「主客一如」の家訓で長期繁栄

繁栄を続ける老舗企業に共通しているのは、自社を取り巻き、自分たちを“生かしてくれている”すべての存在に、“等分の感謝を捧げる”「主客一如型経営」を実践し続けていることである。

古来、日本には、「人は、他の動植物の命をいただくことで、自らの生存を確保している」という考え方が存在する。だからこそ、人々は、自分たちを「生かしてくれる」大自然の恵みに、日々「感謝」を捧げ、あるいは「信仰」の対象にすらしてきた。

今や、世界共通語になりつつある「もったいない」というキーワードも、日本人のこうしたメンタリティの現われと言えるだろう。

そして、その根底には、実はある哲学的な思想が横たわっている。

「感謝」の対象としての森羅万象

「主客一如」の思想は、商いの哲学として老舗企業に代々継承されている

その哲学的思想とは、「主客一如(しゅきゃくいちにょ)」である。

「『主体』としての自分と、『客体』としての“自分を取り巻く森羅万象”は、不可分一体をなしている。自分という存在は、悠久の歴史や大自然の一部であり、その中で『生かされている』存在なのだ」

この姿勢は、より拡大した形で、「商い」にも反映されてきた。

すなわち、「『主体』としての自社と、『客体』としての自社を取り巻く森羅万象は、不可分一体をなしており、自社は、その中の一部として『生かされている』存在である。商いとは、そうした、取り巻く森羅万象に対して“等分の感謝を捧げる”営みである」と考える。

ここで言う「森羅万象」とは、自然環境はもとより、さらに、顧客・従業員・地域社会(取引先を含む直接・間接の利害関係者)を指している。

「商い」の哲学としての「主客一如」思想は、100年あるいは1000年を超える歴史を有する日本の老舗企業において、「家訓」として代々継承され続けているものであり、私は、こうした姿勢にもとづく経営を、「主客一如型経営」として識別し、注目している。

図1をご覧いただきたいが、この「主客一如型経営」の特徴は、「感謝を捧げるレベル(=価値創造レベル)」に関して、自然環境・顧客・従業員・地域社会という4つのファクターの間に優劣の差が存在しないという点にある。

たとえば、温泉宿の当主であれば、湧出する源泉が「生き物」であることをよく知っている。気象や地殻の変動で泉質や湧出量は変化するし、ましてや、多く使えば枯渇する。また、周囲の自然に手を加えようものなら、泉質が悪化したり、湧出量が減少したりする。だからこそ、彼らは、「湯守」として、時代を超え、源泉とその周辺環境を守り続けようとする。

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