海と生き、持続する街に

東日本大震災による津波で大きな被害を受けた気仙沼市。地域の資源や可能性を見つめなおし、新しい街づくりが着実に進んでいる。気仙沼市長の菅原茂氏に、これからの構想を聞いた。

6次産業化や魚の栄養素を活かした機能性食品など、漁業のイノベーションに取り組む

―気仙沼市は復興計画に「海と生きる」と明記しています。どのような決意の現れでしょうか。

気仙沼は水産業を中心として発展してきた町です。震災によって商圏が失われましたが、水産を主力として「海と生きる」ことは今後も変わりはありません。これからは産業の創造的復興として、「今までと違うものを作る」「違う売り方をする」「違う売り先を見つける」といった製造から販売にかけてイノベーションが生まれるような政策を打っていくつもりです。

震災復興は被災地が元々抱えている課題解決も伴うものでなければなりません。気仙沼で言えば、震災以前から起きている問題に人口減少があります。少子化が一番の原因ではありますが、高校卒業後に進学などで市外へ出た若者が、地元に働く場所がないため戻ってこない問題もあります。それを食い止めるには、気仙沼においても知識や技術を持った人が働ける場所を作ることが必要です。

そこで、例えば海の資源の機能を活用し、食品に限らず様々な商品を開発していく水産資源活用研究会を立ち上げました。こうした取り組みで、気仙沼に生まれた子どもたちが将来も生活できるような産業をどんどん作っていきます。

―気仙沼市の復興の現状は。

復興の柱は「住宅再建」と「産業の再生」の2本柱で進めています。そのどちらもが計画段階から施工・実施段階に入ったといえます。計画をしっかりと進めていきたいと思っておりますが、現状は人員が足りていません。復興事業に取り組んでいく市職員をはじめ、住宅再建に関わる工事の人手、また復興しつつある産業にも人が回らないことで、事業計画が思うように進展しないといった問題が出てきています。

人手不足は簡単に解決できることではありません。工事関係は地域以外の人の手に頼るほかないと思っています。産業については復興時の一時的な雇用から持続的・継続的な雇用へとシフトチェンジしていくことが重要になってきます。

都会の真似はせず、スローな街づくりで集客

―今後の都市のグランドデザイン、特に防災・減災の対策について教えて下さい。

現在、「気仙沼市の都市計画マスタープラン」を作成しているところです。防災・減災については復興計画の中でも最優先項目の一つとして「津波死ゼロのまちづくり」を標榜しています。

海岸に災害危険区域を設定し、広い意味での景観を大切に守りながら、必要なところにはレベル1規模の津波に対応する防潮堤や河川堤防の設置をします。居住地を内陸や高台にしてもらうよう促す政策を進めるほか、就労者が津波から避難できる体制などもしっかりと計画し「津波死ゼロ」を実現していきたいです。

街づくりや地域づくりは都会のまねでは意味がありません。同じテーブルでは勝てないのです。地域だからこその幸せ、暮らし、食、環境を追求していきます。

―昨年6月には、観光復興推進計画(観光特区)が認定されました。

人口減少は、短・中期の施策ではなかなか結果が出てきません。定住人口だけでなく、観光などの交流人口を増やすことにも目を向けなければなりません。そのためには地域らしさを作っていくことが必要です。

気仙沼市は2013年4月に、イタリアに本部を持つチッタ・スロー協会から、チッタ・スロー(スローシティ)の認証を日本で初めて頂きました。スローフード運動を長く続けてきたことが実を結んでの評価だと思いますし、このことも追い風にして気仙沼という地域の文化を広めていきたいです。

震災後に気仙沼市に訪れる人の数は、震災復興関係者や復興の様子を肌で感じたいといった人々を含めて相当数いるように感じています。市では気仙沼を応援してくれるファンクラブを設立し、市民番号が刻印された市民証を渡してメルマガを送り情報の発信も行っています。そういった活動を通して当市の復興を見守ってくれる層を増やすと共に、中長期的に滞在する人を増やし交流人口の確保を進めていきたいと思っています。

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