サーキュラーエコノミーの技術例と取り組む意義 花王とスタートアップのCurelaboに聞いた
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年12月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
資源を効率的に循環させて持続可能な社会を実現すると同時に、経済成長も目指すサーキュラーエコノミー(Circular Economy=CE、循環経済)。「大量生産」「大量消費」「大量廃棄」が前提のリニアエコノミーからの脱却をめざし、多くの企業がリサイクル技術の確立や他企業との連携などに取り組んでいる。CEへの対応は、企業規模にかかわらず大きな意義があるからだ。今回は、プラスチック包装容器の資源循環などに取り組む日用品メーカーの花王(本社・東京)と、サトウキビの搾りかす「バガス」を衣料用の生地に活用するスタートアップ企業のCurelabo(キュアラボ、本社・沖縄県浦添市)の技術や理念を紹介する。
花王…使用済み「つめかえパック」を水平リサイクル
「つめかえパック製品のシェアトップ企業として、パックのリサイクルの仕組みづくりにも主体的に取り組む責任がある」。
衣料用洗剤やシャンプーなどを数多く手がける花王の研究戦略・企画部の瀬戸啓二部長(リサイクリエーション担当)は、使い終わったボトル容器に中身を詰め替える「つめかえパック」で、使用済みのパックを新たなパックにリサイクルする取り組みについてこう話す。
花王は2023年5月、回収した使用済みつめかえパックから再生したポリエチレンを一部に使った「リサイクルつめかえパック」を初めて製品化し、数量限定で発売した。使用済みの製品を「同じ用途で再生利用」する水平リサイクルの一例で、花王と連携して資源循環を推進してきた日用品メーカーのライオンも、同様の商品を数量限定で販売した。
つめかえパックの構造と抱えていた課題
つめかえパックは厚さ0.1mmから0.25mmのフィルム状で、成分の約80%をポリエチレンが占めるが、洗剤などの内容物が温度や湿度、紫外線などの影響を受けないように、アルミやナイロン、PETなど様々な素材が用いられた多層構造になっている。商品名などの印刷でインクも使われている。
日本石鹸洗剤工業会の調査によると、住居用や洗濯用の洗剤、柔軟剤などの5品目の出荷量ベースで、詰め替え・付け替え製品の比率は80%を超えている。花王では1990年代からつめかえパックの開発に取り組んでおり、「つめかえパックを使うことでプラスチック量をボトルに比べ約75%削減できる。事業を拡大しながらも、プラスチック使用量は大きく増えることなく現在に至っている」(瀬戸部長)という。しかし、つめかえパックは複数の素材でできているがゆえに、水平リサイクルをしにくいという課題があった。花王は2016年に神奈川県鎌倉市で使用済みつめかえパックの回収を開始して以降、多くの自治体や企業、生活者の協力のもと、取り組みを推進。2021年に和歌山県内の研究所にリサイクル用のパイロットプラントを設置して、リサイクル技術の開発・検証を進めてきた。
異物をレーザーフィルターで除去、溶剤で無効化
花王が確立した一括リサイクル技術では、リサイクルつめかえパックの品質を左右する異物の除去に力を入れているのが特徴だ。例えば、異物の濾過(ろか)では、レーザーで微細な穴を開けた鋼材をフィルターとして使用する。温度や圧力の掛け方でフィルターを通過できる物質をコントロールでき、異物の量を減らすことができるという。それでも除去できなかった異物は、相溶化剤を添加して混合し、細かく分散させるなどして無効化を図る。
廃PET素材のアップサイクルで、アスファルト舗装の高耐久化にも貢献
花王はまた、連結売上高の約2割を占めるケミカル事業部門で、水平リサイクルに適さず廃棄されるPET(ポリエチレンテレフタレート)素材を活用し、アスファルト舗装の耐摩耗性などを高める改質剤を開発。2020年から道路舗装工事会社などに販売している。本来は捨てられるはずだったものに手を加え、付加価値の高い製品へ生まれ変わらせる「アップサイクル」の一例だ。
「ニュートラック5000」と呼ばれるこの改質剤は、粉砕した廃PET素材に特殊な脂肪酸やアルコールなどを配合し、独自の技術で化学処理した粉末状の物質で、従来の改質剤に比べて融点が低く他の舗装材料とよく混ざるのが特徴だ。アスファルトの舗装材料に1%配合するだけで耐久性を約5倍向上させ、路面がはがれたり削れたりすることで生じるアスファルト粉の発生を抑えるなどの効果ももたらす。また、舗装面積100m2あたり500mlのPETボトル約1430本分の再利用につながるという。
道路インフラの老朽化対応が課題となる中、「廃PETの有効活用と高耐久舗装」を両立すると同時に、補修の費用・頻度の削減に貢献するものとして期待されている。花王の機能材料事業部の長沢章裕シニアマネジャーによると、「ニュートラック5000」は、静岡県磐田市の市道や大阪府内の貨物センターなど、国内外の500か所以上で計40万m2以上のアスファルト舗装に使われているという。
社会にとって「なくてはならない企業」に
ESG(環境、社会、ガバナンス)を経営の根幹に据える花王は、「重要度が高い深刻な社会課題に対し、エッジの効いた独自の技術で解決を図ることで事業を成長させ、サステナブルな社会にとってなくてはならない企業になる」ことを目指している。サーキュラーエコノミーへの取り組みを継続・拡大していくためには、コストの低減や物流の効率化、より高度なリサイクル技術の開発などの課題があると認識する一方で、つめかえパックの回収に参加した生活者に分別意識の向上やリサイクルつめかえパック製品への高い購入意欲がみられたことに手応えも感じている。瀬戸部長は、「経済合理性が確立され、サーキュラーエコノミーが企業の競争力につながる社会になれば、企業同士が切磋琢磨(せっさたくま)してより推進するようになるだろう」とみている。
Curelabo…サトウキビのバガスを生地にアップサイクル
「沖縄本島の製糖工場でサトウキビの搾りかすのバガスが山積みされているのを見たとき、何か使い道があるのではないかと思った」と話すのは、Curelabo(キュアラボ)の山本直人CEO。キュアラボは2021年の創業で、サトウキビのバガスなど未利用の資源を原材料にした素材開発やアパレル製品などの企画・製造などを手がけるスタートアップ企業だ。
広告業界から転身、NEDOのベンチャー支援を活用
広告代理店に17年ほど勤めていた山本CEOは、地方の観光施設などのプロモーションを手がけているうちに、経済の活性化を通じた地方創生に関心を持つようになった。中でも、沖縄県の自然や景色に魅了され、同県の農家の約7割が栽培している基幹作物のサトウキビ産業に着目。製糖工場でサトウキビを搾ると全体の約25~30%がバガスとして排出されるが、ボイラーの燃料などに使用してもなお余剰があること、成分の大半が不溶性の食物繊維であることなどを知り、素材として相性がよく消臭機能もあることから、製品の高付加価値化がしやすいアパレル産業での活用を思い立ったという。山本CEOは、「アパレルで多用されるポリエステルはとても優れた素材だが、石油由来。沖縄の美しい海や空、豊かな自然を保つためにも、環境に配慮した、その地域で資源が循環できるビジネスを意識した」と振り返る。
山本CEOが提案した「さとうきびを活用した6次産業化プロジェクト」は2018年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「研究開発型ベンチャー支援事業」に採択され、事業化に向けた研究や調査などの活動費用が助成された。
パウダー状にしたバガスを特許技術で和紙糸・生地に
キュアラボでは、まず、乾燥させたバガスをパウダー状に加工し、繊維が強いマニラ麻に結合させて和紙を作る。この和紙を短冊状に割いて撚(よ)ることで紙糸にし、緯糸(よこいと)に使用したオリジナルの生地を製造する。綿と比べると軽い仕上がりで、高い吸水性と速乾性を併せ持つ生地になるという。デニムのような厚手のものからシャンブレー、天竺(てんじく)、鹿子など、用途に応じた生地を作ることができ、製造技術は日本のほか、米国、中国、タイで特許を取得している。
キュアラボは製造設備を持たない「ファブレス企業」で、例えば和紙にする工程は北海道の企業が、撚糸(ねんし)やデニム生地への加工は広島県福山市内の企業が担うなど、沖縄県外の企業とも連携している。
「起業したばかりのころは目に見えるモノや実績もなく、引き受け手を探すのは大変だった」(山本CEO)が、地域の活性化やサーキュラーエコノミー、アップサイクルに共感する企業が手を挙げてくれたという。
大手企業とのコラボ製品も CEへの取り組みはお互いのメリット
キュアラボは、バガスをアップサイクルしたジーンズやバッグなどを自社が運営する浦添市内の店舗「SHIMA DENIM WORKS」やオンラインショップを通じて消費者に販売する一方で、OEM(相手先ブランド製造)やコラボレーション製品の開発といった「B to B」ビジネスに力を入れている。これまでにも大手ビールメーカーとジーンズを開発したほか、イタリア・ミラノを拠点とするファッションブランドのコレクション作品にキュアラボの生地が使用されたなどの例がある。
大企業や欧州では環境への意識が特に高い。山本CEOは、「アップサイクルしたキュアラボの製品を使うことは、コラボ企業にとってはその話題性から大きなPR材料になり、キュアラボにとってはコラボ企業を通じて多くの消費者に我々の存在を知ってもらうことにつながる」と話す。サーキュラーエコノミーへの取り組みは、双方にメリットをもたらしているというわけだ。
ビジネスチャンスは全国にある
キュアラボによる植物残渣のアップサイクルは現在、新潟県や福島県のコメのもみ殻や、京都府の北山杉のおがくず、福岡県のトマトなど、全国21地域の30種に広がっている。山本CEOは「循環型経済のビジネスチャンスは日本全国にある。さらに世界にも」と語り、地域経済の活性化と循環型経済の進展に国内外で取り組む考えだ。
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