舞鶴市 総合モニタリング情報配信システムの取組

京都府舞鶴市では庁内横連携でSDGs未来都市推進本部を設置し、地域課題の解決に取り組んでいる。防災・減災チームが担うのが、災害の被害軽減を目指す総合モニタリング情報配信システムの開発だ。逐次発信される中から、市民を正確に避難行動へ導くための情報の選別と発信方法を追求する。

京都府北東部に位置し日本海に面する舞鶴市は、東西2つの中心市街地と、大浦地区、加佐地区など山間部等の周辺地域で構成されている。関西経済圏における日本海側唯一のゲートウェイである「京都舞鶴港」を有し、その地理的優位性から日本における国防、海の安全、エネルギーの拠点となっている。南海トラフ地震など太平洋側における大規模災害発生時に備えた、リダンダンシー機能などを併せ持つ。

市街地と山、海の距離が近い地形が舞鶴市の特徴だ

業務全般を最適化し
オンライン申請もスムーズに

舞鶴市ではこうした地理的、歴史的背景を強みに、「ITを活用した心が通う便利で心豊かな田舎暮らし」を柱としたサステナブルな街づくりを進めており、2019年には全国10自治体の一つとして「SDGsモデル事業」に選ばれた。これをふまえ同市では、庁内29の課から招集した本部員51名により舞鶴市SDGs未来都市推進本部を設置し、「地域共生」「再生地域エネルギー」「経済産業」「行政運営」「防災・減災」の各テーマで地域課題の解決に取り組んでいる。舞鶴市総合モニタリング情報配信システムは、この取り組みの1つである防災・減災チームで開発を行っている。

産学官連携で
開発チームを組織

同市は市街地を挟む海と山の距離が近く、山間部での降雨が短時間で市街地の河川水位に影響をもたらす。2013年~2018年の5年間だけでも大規模な浸水被害が3回も発生し、その合計被害戸数は約2800戸となっている。「特に市街地を貫通する2級河川については、各河川の沿川ごとのリアルタイムな情報を収集し、タイムリーに避難情報を発令することが求められています」と舞鶴市SDGs未来都市推進本部チーム員で危機管理・防災課災害対策係長を務める水谷熱氏は説明する。

図1 河川の水域をリアルタイム監視

舞鶴市総合モニタリング情報配信システム表示画面。市内各所の河川の水位が把握できる

学官が連携する同チームではKDDIが河川の観測に必要な水位計や流速計、ドローンを準備。舞鶴工業高等専門学校がこれらの機器を活用して、河川の流出解析やドローンによる地形測量などにより沿川地域の避難判断に役立てる研究に取り組む。これに加え、「舞鶴版society5.0」の実現を目指し連携するオムロンソーシアルソリューションズ、そして国・京都府とのデータ連携や内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業との連携・調整を行い、最終的に市民への情報発信を目指している。

市民の適切な
避難行動につなげる

同システムの開発に当たって重視していることの1つが、市が情報を一元化し住民にとって必要なものを選別して、発信することだ。「現在、防災にかかわる情報は多くの機関が公表しており、またその情報種別は多岐にわたっています。住民が自らの判断で避難行動を行うには、どの情報が自分にとって必要な情報なのか理解してもらう必要があります」と水谷氏。

水谷 熱 舞鶴市SDGs未来都市推進本部チーム員
危機管理防災課 災害対策係長

システムの画面では、住民が画面を見た際に、いかに見やすいか、また画面から直感的に災害情報を理解しやすいかを重要視して、できる限り簡素な表示を目指している。警報などの気象情報や舞鶴市が発令する避難情報、避難所開設情報などについてはメッセージで見やすく表示する。また、GIS機能を利用し、住民がパソコンやスマートフォンで実際にこのシステムを閲覧している所在地から、近い地点の河川水位情報を表示。河川の水位の上昇に伴い、危険度が増すにつれて、アイコンの色が変化し閲覧者が直感的に判断できるようになっている。また、地図についても住民が閲覧している地点を中心に表示され、地図上からもアイコンをクリックさせることにより、先ほどの河川水位情報を閲覧することが可能となっている。

現在公開しているのは国や京都府、舞鶴市が計測している市内43カ所の水位計データだが、「今後、市内に設置している防災監視カメラ画像や、雨量情報、避難所開設情報など、市民の適切なタイミングでの避難行動につながる情報を吟味して選びリリースをしていきたい」と話す。

災害対応統合システムと連携し、
より精緻な情報提供を実現

舞鶴市は、内閣府が進めるSIPで開発中の市町村災害対応統合システム(IDR4M)の実証実験を行うモデル自治体にも選ばれている。IDR4Mは、市町村が避難判断を行う際、いつどこで災害リスクが高まるのかが分かる情報が不足していることや、災害リスクが高まるにつれて各方面から重要情報が同時に大量に入ってくるので処理しきれないことをふまえ、余裕を持ってエリアを絞って適切なタイミングで避難情報を発令できるよう支援情報を提供するシステムだ。

具体的には、AIを利用し洪水や土砂災害のハザード情報と人口動態や地理的要件など地域の脆弱性を総合してリスクを評価する。そして250mメッシュ単位、10分更新間隔で、6時間先までの災害リスクを自動的かつ迅速に提供する。舞鶴市では開発協議の中で、リスク評価を自治会単位で表示できるように依頼し、「これにより各自治会単位で適切なタイミングでの避難情報の発令が可能となると考えており、現在は舞鶴市総合モニタリング情報配信システムとの早期の連携に向けて開発を進めています」と水谷氏はいう。

今後の取組みでは、IDR4Mだけでなく、京都府が開発を進めている京都府水位・氾濫予測システムなど国や府のシステムと連携を進めたい考えだ。避難情報判断範囲、発令するタイミングを絞るなど精度向上を図るとともに、住民の避難行動が必要な際などにはLINEやメール等のプッシュ型情報配信を進めるなど「住民目線で分かりやすい配信をすることにより正確でタイムリーな情報の伝達につなげ、発信された情報によって住民の正しい避難行動につなげていきたい」と述べる。

舞鶴市総合モニタリング情報配信システムについては今後、道路の橋梁、トンネルなど設備系情報や、上下水道施設などの管理者用情報、農業、漁業等の一次産業に関わる情報、不審者情報や火災、有害鳥獣、道路の通行規制、イベント情報などの生活系情報についても情報を一元化し合理的、効率的な監視システムの開発を目指していく予定。「このシステムが、舞鶴市が掲げている『ITを活用した心が通う便利で心豊かな田舎暮らし』という将来像を実現させる一翼を担えれば」と水谷氏は希望を語った。