防災・減災 国土強靱化新時代 日本の災害対応DXの針路

激甚化・頻発化する自然災害に自治体はどう取組んでいくべきか。事業構想大学院大学の開催した「自治体防災・危機管理オンラインフォーラム」で、内閣府の山田剛士氏が、災害対応のデジタル化について、政府の取組みを紹介した。

山田 剛士 内閣府 政策統括官(防災担当)付参事官(防災デジタル・物資支援担当)

年々、激甚化・頻発化する自然災害。2016(平成28)年の熊本地震では、熊本を中心に多数の家屋倒壊、土砂被害により死者239名、重軽症者2780名の甚大な被害が出ている。2018年の7月豪雨(西日本豪雨)では、京都府をはじめ1府10県に特別警報が出され、死者行方不明者271名、重傷者138名の人的被害のほか、住家の全壊6783棟、床上浸水6982棟の被害が発生。翌2019年の台風19号では、電気や水道等のライフライン、道路や鉄道等のインフラ等、広い範囲で被害が発生し、経済活動にも大きな影響を及ぼした。

こうした自然災害に対し、政府では応急活動、被災者支援、復興復旧へ向けた指揮統制、対策立案、資源管理のほか、災害への備えや警報避難に関する発令など、様々な対策を取ってきた。今回のフォーラムで講演した内閣府の山田剛士氏は、政策統括官(防災担当)付参事官(防災デジタル・物資支援担当)として、情報共有や国からの物資支援を担当している。

物資支援、情報共有をサポート

物資支援では、都道府県及び市町村の物資拠点や避難所の物資情報(ニーズ・調達・輸送状況等)を国・都道府県・市町村で共有できる「物資調達・輸送調整等支援システム」を開発。2020年度より本格運用を開始した。

「近年は、通常の物資に加え、新型コロナウイルス感染症対策に必要な新たな物資も必要となっています。被災地の変化するニーズを踏まえながら、必要な物資の迅速かつ円滑な支援を目指していきます」。

被災情報などの共有については、第1期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)において、従来、紙地図や手書きホワイトボードで行っていた情報集約を電子地図上で行い、関係機関で情報共有する「SIP4D」を開発。現場に即した形で、国・自治体・民間の災害対応機関に必要な情報を提供できるようにした。

2020年の7月豪雨では、球磨村の孤立集落解消や、インフラ復旧支援などにこれを活用。2021年7月の熱海土石流災害では、土石流に係る被害範囲と被害を受けた家屋の地図情報を重ねて表示し、被災区域内の推定建物数を算出したりした。災害対応関係機関と共有し、被害を受けた住家の状況把握に活用されている。

ISUT(Information Support Team :災害時情報集約支援チーム)はSIP4Dに集約される情報を活用して災害ごとに専用ウェブサイトを開設し、情報を災害対応機関に向けて共有する。写真は2020年7月豪雨における熊本県災害対策本部会議での活用事例

熱海市の土石流災害の際に共有された被害区域・被害家屋の地図。住家情報と組み合わせ、被害を受けた家屋の位置を把握した

いつか起こり得る災害に向け

日本政府は、今後想定されるいくつかの大規模災害について、被害を想定し対策を強化している。

例えば、首都直下地震。死者・行方不明者が最大で約2.3万人、最大約61万棟の全壊焼失棟数という被害を予測している。また南海トラフ巨大地震で想定される被害も甚大だ。死者・行方不明者が最大で約32.3万人、全壊焼失棟数は最大約238.6万棟、資産等の被害は約169.5兆円になるという。

さらに、起こると非常に大きな被害をもたらすのが富士山の大規模噴火。降灰による道路の交通支障で、物資の配送困難、店舗等の営業困難が起こり、生活物資の入手が困難になる。降灰が0.3cm以上になると、電線の碍子(がいし)の絶縁低下による停電、給水施設などの停止による長期間の断水状態が続くことなどが想定される。

「これらは、いつか起こり得る災害です。政府としては、これらの災害にいかに対応していくかを検討しています。特に、災害対応のデジタル化に係る今後の流れについては、2021年5月、有識者からの提言をいただいています」。

巨大自然災害により失われる人命を激減させるという覚悟のもと、「事前防災・複合被害WG」「デジタル・防災技術WG」「防災教育・周知啓発WG」の3つのワーキンググループで検討が行われてきた。今回の提言は、3つのワーキンググループの提言をまとめる形で「防災・減災、国土強靱化新時代」として提出されたものだ。

デジタルを防災に徹底的に活用

「防災・減災、国土強靱化新時代」の中で、今回山田氏は「デジタル・防災技術WG」の提言にフォーカスして解説した。

同ワーキンググループは、未来構想チームと、社会実装チームからなる。未来構想チームでは、「遠い未来のデジタルを極限まで活用した真に先手を打つ災害対策と絶対的な行政機能の堅持」を目指した政策を検討。災害が予測できない、先が読めず対応が後手に回る、行政機関等の機能不全に陥る可能性があるといった課題に対し、3つの政策の方向性を提言する。

1つは、防災デジタルツインによる被災・対応シミュレーション。将来起こり得る様々な被災・対応の状況のシミュレーションを行う。2つ目は、リアルタイムの情報供給。災害が起きた時、被災者の安否情報やインフラ情報をリアルタイムで掴むための取組みを進める。3つ目が、究極のデジタル行政能力の構築。行政機関等のデジタル移転、ハイブリッド化により、被災しても行政が機能しなくなることがないようにする。

一方、社会実装チームでは、「デジタル改革関連法成立等で直ちに可能となる生命を守る災害対応力の飛躍的向上」を掲げ、救命・救助、災害関連死の防止を促進するための、3つの政策の方向性を示した。1つは、日本版EEI(米国:Essential Elements of Information)の策定・進化で、災害対応に必要な情報をデザインし蓄積すること。2つ目は、デジタル改革関連法による「個人情報法制2000個問題」(国の個人情報保護法に加え、自治体ごとに異なる個人情報保護条例が存在し、自治体間や組織間で連携が困難になる問題)解消を機に、防災に係る自治体の個人情報取扱指針の策定と徹底活用を進めること。3つ目は、防災情報の収集・分析・加工・共有体制を進化させること。

総合防災情報システム、SIP4D、データ統合・解析システムDIASなどを連結し、日本版EEI(情報項目、データ構造、共有ルール)をしっかり作り、土台としての「防災デジタルプラットフォーム」を構築した上で、災害時に実際に人々の命を救うような花や果実に繋げていく。これが、「デジタル・防災技術WG」の提言の全体像といえる。

「内閣府では今後、こうした提言に沿った形で、災害対応のデジタル化を進めていきます」。

また、内閣府では、先進的な技術を持つ民間企業と自治体のニーズをマッチングする官民連携プラットフォーム「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」を立ち上げている。第2回のマッチングの場を2021年11月に設ける予定。こうしたプラットフォームも活用し、自治体においても災害時のデジタル化を進めていく考えだ。