トークセッション 地域裨益型再エネで脱炭素を実現する秘策

国の「地域脱炭素ロードマップ」では、「地域共生・地域裨益型再エネの立地」を重点対策の1つに掲げ、全国で「脱炭素ドミノ」を引き起こそうとしている。これらの実現に向けて、求められる官民の役割や連携にはどのようなものがあるか、話を聞いた。

図1 日本の発電電力量の比率(2020年1-6月、%)

注:発電所内の消費電力を含む
出典:国際エネルギー機関(IEA)、Monthly Electricity Statistics(2020年9月16日時点)

日本の発電電力のうち、3分の2以上を石炭・石油・ガスが占めている。国のエネルギー基本計画では、2030年までに再エネの割合を36~38%にまで引き上げることを目標としている

環境省 地域脱炭素政策調整官補佐 飯野 暁氏
Looop 代表取締役社長 中村 創一郎氏
ファシリテーター 月刊事業構想 編集長 織田 竜輔氏

織田 地域脱炭素の実現に向けては、地域裨益型の再エネ立地が重要になります。その具体的なアイデアには、どのようなものがありますか。

飯野 地域裨益型の再エネとは、一言で言えば、再エネ事業の収益が地域にとどまることです。地域における投資で収益が出て、地域の中で所得として回していくことが一番の根幹です。具体的には、例えば、地域の未利用スペースの有効活用、地銀の出資、地元企業の施工、一次産業との組み合わせ、災害時の優先的な電力供給、といった方法が考えられます。

中村 そのような考え方は、素晴らしいものです。地域で所得を生み出すには、例えば、工業高校を卒業して地元で就職した人たちに、頑張って勉強して電験三種の資格を取得してもらうことも考えられます。そして地元の発電所の主任技術者になってもらえれば、私たちもそのための人材を東京で探す必要がなくなり、助かります。

もしくは、太陽光発電所の増設に関する提案を地元の方々が行ったり、地元に太陽光パネルのストックを沢山持つ会社があるのも良いと思います。そうなれば、災害などでパネルに不具合が生じても迅速に交換できます。メガソーラーが1日止まれば事業者側は大損害で、即時の対応が重要です。様々なビジネスチャンスがあり、それらを見つけて欲しいです。私たちも、地域の方々を支援していきたいです。

再エネにおける官と民の共創
ルールづくりに期待

織田 官民の共創は、どのように進めていくのが良いでしょうか。

飯野 官が相手にするステークホルダーは住民や市民であるのに対し、民のステークホルダーは消費者です。それらは実は同一で、官の仕事は、地域社会のビジョンや感覚を脱炭素に振り向けるよう持っていくことだと思います。その際、大事なのは住民の暮らしの困りごとを企業側に届け、つないでいくことでしょう。

また、自治体や役所の最も大事な仕事にルールづくりがあります。自治体は例えば、建築物のオーナーに再エネの設置や検討を義務づける条例を作ることもできます。

中村 官には、呼び水の仕事もあるはずです。例えば、「再エネポジティブゾーニング」などは典型的な事例です。賃料をいくらか高めに設定しても、環境アセスメントの手続きが減って住民の合意形成も既にできていれば、事業者には大きなメリットがあります。高めの賃料は、自治体の収益になります。また、税収が得られるよう、そこでは地元での登記を条件にするのも良いと思います。

他には、自治体が先導して発電所を造り、得られた収益を住民に還元するサービスもできるでしょう。住民のための施策を通じて自治体の収益性が上がり、脱炭素にもつながります。

地域脱炭素ドミノに必要な
「追加性」を織り込む事業

織田 「脱炭素ドミノ」を起こすためには、何が必要でしょうか。

飯野 ドミノでは1つの牌が倒れたら残りもパタパタと倒れていきますが、脱炭素ドミノでは1つ目が倒れても次へと一気に進む訳ではない。意識して推進する必要があります。その際のキーワードは「追加性」です。追加性とは、環境価値や排出削減に、さらに新たな削減を追加することです。

今後は、固定価格買取制度(FIT)に続く、フィードインプレミアム制度(FIP)も始まります。新しい再エネを増やす際、最も重要なのは民間資金を呼び込むことで、裨益のベースとなる地域の人々の出資や融資が必要です。その媒介になるのが、地域金融機関です。また、財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスの要素も考慮するESG投資への対応を加速させ、地域金融機関と中小企業がお金を呼び込むことも大切です

他方で、農山村で再エネ開発をするような場合の資源を都市部から持ってくることも重要です。その1つの手法として、再エネによる電気をふるさと納税の返礼品にすることが挙げられます。総務省も、そのための条件を明確化しています。他には、企業が自主的に二酸化炭素(CO2)の価格付けをする「インターナル・カーボンプライシング」も増やしていきたいです。

中村 私たちは北海道で、「再エネどんどん割」という料金プランを導入しています。初年度は通常の電気代ですが、2年目から下がっていき、最大で1kWhあたり10円の値引きになる設定です。電気代が安くなるだけでなく、その収益を使って北海道にどんどん再エネ発電所を造っていきたいです。

図2 再生可能エネルギーの導入ポテンシャル

注:市町村単位の電力エネルギー(太陽光[住宅用、公共系等]、陸上風力、中小水力[河川部]、地熱発電)導入ポテンシャル(設備容量)から年間電力発電量を求めCO2換算。市町村単位の熱エネルギー(太陽熱、地中熱)導入ポテンシャルは熱量ベースをCO2換算。洋上風力については、海上の風速計測地点から最寄りの市町村(海岸線を有する)に対して送電することを仮定して、各市町村の風速帯別の導入ポテンシャル(設備容量)から年間電力発電量を求めてCO2換算。市町村のCO2排出量から差し引いて図面を作成。CO2換算に当たり、電力エネルギーは各地域の電力事業者の電力CO2排出係数(トンCO2/kWh)、熱エネルギーは原油のCO2排出係数(トンC/GJ)を用いてCO2換算。資料:環境省

青色で示された再エネポテンシャルが豊富な地方と、黄~燈色で示されるエネルギー需要密度が高い都市の連携が重要になる

 

再エネ発電所は最初にコストがかかっても、減価償却が済めばコストをほぼ無料にできます。当社は、機会があるごとに、再エネが増えればコストが下がるとお伝えしておりますが、これはまさにドミノだと思います。こういったビジネスモデルを、広めていきたいです。さらに私たちは「同じ料金なら再エネの電気が良い」、理想を言えば「再エネの電気でなければ駄目だ」というところまで国民の感情を変えていきたいです。これもドミノで、そうなる瞬間があるはずです。

織田 最後に、一言ずつお願いします。

飯野 環境省が一番強調したいのは、脱炭素では地域価値向上のニーズがあるということです。そして価値向上に使える技術は何かと考え、進めていただくことが大切だと思います。第2にドミノについては、やはり競争だと思います。競争を広げ、最後に皆がカーボンニュートラルに達すれば良いです。第3に全員参加も大切で、地域の方々が頑張るだけでなく、大手企業のノウハウや資本力も重要です。全員参加なら、ESGの民間資金活用とも自然に結びつくでしょう。第4に、デジタルの活用や電気の使用量の「見える化」も進める必要があります。

中村 再エネのチャンスをキャッチして収益を上げるためには、ESGの資金や政府の支援など、色々用意されています。それらを活用してビジネスを構築することが、脱炭素につながるはずです。

※参加者の肩書は「自治体脱炭素オンラインフォーラム〜脱炭素ドミノに向けた官民共創の具体策編〜」が開催された2021年10月22日現在のものです

 

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