産業団地GXの現場 福井銀行がつなぐ行政企業連携とテクノポート福井の脱炭素推進

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年4月8日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

産業団地からはじめるGX|Vol.4行政と企業のあいだで――銀行が見ていた風景

今回は福井銀行。広大な産業団地「テクノポート福井」を中心に進む、福井銀行のGXの歩みを追いました。

福井銀行は、自らが技術を持って前に出るのではなく、行政と企業、制度と現場のあいだに立ち、関係者をつなぐ役割を担い続けてきました。

その視点から見た産業団地GXの現場には、表からは見えにくい調整や判断、そして次の一手につながる兆しがありました。

今回は、その中心にあるテクノポート福井での取組について、福井銀行の岩堀調査役にお話を伺いました。

1|坂井市との関係――行政の「覚悟」を、どう受け止め、どう支えたか

1-1|関わり方を見定める

福井銀行に坂井市から最初に声がかかったのは、令和6年7月頃のことでした。脱炭素化に取り組む自治体を支援する環境省の交付金事業「重点対策加速化事業」の申請に向けた相談であり、その文脈の中で、坂井市の北川課長から市内の産業部門、とりわけ市内にある産業団地「テクノポート福井」が明確に話題に上がりました。

岩堀調査役は当時、坂井市の北川課長の言葉が強く印象に残っていました。

「産業部門、とくにテクノポート福井について力を貸してほしい」

福井銀行が感じ取ったのは、相談内容以上に、行政が産業部門とりわけ産業団地の脱炭素化に正面から踏み込もうとしているという姿勢でした。脱炭素・GXという言葉を掲げるだけでなく、企業の集積地を明確に対象に据える。その覚悟が言葉の端々に表れていたといいます。

一方で、福井銀行は企業の投資判断や足下の経営環境を日常的に見てきた立場でもあります。行政の構想が、そのまま企業に届くとは限らない。その現実も、同時に意識していました。だからこそ、この段階で福井銀行が選んだ立ち位置は、前に出て主導する役割ではありませんでした。市の考えを企業が受け止められる言葉に整理し、企業の反応や温度感をできるだけそのまま市へ返す。その往復を回し続ける「間に立つ存在」であることを、この時点ではっきり意識していました。

企業との対話

1-2|現場をつなぐ金融機関

坂井市が、環境省の交付金事業である重点対策加速化事業の活用を検討する中で、市内企業との包括連携協定を発案し、締結を進めていきました。市内の産業部門、とりわけテクノポート福井を本格的に巻き込み、支援事業への申請に向けた足場を整えるために、行政として明確な枠組みが必要だ――その判断の延長線上に、包括連携協定が位置づけられていきます。

一方で福井銀行が強く意識していたのは、行政と銀行のあいだで方向性が共有できていても、事業者が議論の輪に入らなければ、取り組みは現場に根付かないという点でした。構想を描く側と、実際に投資判断を担う側との間には必ず認識の差が生まれます。その差を埋めずに協定や申請を進めれば、形式的な枠組みに終わってしまう。その危惧がありました。

このときの立ち位置について、福井銀行は次のように捉えています。

「主体はあくまで坂井市。その考えを、事業者につないでいく立ち位置でした」

福井銀行が担ったのは、坂井市が描く方向性と、企業が感じている現実とのあいだに立ち、意見をすり合わせる役割でした。具体的には、坂井市が先行して企業を訪ね、脱炭素に対する関心や懸念を丁寧に聞いて回る。その動きに呼応する形で、福井銀行も日常の取引で築いてきたネットワークを通じて企業と対話を重ね、企業側の受け止め方や温度感を行政側へ返していきました。

同時に、一方通行の情報伝達にとどまらないことも意識していました。行政が産業部門の脱炭素化にどのような問題意識を持ち、何を目指そうとしているのか、その思いを企業の立場で理解できる形に整理し、企業側へ丁寧に伝えていく。企業と行政の双方が相手の考えを理解したうえで議論できる状態をつくることが、間に立つ金融機関としての重要な役割だと考えていました。

坂井市による重点対策加速化事業の申請プロセスにおいても、坂井市として交付金をどう位置づけるのか、単年度で終わらせず次につなげるためにどこまでを構想として描くのか。そうした論点について、坂井市と企業が同じ言葉で議論できる状態を整える。その対話を支えることが、金融機関としての現実的な関わり方でした。

こうした試行錯誤の積み重ねを経て、包括連携協定は締結され、重点対策加速化事業も採択に至ります。その局面を振り返り、次のように位置づけています。

「協定も採択も、達成というより、ようやくスタートラインに立てたという感覚でした」

出典:坂井市HP ゼロカーボンシティの実現に向けた包括連携協定締結式の様子
出典:坂井市HP ゼロカーボンシティの実現に向けた包括連携協定締結式の様子

1-3|始動の手応え、見えてきた課題

令和7年6月のゼロカーボンさかいコンソーシアムのキックオフセミナーには、多くの企業が参加し、会場には立ち見が出るほどの人が集まりました。

ゼロカーボンさかいコンソーシアムは、重点対策加速化事業に選定された坂井市が、市内企業の脱炭素化を強力に進めるために新たに立ち上げた枠組みです。そのキックオフセミナーの場面は、福井銀行にとって、これまでの働きかけが現場にどう届いているかを確かめる機会でもありました。

これまでのセミナーでは、情報を受け取りに来る姿勢が目立つことも少なくありませんでした。しかしこの日は、企業が「自分たちに何ができるのか」「次に何を考えるべきか」を探しに来ている空気が感じられたといいます。質問の内容や休憩時間の会話からも、受け身ではない関心の高まりがうかがえました。

その感触を、岩堀調査役はこう受け止めています。

「行政と企業。会場全体から、取り組みに対する強い熱量が伝わってきたことが印象的でした」

一方で、令和7年度の取組を通じて、次の課題も明確になりました。各回終了後に実施したアンケートには、「経理部門との調整が壁になっている」「社内での優先順位付けが課題」「関心はあるが、動き出し方に悩んでいる」といった声が多く寄せられています。

これらの声から見えてきたのは、GXに対する消極姿勢ではなく、立場や役割による見え方の違いでした。現場担当者、企画部門、経理部門では、GXに対する関心や判断軸が一致しない。一律のアプローチでは限界がある段階に来ていると捉えています。

そのため令和8年度に向けては、業種や企業規模に加え、担当者の役割ごとに対象を分け、より実践に踏み込んだ場づくりを進めていきたいと考えています。キックオフセミナーで感じた手応えと、アンケートから見えてきた課題。その両方を踏まえ、福井銀行は産業団地GXを次の段階へ進める準備が整ったようです。

福井銀行提供:ゼロカーボンさかいコンソーシアム キックオフセミナーの様子
福井銀行提供:ゼロカーボンさかいコンソーシアム キックオフセミナーの様子

2|テクノポート福井との関係――どこで接点が生まれ、どう関係が深まったのか

2-1|GXを産業団地単位で考えることで生まれた企業との接点

福井銀行がテクノポート福井に立地する企業と、産業団地のGXにおいて具体的な接点を持つようになった背景には、令和6年度に近畿経済産業局が実施した「GXソリューション提案会」があります。本提案会は、産業団地におけるGXの検討を進める一助とするため、テクノポート福井に立地する企業を対象として開催したものです。

当日は、複数企業の連携によるGXソリューションを持つエネルギー関連事業者などが参加し、産業団地という集積を前提にしたGXの考え方や、具体的な取組事例について情報提供が行われました。各社からは、「産業団地でGXに取り組む場合、どのような選択肢があり得るのか」といった視点で、技術やサービスの紹介がなされました。

この提案会に参加していた岩堀調査役は、当時を次のように振り返っています。

「この提案会をきっかけに、テクノポート福井の企業の方々とGXについて話をする場面が増えていきました」

提案会を通じて、福井銀行は技術やサービスそのものに加え、産業団地を一つの単位・エネルギー需要の塊としてGXを検討するという視点に触れる機会が生まれました。また、団地内に関わる企業と直接意見を交わす場となったことで、テクノポート福井に立地する企業の中でGXをテーマとした議論の場が検討されていることも認識する場にもなったといいます。

団地内において、GXに関する意見交換や検討を行う場が共有されたことは、その後、関係者がGXへの関与を検討していくうえで、重要な要素となっていきました。

GXソリューション提案会の様子
GXソリューション提案会の様子

2-2|異なる立場が集まれる共通の場

同時期、福井銀行は坂井市とともに脱炭素化への対応を進めていました。その中で意識していたのが、行政側の動きとテクノポート福井を、無理なく同じ文脈で考えられる状態をどうつくるかという点です。

このときの考え方を、次の言葉で表しています。

「関係者が同じ場で考えられる状態をつくりたかった」

そこで行ったのが、ちょうどいいタイミングで募集があった経済産業省の支援事業「中小企業に対する支援機関等のGX支援体制強化事業」にテクノポート福井の立地企業に参加してもらうことでした。中小企業等向けGX支援体制強化事業とは、令和7年度に経済産業省にて実施した、中小企業を支援する「地域の支援機関(金融機関・商工会・自治体など)」の企業に対するGXの対応力を強化するGXに関する研修会事業です。

福井銀行はこの研修会事業を申請し、幹事企業の一つとして、坂井市やテクノポート福井に立地する企業向けの研修会を企画しました。ここで福井銀行が目指したのは、主導することではありません。企業の現実、行政の考え方が、同じ場で交わる状態を整えることでした。

団地内のGX推進は、温度感も進捗も企業ごとに異なります。だからこそ、銀行が何か答えを出すのではなく、「今、この企業は何に悩んでいるのか」「どこで立ち止まっているのか」を共有できる場を提供する。この距離感を、終始意識していました。

中小企業に対する支援機関等のGX支援体制強化事業の様子
中小企業に対する支援機関等のGX支援体制強化事業の様子

2-3|日常の対話から深まった関係

福井銀行とテクノポート福井の立地企業との関係は、日常の企業対応の中でも少しずつ深まっていきました。通常の取引や雑談の延長線上で、ある企業からこんな言葉が投げかけられます。

「GXに取り組んでいる県内のとある企業を紹介してほしい」

この一言をきっかけに、企業同士の紹介や情報交換が始まり、話題はエネルギーコストや排熱利用といった、より具体的な課題へと進んでいきました。その流れの中で、産業団地でのGXを検討できるエネルギーソリューション企業の紹介を行い、対話はさらに実践的なものになっていったといいます。

これらの動きは、あらかじめ描いていたシナリオではありませんでした。岩堀調査役自身、この出会いは偶然の側面が大きかったと振り返ります。しかし同時に、GXソリューション提案会をきっかけに生まれた接点や、GXを意識した日頃の対話の積み重ねがなければ起こらなかった展開でもありました。

テクノポート福井では現在、企業ごとの具体的なエネルギーニーズや、関与するプレイヤーが少しずつ輪郭を持ちはじめています。福井銀行が目指しているのは、その先頭に立つことではありません。人と人、構想と現場が自然に出会う場をつくり、その場に立ち、そして伴走し続ける。それが、福井銀行の一貫した立ち位置でした。

今後も福井銀行は、この姿勢をブレさせることなく、地域企業一社一社が置かれている現実に寄り添いながら、脱炭素化に向けた取組を支援し続けていきます。産業団地GXという挑戦を通じて、地域の産業競争力と持続可能性を高める。そのプロセスを、地域のハブとして支え続けることが、福井銀行の変わらない役割です。

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近畿経済産業局 公式note