回旅行会社とミーティングを行い、新たなリクエストも収集。季節ごとにイベント内容を変えることで着実にリピーターを狙っている。

旅行者とともに楽しみ
歌登の元気を取り戻す

タイ人旅行者の受け入れに対して当初は従業員に戸惑いも見られたが、河野氏や副支配人らトップが先頭に立って取り組むことで積極性を引き出した。また、タイ人のインターン生を招き、タイの文化や国民性を知る努力も怠らない。

タイ人のリクエストに応え、にぎり寿司、生け花、餅つきなど日本の行事を凝縮させた体験イベントを提供

「日本人との一番の違いは時間感覚です。日本は時間に厳しく、到着時刻を過ぎると食事の用意ができない、宴会は2時間といった決まりが多い。しかし、タイ人は時間の感覚が緩やかで1時間以上遅れても普通です。また、旅行途中で楽しいことがあるとゆっくり時間をかけるので、ツアーの予定はあくまで予定でしかありません。ホテルやレストランは時間の予測が立たないので、その民族性を理解した上で受けないと問題になります」

そして、河野氏は、従業員が旅行者とともに「とことん楽しむ」ことも大切にしている。「イベント内容の一つ一つは何でもないことばかりですが、従業員がとことん付き合うことでタイ人の皆様に喜んでいただいていると考えます」。旅行者はもちろん、従業員の笑顔が目立つのも同ホテルの特長だ。

-30℃を超える歌登の冬体験イベント。「何もない場所」を逆手に取った取り組みだ

最近では町民説明会を開いて協力を仰ぎ、町民を巻き込んだ新たなイベントも実施。成功をおさめた。タイ人旅行者はホテルだけでなく、町にも元気を取り戻させてくれる存在となっている。

「日本人が考える押し付けの企画ではなく、先方の国の要望と、先方が思う非日常を聞き出して企画にすることが第一段階として大事だと思います。その基盤が整って、初めて地域の特性を生かしたイベントが実現できるのです。自分達がしっかりと関わって一から組み立てる。そうした『小さな一歩』が歌登式と考えます」

同ホテルへ訪れたタイ人旅行者数は、誘致初年となる2010年で283人、2011年は424人、2012年は621人、2013年は1300人を見込んでいる。旅行者数の増加により、タイ・バンコクと新千歳空港を結ぶ直行便が就航し、通年旅行者が訪れるようになった。今後は「台湾」からの旅行者をターゲットにしたツアー企画に取り組むという。もちろん台湾に特化させ、タイとは異なる内容を考案中だ。

ホテル外観

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