「人に優しいテクノロジー」で地域の課題解決

デジタル田園都市国家構想を背景に各地で様々なプロジェクトが推進されている。2016年に官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げた埼玉県横瀬町長の富田能成氏と、IoT・デジタルを活用して地域課題解決に取り組むCMエンジニアリングの池田和行氏に、官民連携におけるポイントを訊く。

外部リソースを安定的に
取り入れる仕組み

――「よこらぼ」の取組みと成果についてお聞かせください。

埼玉県横瀬町長 富田能成氏

富田能成氏(以下、富田) 当町は消滅可能性都市に数えられ、現状を打開するには既存の資源とやり方にとらわれず新しいチャレンジが必要と考えました。小規模な町ゆえの機動力と都心からの程よい距離感という強みを生かし、人・モノ・金・情報を町の外から呼び込むことで新たな化学反応を起こそうと「よこらぼ」を始め、まちづくりの実証試験などができるチャレンジのフィールドを提供しました。大手企業、ベンチャー企業だけでなく町民からもアイデアが出てくるようになり、7年間で234件の提案を受け、うち141件を採択しました。その結果、外部から安定的に低コストでヒト・モノ・カネ・情報が、継続的に入ってくるようになったこと、チャレンジの連鎖が起こり、それが町のカラーになってきたことなどが、成果だと思います。

――民間企業が提案したいと思えるように町で工夫したことがあれば教えてください。

富田 町の課題に合わせてその解決策を民間に提案していただくのではなく、皆さんがチャレンジしたいことを自由に提案していただき、町や社会のためになることであればお手伝いしますという手法を取りました。行政の通常運転スピードを少しだけ早くして民間のスピード感に合わせるなど、できるだけ民間に寄り添うように努めています。民間にとっても、「よこらぼ」を活用することで、町の場所、職員、町民の資源を使うことができるだけでなく、PRや社会的信用につながるなどのメリットを提供できます。

大切なのは失敗に寛容になり
次に結び付けること

――CMエンジニアリングでこれまで取り組んできたIoTを活用した地域課題解決の取り組みについてお聞かせください。

CMエンジニアリング ビジネス開発部 部長 池田和行氏

池田和行氏(以下、池田) 当社は長距離通信(最大約2kmの)が可能な無線モジュールを活用したIoTソリューションの提供に注力しています。温度や湿度、日照、土壌水分などセンサが取得したデータを遠隔地からモニタリングでき、北海道の玉ねぎ圃場では生産者の経験値・暗黙知を可視化することにより収量の均一化に貢献しました。また、千葉県のエビの陸上養殖施設では溶存酸素や水温、pHなどの各センサから水質データを取得し、遠隔地から水質のモニタリングを行っています。

富田 実証にはいろいろなことを試すR&D(研究開発)のフェーズと、それを商品にしていく実装のフェーズがあると思いますが、R&Dのすべてが実装につながるわけではありません。これまでの経験からトライアルの場数を用意すると同時に、失敗に寛容になり次の成功に結び付けていくことが大事だと感じています。

池田 いろいろ試していく中で最適な方法を見つけ出していくには元となるデータの存在が欠かせず、そこで貢献できると思っています。また、一度成功したとしても再現性がなければ意味がありません。その際にもデータが重要な役割を果たします。民間の立場としては、事業者に収益をしっかりともたらすシステムを提供し、双方にメリットが出る提案を心がけています。

当社が提供するIoTセンシングプラットフォーム(Tele-Sentient)は様々なトライアルを簡単に実現でき、データを収集する上で必要なシステムや仕組みを効率的に構築することができるという特徴があります。また、実験で得たデータを高齢者にもわかりやすく見える化することができるので、より地域住民に対しデジタル化の理解を深めることができると考えています。

――労働人口が減少していく中で地域が活性化し、持続可能な地域社会を構築するためには、デジタルを活用して業務を効率化するだけでなく、新たな価値を創出していく必要があります。そのために重要だと思われるポイントは何でしょうか。

富田 世代間のデジタルデバイド(情報格差)を踏まえると、高齢者比率が高い当町で一気にデジタル化に振ることはできません。従来のアナログと共存しながら、デジタル化の取り組みを着実に進めていくことが重要だと考えています。新しい技術の導入や制度改革の際には必ず説明責任が伴いますので、導入に当たっては「人に優しいテクノロジー」を使っていくことを意識しています。

池田 IoTで膨大なデータを収集し、インターネットや画像情報なども取り込みながら、AIなどを使って活用する時代に入っているわけですが、物事を前に進めていくには地域の方々としっかりつながることが重要だと考えます。また、これまでの取組みから関係するみなさまに関心を持っていただけないことには何も進まないことも実感していまして、富田町長がお話された「人に優しいテクノロジー」という考え方には非常に共感しました。テクノロジーを使っている感覚はないけれど、いつの間にかデータの恩恵を享受できるようなシステムができればよいと考えています。

平等な立場で意見を
言い合うことの大切さ

――今後の構想についてお聞かせください。

富田 地方自治体の行政運営を持続可能にしていくためにはデジタルの活用、そして民間との連携に加え、自治体連携によりスケールメリットを享受することも重要です。横瀬町の場合は、秩父地域連携がまず重要な基盤としてあり、それに加えて、地方創生における考え方やスピード感を共有できる小規模自治体同士の連携として、1月には福島県磐梯町、島根県海士町と連携協定を結びました。横瀬町の官民連携、磐梯町の自治体DX、海士町の移住定住施策などそれぞれの強みをシェアしていきたいと考えています。「よこらぼ」については、セカンドステージに向け、もっと踏み込んだ起業支援と、もっと住民を巻き込む仕掛けを加え、(消滅可能性都市の)未来を変えるところへ繋げていきたいと考えています。

池田 富田町長が述べた「連携」というキーワードは重要です。データを真に活用していくためには、その恩恵を享受する住民を始め、関わるステークホルダーが平等な立ち位置で意見を言い合えるコミュニティづくりが必要で、そのためにも自治体、地域の事業者との連携が欠かせません。さらに、コミュニティの成功事例だけでなく、失敗事例についても情報を共有し、課題や対策を横展開していくことも大切で、さらに大きなコミュニティをつくることができれば、より多くの自治体、住民がデータの恩恵を受けられるのではと考えています。

「よこらぼ」を介して地域の課題解決を目指す

 

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