「先用後利」が築く「富の山」

富山といえば置き薬。それは、単なる薬の販売にとどまらず、日本経済の礎を築きあげてきた哲学によって、支えられてきた。今だからこそ学ぶべき、富山の置き薬が培ってきた「先用後利」の精神とは。

配置薬業は、包装用の紙器業や売薬版画などを製作する印刷業の発達をもたらし、後に薬のチューブやアルミ、プラスチック等の周辺産業の育成につながった

若い世代にはなじみ薄だが、年代によっては、「富山」と聞けば「置き薬」を連想するだろう。契約した家庭や事務所にあらかじめ薬を預け、定期的に訪問・点検し、使った分だけ代金を回収し薬を補う。「配置薬」と呼ばれる業態である。

それは、薬を販売するだけのビジネスではない。配置薬業に示される富山商人の哲学・商法は、後世にも影響し、日本の産業界を支えてきた。

「そうそうたる顔ぶれが、実は富山県出身です。安田財閥創業者の安田善次郎氏、浅野財閥創始者の浅野総一郎氏、コクヨ創業者の黒田善太郎氏、YKK創業者の吉田忠雄氏、ホテルニューオータニ創業者の大谷米太郎氏、丸井グループ創業者の青井忠治氏。彼らが掲げるビジネス哲学には、富山の売薬商人の精神が非常に強く表われています」

そう語るのは、書籍『富の山の人』を著し、自身も置き薬業2代目として活躍中の森田裕一氏だ。氏によれば、置き薬商人たちが長年に練り上げてきた商売哲学こそが、現代ビジネスに成功をもたらす「富の山」にほかならず、現在においても商売の指針になる可能性を秘めている。

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