地域の森林管理の実態が明らかに 全国自治体・森林組合アンケート
月刊事業構想とSBプレイヤーズ株式会社は全国市町村の首長および森林組合組合長を対象に、地域の森林管理に関するアンケート調査を実施した。森林環境税が始まり森林管理に注目が集まる中で、森林の活用に向けた地域の現状を明らかにし、展望をとりまとめた。
■調査サマリー
・自治体、森林組合ともに人材育成が課題。森林資源活用の機運はあるものの、人手不足や知識技術の不足が悩み。
・86%の自治体が自治体有林を保有しているが、経営計画を策定している割合は54%に留まった。
・森林カーボンクレジットの認知は高いが、取組意向はそれほど高くない。森林カーボンクレジットを効果的に進めるには、地域の文脈に沿った一体的なアプローチが必要
■調査の概要
・調査名:第1回 全国自治体首長・森林組合長 森林管理アンケート調査
・調査目的:全国の自治体・森林組合の森林活用、森林カーボンクレジットに関するお取組み状況、ならびに、課題の把握状況
・回答対象:都道府県・市区町村の首長(送付数:1788件)、森林組合長(送付数:606件)
・回答数:首長アンケート609件、組合長アンケート165件 ※以下は2024年4月25日集計時の分析結果
・回答方法:メール、郵送、FAX、WEBを利用したアンケート調査
・実施期間:2024年3月~4月
・調査主体:学校法人先端教育機構「月刊事業構想」、株式会社先端教育事業、SBプレイヤーズ株式会社
1)市町村・森林組合の体制について
市町村の森林林業部署において、専任職員の配置は約16%、専門教育を受けた職員の配置は約13%とどちらも少ない。森林組合の内勤職員数は10人以下が最多。森林組合では、およそ半数が複数の市町村を管轄している。
2)人材育成・確保の取り組みについて
市町村は人材育成・確保に課題感を有しているものの、外部の支援人材である地域林政アドバイザーの活用は大半の市町村で行われていない。 森林環境譲与税を用いて、人材育成や担い手確保の対策を行っている自治体も多くない。
3)森林経営管理制度について
市町村の約88%、森林組合の約98%が、管内に所有者不明森林がある、または今後発生すると認識している。地域森林管理の最大の課題といえる。 森林経営管理制度に基づく所有者の意向調査の結果、市町村に委託希望があった森林については、多くの市町村が 林業事業体にあっせんする方針であることがわかる。一方、対応方針について検討中という自治体も多い。
4)自治体有林について
約86%の自治体が自治体有林を保有している。しかし森林経営計画を作成して、主体的に経営を行っている自治体は約24%に留まる。 信託や長期受委託の形で、中長期的に自治体有林の管理を行う森林組合は約18%であった。
5)森林カーボンクレジット制度について
市町村の約67%、森林組合の約89%が、森林経営計画を作成した森林から森林カーボンクレジットを創出できることについて認知していた。しかし、実際の取り組みや取組意向は、市町村で約51%、森林組合で約76%と認知度よりも低くなっている。
■調査サマリー
・自治体、森林組合ともに人材育成が課題。森林資源活用の機運はあるものの、人手不足や知識技術の不足が悩み。
・86%の自治体が自治体有林を保有しているが、経営計画を策定している割合は54%に留まった。
・森林カーボンクレジットの認知は高いが、取組意向はそれほど高くない。森林カーボンクレジットを効果的に進めるには、地域の文脈に沿った一体的なアプローチが必要
■まとめ
▶ 日本は国土の7割を森林におおわれた森林国であり、森林は多くの地域においてなじみ深い天然資源である。戦後に造林した人工林が収穫期を迎えているほか、観光や体験など森林空間を活用したサービスが増えるなど、近年、森林を地域資源とみなしてその活用を図る動きが増えてきた。加えて、世界的な脱炭素の潮流から、森林には吸収源としての価値も期待されている。このように森林をめぐって多様な期待が高まるなかで、市町村や森林組合はどのような役割を果たしうるだろうか。
▶ しかし、今回のアンケート結果からは、寄せられた期待を十分に果たしきれない市町村の現実が浮き彫りになった。主体的な森林資源管理には専門知識や技術が必要だが、専門性のある人材の登用や専任配置を行うことができていない。地域のパートナーであるはずの森林組合も、体制は十分ではない。多くの自治体が自治体有林を保有しているが、その活用は十分ではない。所有者不明の森林の発生についても懸念が大きい。
▶ このような現状を打破し、新たな一歩を踏み出すためのカギとして、人材育成、自治体有林、森林カーボンクレジットがあげられる。人材不足は市町村一般の課題だが、森林・林業行政部局には、 財源として森林環境税・環境譲与税があるほか、専門職人材の支援を受けられる地域林政アドバイザー制度がある。アンケートの回答結果からも、これらを活用して人材育成・確保に取り組む市町村が見られた。
▶ 自治体有林は自治体がその活用をデザインできる資産であり、市町村が描く地域森林のビジョンを具現化するためのパイロット森林になりうる。森林経営計画の策定や、森林組合との連携により、自治体有林の管理を通じて目指す地域森林の姿を描くことができれば、住民の共感や理解にもつながるだろう。アンケートの自由回答からは、寄付等を用いて所有者から森林を取得し、積極的な公有林化を進めている自治体も複数見られた。
▶ 森林カーボンクレジットは、森林経営管理に木材生産以外の経済的利益をもたらすほか、地域における吸収量を見える化し、地域内外の脱炭素化に貢献すると期待されている。しかし、地域によって森林資源の分布、所有形態、管理履歴などはさまざまであり、取り組みには地域に即した準備が必要である。認知が高くとも取り組みへと至らない理由がそこにあるものと推察される。
▶ 森林経営管理制度、森林環境税・譲与税、そして森林カーボンクレジットと、地域の森林管理を後押しするツールや制度が多く生まれているが、にもかかわらず課題感が多くある原因は、構想の欠如ではないだろうか。森林資源量の把握、森林経営の意向調査、森林環境税・森林環境譲与税の利活用、そして森林カーボンクレジットの取り組みが個別に進められているため、一体的なアプローチが欠如している。これらの取り組みを中長期的な視点で統合的に進めるためには、 地域森林管理の構想が不可欠だ。自治体には、安定的な財源を確保し、体制を整え、森林の価値について住民の理解と共感を深めることが求められる。地域の特性とニーズに即した構想を描き、持続可能な森林管理と地域経済の発展を目指すことが、今後の重要な課題といえるだろう。
(事業構想大学院大学 専任講師 田村典江)
調査内容に関するお問い合わせ
SBプレイヤーズ株式会社 広報担当
mail : sbpl_pr@softbankplayers.co.jp
TEL:03-6262-6092
HP:https://www.softbankplayers.co.jp/
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