ChatGPTを全庁導入 自治体業務を生成AIの力で改革

「変化を力に進むまち」を市の未来像に掲げ、自治体としては初めて生成AIの「ChatGPT」を全庁に導入した横須賀市。膨大な公文書を扱う自治体業務の効率化などに確かな効果が出ている。デジタル・ガバメント推進室の太田耕平氏が、導入した背景やその効果、今後の展望などを語った。

太田 耕平 横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室
課長補佐

自治体初、
ChatGPTを全庁導入

米Open AIが開発した「ChatGPT」は大量のテキストデータを使ってトレーニングされた大規模言語モデルであり、人間に近い自然な言葉で質問に答えたり、文書の作成・要約・翻訳などができるため「生成AI」とも言われる。2022年11月に公開されてからわずか2ヶ月でユーザー数は1億人に到達し、ビジネスでの利用も広がっている。

神奈川県横須賀市は2023年4月20日、自治体としては初めてChatGPTの全庁的な活用実証を開始した。導入の経緯について、プロジェクトをリードする横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 課長補佐の太田耕平氏は次のように語る。

「3月末、市長からChatGPTの活用を検討できないかという提案がありました。デジタル・ガバメント推進室でも『技術の安全性を確認した上で活用したい』と同じ思いだったため、事業化に向けた検討が一気に加速しました」

横須賀市は2023年4月20日、自治体としては初めて
ChatGPTの全庁的な活用実証を開始。
これまでも、市の未来像「変化を力に進むまち」のもと、
テクノロジーの進歩など、さまざまな変化を前向きに捉え、
デジタル・ガバメントやスマートシティなどを推進してきた

ちょうどOpenAIのCEOの来日やパナソニック等のChatGPT全社導入が話題になったタイミングであり、シティープロモーションの観点から「自治体初」を達成するために即座に導入を決定。4月18日の報道発表では、プレスリリースをChatGPTで作成するなどの仕掛けも注目され、NHKやCNNなど国内外メディアから取材が殺到した。

「一番のメリットは、報道を見たAI関連企業などから、ChatGPTの活用での協力の申し出や、共同開発の依頼を多数頂いたことです。市民の方からもポジティブな反応が多く、シビックプライドの醸成にもつながったと思います」

情報漏洩などのリスクも懸念されるChatGPTだが、横須賀市はなぜ導入を決めたのか。太田氏は「文章を扱うことができるAIだから」と理由を説明する。「横須賀市で1年間に文書管理システムに登録される文書の数は9万件にのぼり、その作成には多大な時間と労力がかかっています。また、公文書はわかりやすい文書で記録・発信することが求められますが、これはまさにChatGPTの得意領域です。自治体業務でChatGPTを活用できる可能性は高いと判断しました」

横須賀市では自治体専用ビジネスチャットツールの「LoGoチャット」とChatGPT をAPI連携させる導入手法をとった。これにより、3800人のすべての職員が使い慣れているインターフェイスで、LGWAN環境のままChatGPTが利用できるようになった。

「全職員を対象にしたのは意識改革が目的で、『まずは触ってみよう』という意識を醸成したかったからです。また、職員が私物PCで勝手にChat GPTを使ってしまうような、シャドーITの防止にもなります」

最大の懸念点である情報漏洩に対しては、横須賀市は3つの対策を講じた。まず、API経由で活用する点。OpenAIの規約にも記載されているが、API経由であれば入力情報が学習に使われることはない。次に、ChatGPTに入力情報を学習させない「オプトアウト申請」を事前に行っている。最後に、利用ルールを作成し、機密情報や個人情報を入力しないよう職員に徹底した。

利用促進ガイドを定期発行
8割の職員が効果を実感

ChatGPTの活用実証は4月20日から6月5日まで実施し、期間中に約1900人の職員が利用した。これはデジタル・ガバメント推進室の想定を大きく上回る数だという。

開始から1週間後に中間アンケート、実証終了近くには最終アンケートを実施。「中間アンケートでは多くの職員からポジティブな反応がありました。ただ、利用方法には課題があり、検索などChatGPTにあまり向かない利用をしていたり、質問の精度の低いことなどが把握できました」

その結果を受け、デジタル・ガバメント推進室はすぐにChatGPTの利用促進ガイド「ChatGPT通信」を5月15日に創刊、9月12日現在までに8号を発行している。正しい使い方や改めての注意事項、ミニ問題などを発信し、テコ入れを図った。

デジタル・ガバメント推進室は職員向けのChatGPTの利用促進ガイド「ChatGPT通信」を刊行

 

「ChatGPT通信」では正しい使い方や改めての注意事項、ミニ問題などを発信

「ミニ問題では『どのようにChatGPTボットに入力したらQ&Aが作れるか?』『メールの文案を作るには?』『お役所言葉を直すには?』などの問題を職員に考えさせます。表紙や編集後記を生成AIで作成するなど、私達も楽しくガイドを作っています」

こうした取り組みの結果、最終アンケートでは中間アンケートと比較して職員の利用頻度が大きく向上。8割の職員がChatGPTは業務効率の向上につながり、今後も利用したいと考えていることがわかった。

「文書案の作成、分析用Excelの作成、アンケート設問案の作成、自己理解のための壁打ちなど、職員は様々な用途にChatGPTを活用しています。利用実態やヒアリング結果等をもとに算出した業務短縮時間は、あくまで想定ですが、文書作成事務に限定したものだけで22,700時間と考えられます」

自治体業務に新たな
イノベーションを起こす

活用実証の結果を受けて、横須賀市は6月5日よりChatGPTを本格導入した。

続いて、THE GUILDの代表でnoteのCXOでもある深津貴之氏を横須賀市AI戦略アドバイザーとして迎え、より適切なAIの活用を推進している。具体的には、深津氏の監修による職員向けスキルアップ研修を実施。自主参加の研修にも関わらず400名近い参加者があったという。

「実証ではChatGPT-3.5-turboを使っていましたが、精度の改善を求める声があったため、より高度な文書生成や対話の能力があるChatGPT-4を希望者に導入しています。さらに、今後は市役所内でのプロンプトコンテストを計画しており、『本当に行政に役に立つプロンプト』を自分たちで発掘し、これまで溜まった横須賀市のノウハウを積極的に他自治体に展開していきたいと思っています」

8月29日にはnoteと横須賀市で生成AIの情報を全国に発信するポータルサイト『自治体AI活用マガジン』の運営を開始した。先進自治体の活用のノウハウや、試行錯誤の過程をオープンに公開していくプラットフォームとしての発展を目指す。

「全国の自治体の集合知の力で、新たなイノベーションを起こしていきたいと思います」と太田氏は意気込みを語った。