ねじの卸売り業者がオリジナル商品を販売 「ねじブロック」開発への思いとは

(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2024年10月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

橋本螺子株式会社の橋本秀比呂取締役会長

経営者の情熱を発信する“Project CHAIN”第47弾。今回は静岡県浜松市に本社を置く橋本螺子(はしもとらし)株式会社の橋本秀比呂(はしもと・ひでひろ)取締役会長にインタビューしました。同社は一般規格ねじの販売及びオーダーパーツ特殊ねじの製造販売を事業としています。成熟産業であるねじの卸売り業者であった同社が、オリジナル商品「ねじブロック」を開発したその背景と、思いを取材しました。

想像力で無限にひろがるねじの世界

ーーねじが主役のおもちゃ、ねじブロック。とても面白いですね。私の子どもたちもよく遊んでいます。作る過程が楽しく、できあがりもかわいらしく、私も子どもたちも大好きな玩具の一つです!

ありがとうございます。ねじブロックは、ねじとアルミのブロックを組み合わせることで動物やロボットなど、様々な立体を自由に想像して創り出せる玩具です。小中学校の総合学習や、科学館のワークショップなどで実際に子どもたちの様子を見ていますが、子どもたちが、ねじを回しつなげることで作品を創造する姿を見ていると、私もわくわくしてしまいます。

ねじブロックの作品が集まっている写真
ねじブロック

私たちの生活を支える「ねじ」。しかし・・・

ーーどうしてねじブロックを開発しようと思ったのですか?

私にとって、ねじはとても身近な物でした。私が1歳のころ、父がねじ問屋である橋本商店を創業しました。当初は自宅兼事務所でしたから、父がいろいろな会社を回って集めたねじが、自宅の玄関の靴箱の上に置かれていました。幼い頃の私は、そのねじを擬人化し、よく遊んでいました。

棚に積まれたネジが入った箱
倉庫内にはたくさんのねじが整然と並ぶ

一本のネジを手に持っている写真
素材も形も様々。多種多様のねじを扱っている

あるとき、ねじを手に取った子どもが、ねじを回さずに押し込もうとする姿を見て、危機感を抱きました。ねじはスマホなどの電化製品、自動車や建築など、生活のあらゆる部分で使われ、基礎部品として産業界を支えてきました。しかし、そのねじが、子どもたちにとって馴染みの薄い存在になってきている・・・そこで、ねじを主役に、子どもたちが楽しみながら「ものづくり」を体験できる製品が作れないだろうか、との思いから開発に着手しました。目指したのは、レゴブロックのように組み立てて遊べる玩具。ねじにジョイントを加えれば、立体物を作ることができるのでは?と、ねじ穴を四方に開けた立方体や、円柱形のブロックを(元)静岡文化芸術大の谷川教授らと共同研究し、製作しました。まず私が考えた作品が犬の太郎です。

犬の太郎の写真
犬の太郎

でも、これだけでは作品のレパートリーが広がらない。そこで、当時の社員にアイディアを募集すると、1週間後にはキリンやロボットなど、10点以上のデザインが集まり、製品化にこぎ着けました。
実際に、ねじブロックで遊ぶ子どもたちにも新たなデザインを募るなどして、今では作品のレパートリーが30種類以上に広がっています。顧客アンケートで、「ねじを全く知らなかった孫が『おばあちゃん、ここにもネジが使われているね。』と、生活の至る所でねじを見つけるようになった」という声も届いています。

ネジで作られたキリン・クレーン・桃太郎といった作品の写真
いずれも橋本螺子株式会社様HPより写真引用

ーー卸売業だった御社にとっては初めてのBtoCへの参入でしたが、効果をどのように感じていますか?

売上に締める割合は、大きくはありません。そもそも利益は二の次でした。大手雑貨店で常設販売する話もありましたが、ただ単に売ることが目的なのではなく、ねじの役割や重要性を知ってもらい、ねじで遊んでもらう、このセットを自分たちで広めたいと考え、お断りしました。
一方で、知名度はあがりました。お客様や同業者から「変わったことをしているね」と言われたり、ねじブロックをきっかけに、当社に就職してくれた従業員もいます。ねじ業界は成熟産業。高品質は当たり前で、差別化が難しいため、価格競争にさらされています。同業者同士で首を絞め合うことはしたくない、だからこそ独自商品の開発には、社長就任時から一貫して取り組んできました。

橋本会長が説明をしている様子
橋本会長

チタンに魅せられ医療分野に参入

ーーチタン製の部品で医療機器に参入しようと思ったのも、生き残るための危機感からですか?

そうです。社長業を引き継ぐときに、生き残れるか不安になり、何かやらなければと暗中模索している時に出会ったのがチタンです。軽くてさびないという素材の魅力に惹かれました。とはいえ、当時チタンに関する知識はなく、ネットで検索して、日本チタン協会があると知り、何度も電話で問い合わせると、その熱意を買われて、賛助会員になることができました。徐々に知識と人脈が増え、チタン製の試作品を展示会で紹介したところ、ある医療機器メーカーからチタン製の試作品作りを依頼されました。

ーー中小企業が医療分野への参入とはすごいですね!

医療分野は雲の上の存在で、当社のような小規模な会社にできるわけが無いと思っていました。ただ、チタンの特性は医療分野に適しており、医療部品にも活用されていることを知っていました。ハードルは高いものの、医療分野にチャレンジするのも面白いと突き進みました。医療機器製造許可をとるために、何度も県庁に足を運びました。
また、より医療現場のニーズに応えようと、浜松市内の企業4社で「協同組合HAMING(HAmamatsu Medical INovative Group)」を設立しました。当社単独で取り組める事業は限られていても、4社を母体にニーズに応じて地元企業に声をかけて展開すれば、さらに事業を拡大できる可能性があります。また、当時リーマンショックで落ち込む浜松の製造業を、医療で盛り上げたいという思いもありました。

ねじで広がる、つながりと夢

ーー社員、地域企業と繋がることで、歩んでこられたのですね。会長のこれからの夢は何ですか?

全国で気軽に出前ワークショップが開催できるように「ねじブロックワークショップ移動車」を作りたいですね。会社の一角に「ねじブロックミュージアム」を作って、いつでもねじに触れて遊べる場を作るという構想もあります。あとは浜松のパートナー企業とコラボして、この部品はA会社、この部品はB会社というように、部品を作っている企業のPRにもなるような、大人向けねじブロック作品を作りたいと考えています。

浜松には素晴らしい技術をもったモノ作り企業がたくさんありますから、浜松のものづくりを広く世界にPRしたいのです。私はねじ屋ですから、ねじの役割でもある「つなぐ」をキーワードにねじの流通以外にも、人や技術、企業をつなげ、新しいものを作り出していきたいと思っています。

さまざまな部品で作られたオブジェの写真
社長の夢:ねじだけでなく、それぞれの企業の得意な部品なども組み込んで、 浜松のものづくりをPR。

会社の外観
会社外観

ネジで作られたアート作品の写真
社内に置かれたねじアート作品からも、橋本会長のねじへの情熱と遊び心が伺える

元記事へのリンクはこちら

関東経済産業局 公式note